第13話 町3

 翌日出勤するとセドルが従業員用の入り口に立っている。

 「おはよう」

 「おはよう」

 声を掛けられたので挨拶を返す。


 「今からオオグレの森に行こうと思っている。一緒に来てくれないか?君の回復 魔法の力を貸して欲しい」

 はっ?

 いやいや、今から仕事だし。


 「仕事なので無理です」

 サッサとその場を離れようと早足で立ち去る。

 「待って!母には許可を貰った」

 そう言って腕を掴まれる。


 母には許可を貰った?

 何言ってんの?

 そんな突然『休みます』って言って休めるような仕事はないのよ。


 一緒に働く同僚に迷惑かけるとか考えないのかな?

 常識やん!

 それに仕事しなきゃお金も稼げないやろ。


 腕を払って女将さんの所に行く。

 勿論、バカ息子のセドルも後を付けて来る。

 「女将さん。彼が森に誘って来たけど、許可しました?」

 「あぁ、したよ」


 したの?

 何で?

 「今日はセドルと言ってやっておくれ。今日の分の賃金は払うから。それと、これは昨日の治療費だ。本当に息子を助けてくれてありがとう」


 治療費?

 あかん、あかん。

 絶対あかん。

 お金なんか貰ったら免許なしで医療行為したことになる。


 無免許医師で捕まる?

 捕まったら無断外出がバレ、王宮に監禁されるかもしれない。

 いや、処刑される可能性もあるな。

 女だし、不味いことには違いない。


 「お金は要りません。私、回復士じゃないので」

 そう言って断る。

 「そういう訳にはいかないよ」

 女将さんは袋を差し出して私の手にのせようとしてくる。


 「そういう訳でいいです」

 手を引っ込め袋が置かれるのを回避する。

 「私、人に回復魔法を使ったのは昨日が初めてだし」

 「昨日が初めて?」

 そこに居た全員がハモる。


 「あんた、昨日初めて回復魔法使ったのかい?」

 「壁とか岩に使ったことはあるけど」

 苦笑いして答える。


 壁と人じゃ違うし、女将さん達も気分悪いよね。

 『すいません』と、心の中で謝る。

 「宝の持ち腐れだな」 

 セドルがボソッと言う。


 ほっとけ。

 仕事に行こうとその場を立ち去ろうとしたら、セドルが腕を掴む。

 いい加減にしてよ!

 手を振り払おうとしたら


 「頼む」

 頭を下げて来た。

 「どうしてもあんたの回復魔法の力を貸して欲しいんだ」

 そう言われても。


 困っていると、女将さんも頭を下げてきた。

 「昨日のことがあるから一緒に行ってやっておくれ。頼むよ」

 仕方ないな。

 諦めてセドル達と森に行くことにした。


 ユールイジ団は昨日あった五人が所属する集団だ。

 この町の商品を地方に配達し、地方の商品をこの王都に届ける仕事をしている。

 早い話が運送会社ってことか。


 その運送業の合間に森で野獣を倒す仕事をして、業者に売っているらしい。

 昨日も帰りにちょっと野獣を狩って帰ろうとして怪我をしたそうだ。

 何やってんだか。

 

 町を出て暫く馬車を走らすと一面何かの植物が広がり、その先に森の入り口がある。

 森の奥へ進み開けた場所で、馬車を降り野獣を探す。

 セドルと昨日セドルの部屋にいた男性、メイナードが森の奥に歩いて行く。

 「大丈夫なの?」

 「問題ないですよ。二人は足が速いので」

 そういう問題?


 ここに残った三人は剣や矢を持って野獣に備えている。

 暫くすると『バキッ』と枝が折れる音がするので、その方向を見ると二人が走ってこっちに向かって来る。

 その後ろを巨大な生き物が四足で追いかけて来ている。


 何あれ? 

 野獣と言うより魔獣?

 全身短毛に覆われ、顔は山羊?に似ているけど可愛くはない。

 目は緑色に光っていて、口からは明らかに牙と解るものが出ている。


 走って来る四足は太く、爪は鋭い。

 その野獣に向かって誰かが矢を放つ。

 見事額に当たり、野獣は地面に倒れる。


 えっ?

 もしかして弱い?

 昨日の野獣と違うのかな?

 困惑していると、五人は野獣の解体を始めた。


 目にナイフを突き立て目玉をくり抜く。

 血抜きをしたり、皮を剥いだり、心臓の石を取り出す。

 心臓の石?

 目も石だ。


 解体をボーと見ていたら、地面が揺れた。

 後ろから、枝が折れる音がする。

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