第11話 町1

 週四日客室清掃として働くことになった。

 大体朝九時から昼一時か二時位までで、仕事が終われば賄を食べて帰っていい。

 賄が付いているってラッキーだ。


 二人一組で割り当てられた部屋の掃除とベッドメーキングをした後、剥したシーツの洗濯をして干すところまでが仕事である。

 お風呂がないからタオルやバスローブはない。

 干したシーツは夕方に専用の仕事人が来て片付けてくれる。


 掃除はいいとして、シーツの洗濯が大変!

 洗濯機がないから手洗いだ。

 水に濡れたシーツは重い。


 そこで労力を減らすために、風魔法で洗濯が出来ないか考えた。

 軽く風魔法を使い、ゆっくり右に左にと水を回しシーツを洗っていく。

 何回か左右の渦でシーツを洗ったら、風魔法で持ち上げて絞り、奇麗な水が入った桶にシーツを入れて濯ぎだ。


 右手で風魔法、左手で水魔法。

 シーツを回しながら、上から水を流し濯ぐ。

 いいね〜!


 これって二層式洗濯機みたい。

 濯ぎを二回して、風魔法でシーツを絞る。

 完璧!


 濡れたシーツって重くて大きいから広げるのも大変だ。

 なので、風魔法でシーツを持ち上げて、少しずつ絞りを緩めて広げ、干す。

 両手を使って、二種類の魔法を出すのに夢中だったから周りを見る余裕がなく、気が付けば、そこにいた全員が茫然と立ったままこっちを見ている。


 あっ、やばい。

 正直楽しくって、気付けば勝手に他のグループのシーツも洗い終わっている。

 苦笑いをしながら皆を見ると歓声が上がる。


 「凄〜い!」

 「今の何?」

 「魔法?」

 次々、聞いてくる。


 何てことだ。

 人前で魔法を使ってしまった。

 「魔法が使えることは内緒にして欲しいかな……」

 両手を合わせてお願いする。


 きっとその内、広まるだろうけど一応口止めをお願いしてみる。

 「解っているって。女だからね」

 「二種類の魔法を簡単に使えるのに勿体ないね」

 「男だったら王宮でいい仕事に就けたのにね」


 ???

 皆が口々に女性であることが残念だと話す。

 そう言えば、女将さんも『女性だから』と言っていたな。

 でも、あの王宮で働くのは嫌だな。

 自然と顔が歪む。


 洗濯後、厨房で賄を受け取り、隣の部屋で皆と食事をしながらこの国の女性事情を聞いてみる。

 「魔法が使えたら王宮で仕事するのよね?絶対なの?」

 「男性は絶対だよ。でも女性はメイドの職しかないから辞める人が多いの」


 王宮のメイドって魔法が使えるのか。

 「辞めて王宮の外で魔法を使う仕事をするの?」

 「女性が魔法を使っていいのは家族だけよ。ゆきは魔法が使えるのに勉強しなかったの?」

 「あぁ、魔法を隠して生活していたから、そういう話には参加しないようにしていたの」


 聞きすぎると不味いかもしれないから、突っ込んで聞くのは控えよう。

 「解るわ。女性が魔法を使えても役に立たないものね」

 「そうよね。王宮辞めたら結婚するか、魔法を使わない仕事をするかしか無いからね」

 「ゆきみたいに隠して自由に生活するのが一番よ」


 折角魔法が使えるのに、王宮以外で魔法が使える就職先がないって厳しいな。

 「回復魔法とかで人を治したりするのは違法なの?」

 「男性は王宮から回復士の資格を受けて治療できるけど、女性は回復魔法が使えても資格が貰えないのよ。人の命に係わるからからね。」


 何?

 これって男尊女卑?

 ここに来た時、私と山形さんは女だから無視されて、中野さんは男だから連れて行ったのね。


 この宿で働き始めて数日が経った時、問題が起きた。

 今日は朝から、奥の客室が騒がしい。

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