第20話 魔道具5

 毛皮はルーベンさんが、肉はチャドさんが持って帰った。

 石は店主に渡し、私はイーエルの眼石一つと心石を貰う。

 今回は、私が連れて行って欲しいと言ったのでお金は頂かなかった。

 三人はそれぞれ欲しい物が手に入ったと大喜びだ。


 良かった。良かった。

 また、誘ってくれと言われてホッとした。

 正直、迷惑じゃなかったかなと思っていたからだ。


 店主に眼石をブレスレットに付けて欲しいと伝える。

 「ブレスレットは外して置いていった方がいいよね?」

 そう言って外しそうとしたら止められた。

 「言っただろ。魔道具は外さないように。これは二日程で作るよ」

 そう言って眼石を取った。


 店を後にして王宮に戻ると、池の傍で中野充が短剣を振り回している。

 何しているのかな?

 剣の練習?


 中野充の近くに降り、声を掛ける。

 「何しているの?」

 「やぁ」

 こっちを見て手を上げる。


 「剣は重たいから、短剣なら使えるかもって隊長に話していたら、サルナスが用意してくたんだ」

 マジか。

 欲しい物を言えば用意してくれるの?


 丁度そこに山形美緒がやって来た。

 「あれ?何してんの?」

 「俺は剣の練習だ」

 そう言って短剣を振って見せる。


 短剣は振れるのね。

 「山形さんは魔法の練習?」

 「まあね」

 あんた、ほとんど練習してないだろう。


 山形美緒が嫌そうに中野充を見ている。

 初めの印象って大事だな。

 「中野さん、私も短剣持ってみたい」

 そう言うと、彼は短剣を私の前に差し出した。

 「どうぞ」


 持って見ると、短剣でも重い。

 石が付いてなかったら、もう少し軽いと思うな。

 まぁ、振れないことはないが、持ち歩きたくないかな。

 映画みたいに、腰に付けたら腰が歪むわ。


 「これは振れて良かったね」

 「ハハハ、全然」

 はっ?

 全然って?


 「振ってたやん」

 「振れるけど、長くは無理やな。腕が疲れるから、俺は雷魔法の剣でいいや」

 あんた、ブレないな。

 ライフセイバー、一筋か。


 「私にも持たせて」

 山形美緒に短剣を手渡す。

 マジマジと短剣を見て、突然振り上げた。

 「あの木を切るわ」


 はっ?

 二人が『何言ってんだ』って思った瞬間、剣を振り下ろした。


 バキバキバキ!

 ドドーン!

 !!!


 振り下ろした先の木が遥か向こうまで切り倒される。

 「何、やってんの!」

 つい、大声が出た。

 ヤバい!

 メッチャ地響きしたし、倒れた木の音も凄かったし、直ぐに兵士が来るな。


 どうする?

 中野充を見たら、ポカーンと倒れた木を見ている。

 あかんな。

 張本人の山形美緒を見たら、こっちも放心状態だ。

 あかん、あかん。


 元に戻さなきゃ!

 壁も岩も木も同じ?

 回復魔法を木に向けて投げる。

 魔法が届いた所までは元に戻った。


 徐々に前に行きながら、回復魔法を飛ばし続ける。

 そんな私の姿を見て、二人が目を見開いて、更に驚いている。

 が、私は修復に集中していて、そんな二人に気付かなかった。


 丁度、全ての木を修復したところで、声が聞こえる。

 「こっちの方だ」

 「急げ!」

 間一髪!


 振り向くと兵士が数人やって来る。

 「勇者様?」

 「こんにちは」 

 笑顔で挨拶した、いや、したつもりだが、顔が引き攣っていただろう。


 「こちらで大きな音がしましたが、何かありましたか?」

 「何もないよ」

 と、答えて二人を見る。

 二人はまだ呆然としている。

 おい!


 「しかし、凄い地響きがありました」

 「大丈夫よ」

 そう言って、二人の腕を掴んだ。

 二人はゆっくり私を見る。


 「それじゃ、私達は部屋に戻りますね」

 二人を引っ張ってその場を離れる。

 ヤバい、ヤバい。

 絶対、変に思っているよな。


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