第18話 魔道具3

 「こんにちは」

 「やぁ、いらっしゃい」

 店主に濃くなったトシンの心石を見て貰う。

 「トシンの心石か。討伐して時間が経って鮮度が落ちた状態だ」


 やっぱり。

 鮮度が落ちると魔道具としての質が落ちると言われ、装飾品に加工しても安くなるそうだ。

 鮮度って重要だな。


 この眼石や心石は火や水等、初級魔法が一つ付与出来ると教えてくれた。

 初級過ぎて使う者はいないらしい。

 装飾品にするからと、石は全て買い取ってくれる。


 肉も見て貰ったが血抜きをしていないから、鮮度が落ちて売りものにはならない。

 肉は自分で食べて、毛はゴミ行きだ。

 前足は医務所で使うから換金所に持って行ったらいいと言われ、店主が前足をカットして袋に入れてくれる。

 ありがとうございます。


 前足の爪が薬に使われらしいが、何の薬になるのかな?

 回復士が治療した後の薬?

 体力回復とか魔力回復とかの薬の可能性もあるな。


 考えながら店主が石の代金を置いたカウンターの金額を見ると、鮮度が落ちた石も換金してくれている。

 申し訳ないと伝えるが、討伐品は換金対象物でお金は鮮度に応じた料金だから受け取るようにと言われた。


 これが、この世界の常識なのか。

 安く叩かれる店もあるから、換金所に持って行くのが確かだとも教えてくれた。

 どの世界にも悪徳業者っているな。


 血抜きを覚えたら、新鮮なお肉の状態で換金できる。

 店主に相談すると、一緒に討伐へ連れて行ってくれると言われたので、有難くお願いする。


 今日、討伐に行って躊躇したことがある。

 お金と一緒に生肉を収納ボックスに入れるのは汚い気がしてできず、結局袋の方に入れて持って帰ってきた。

 ブレスレットにもう一つ生肉専用の収納ボックスが欲しいな。

 店主に、このことを相談してみる。


 「付けられるよ。この先、付与したくなる魔道具が増えると思って、石が追加出来るようにブレスレットを作ったからな」

 流石店主!

 グッジョブ!!


 肉は持って帰っても料理しないから店主に引き取って貰おうとしたが、彼も困ると言う。

 「母さんの所に持って行ったら使ってくれるよ」

 女将さんか。

 確かに。


 「そうするわ。ありがとう」

 お礼を言って店を出た後、換金所に寄ってから宿に向かう。

 宿のカウンターに討伐したトシンを置く。 


 「どうしたんだい、これ」

 「討伐したけど血抜き出来なくて……。鮮度が落ちたから良かったら食べて欲しいなと思って」

 「有り難いけど、換金所に行けばいくらか換金して貰えるよ」

 知っている。


 さっき、換金所でお肉も買い取るか聞かれたけど、かなり安かったから、断ってきた。

 「やっぱ、鮮度が落ちているのは困りますよね?」

 申し訳無さそうに聞いた。


 「とんでも無い。有り難いよ。この鮮度なら店でも出せるよ。うちが、買い取ろう」

 「買い取る?いやいや、食べて欲しくて持ってきたから皆で食べて」

 品質の悪い物を買い取って貰うなんてないな。


 「そうかい?じゃ、頂くとしよう」

 笑顔で受け取ってくれて、良かった。


 「料理長の所に持って行っておくれ」

 「ありがとうございます」

 頭を下げて厨房に行く。


 忙しそうな料理長を呼んで貰って肉を渡す。

 てっきり嫌な顔をされるか、怒られると思ったが肉を見て凄く喜んでいる。

 しかも、直ぐ料理するから食べて行くようにと言うので、お言葉に甘えて隣の部屋のテーブルに座る。


 この宿は夜、宿泊客の為の食堂をしている。

 宿は寝るだけの利用にしているから格安で、食堂の料理は品物によって値段が違うから、お客のお財布事情で食べられる。


 女将さんが、『旅で疲れているのに、食事に出かけるのはしんどいだろうから、宿で食べられると楽だろ』と話しているのを聞いたことがある。

 女将さんっていい人だ。


 ここの料理は美味しいと評判らしく、この食堂目当てに泊まる客が多く宿はいつも満室状態だ。

 私達が食べている賄もこの食堂で出される料理である。

 スタッフの私達はその日入った食材で作った料理が出されるから選ぶことは出来ないが、どれも美味しい!!


 トシンがどんな料理になるのか楽しみだ。

 料理を待っていると誰か入って来た。

 「あれ?どなた?」

 振り向くと、若い女性が入り口に立っている。


 「お疲れ様」

 彼女に頭を下げて挨拶し、朝働いている者だと話す。

 「朝?じゃ、魔法で洗濯するのを見たことある?」

 えっ?


 「凄いよね。魔法で洗濯することを考えるなんて」

 まてまて!

 えっ?何?

 私の魔法広まっている?

 

 「魔法で洗濯したら楽だなって思って」

 警戒しながら話す。

 「楽でも出来ないよ。それだけ、魔法レベルが高いってことよね。魔法、使いこなしているわ」

 レベル0だけど。


 「それじゃ、私、仕事あるから行くね」

 「お疲れ様」

 私が頭を下げると、彼女は手を振って出て行った。


 誰だったのかな?

 名前聞いてないし、私の名前も聞かれなかったな。


 暫くして、料理が運ばれて来た。

 「ゆき、出来たよ」

 「ありがとうございます」

 料理長がテーブルにお膳を置いてくれる。


 いい匂いのステーキに、お肉ゴロゴロのスープだ。

 美味しそう!

 ステーキを一口!

 柔らか〜い。

 肉汁最高!


 トシンの肉って鳥肉に近いな。

 今度はこれで焼き鳥を作って食べたい!


 元いた世界の料理が懐かしいよ。



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