第12話 町2
朝から二階奥の客室で女将さんが大声で誰かと話をしている。
「どうしたの?」
夜勤の職員に聞く。
「朝方、ユールイジ団が大怪我して帰って来たのよ。今、回復士が治療しているの」
ユールイジ団?
治療?
「お願いします。もう一度診て下さい。」
女将さんが誰かにすがるように頭を下げながら階段を降りてくる。
「もうあれ以上は無理です。王宮の回復士ならもう少し回復させられるかもしれないが、私にはここまでが限界です」
「頼みます。もう一度だけお願いします」
「すみません」
そう言って男性は宿を出て行った。
何?
女将さんはその場に泣き崩れる。
旦那のケイブさんが女将さんのそばに寄り抱き締める。
彼も泣きそうだ。
大怪我をしたと言っていた。
気になるので二階奥の部屋に行ってみると、階段を上がった直ぐの部屋から泣き声が聞こえてくる。
そっと扉を開けて中を覗いてみる。
ベッドサイドの椅子に二人の男性が座って泣いている。
二人は腕や顔、足に包帯を巻いており、ベッドに寝ている人は見えないが二人の雰囲気から意識がないと思われる。
治療と言っていたな。
回復士とも言っていた。
回復魔法で治すのか。
回復魔法?
そういえば私、回復魔法使えるかも。
壁や岩しか直したことないけど、本来は人に使う魔法だよね?
そっと指を動かし、回復魔法を彼ら三人に向けて投げてみる。
投げる事を練習して良かった。
彼らの体が白い光りに包まれ、その光が体に吸収されていく。
「あれ?」
「ん?何だ?」
椅子に座っている二人が自分の体を触りながら見ている。
その時ベッドで寝ていたもう一人が起き上がり、二人は驚いて大声を出す。
「ラマイル?」
「ラマイル!!」
「あれ?俺?」
起き上がった彼も自分の体を触りながら全身を見る。
どうも治ったようだ。
部屋では三人抱き合って喜んでいる。
じゃ、奥の部屋を覗いて見よう。
先程と同じく、そっと扉を開ける。
腕に包帯をした男性がベッド端に座っている。
さっきと同じでベッドに寝ている人は意識がないようだ。
指を動かし回復魔法を彼らに投げる。
白い光に包まれて彼らの体に吸収されていき、さっきの彼らと同じで男性は自分の体をキョロキョロ触りながら全身を見ている。
ベッドの彼も突然起き上がり前の壁を見て固まる。
突然起き上がった彼を見て、ベッドの端に座っていた彼が大声を出して驚き床に尻餅をつく。
大声で我に返ったのか起き上がった彼も自分の体を触っていく。
小さく握り拳を作り『よし』と心の中でガッツポーズをする。
「あんた回復魔法も使えるのかい?」
「わぁー!!」
女将さんが耳の後ろから話しかけてきた。
その時目の前の扉が勢いよく開く。
「わぁー!!」
今度は扉の音に驚いて大声を出してしまう。
その大声を聞いて隣の部屋の三人も出てきた。
「おばさん、見てくれ怪我が治った」
隣のベッドで寝ていた彼が嬉しそうに言う。
「あぁ、治したのは彼女だ。感謝しな」
「えっ!いいよ」
私は両手を振って答えた。
「ありがとう。助かったよ」
奥の部屋のベッドで寝ていた彼らがお礼を言ってくる。
「気にしないで、出来ればこのことは忘れて欲しいかな」
苦笑いをして訴える。
「解っているよ。魔法のことは口外しないと約束するよ。お前らも解ったか?」
目の前の扉から出て来た男性が全員に口止めする。
「あぁ、解っている。口外はしないよ」
彼ら全員が口々に口外しないと約束してくる。
が、信じない。
こんな約束は守られないだろう。
人の口なんて解らない。
何処かで口が滑って話すだろうから、その時に備える準備をしないといけないな。
「それじゃ」
と、その場を離れようとしたら、女将さんが私に頭を下げて来た。
「息子を助けてくれてありがとう。この恩は決して忘れないよ」
息子?
「えっ?息子??」
奥の部屋のベッドで意識がなかった彼が挨拶してきた。
「俺が息子のセドルです。本当にありがとう」
そう言って彼が頭を下げる。
他の四人も頭を下げてお礼を言ってくる。
お礼はありがたく頂き仕事に戻ることにする。
仕事が終わっても他の従業員から今朝の話が出ないから広がってはいないようだ。
帰りにケイブさんからも息子を助けたお礼を言われた。
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