第10話 魔法5

 中野~。

 三日坊主で来ない。

 拘っていたライフセーバーはどうした?

 部屋にいるのかどうかも解らない。


 隣の山形美緒も、部屋から出て来るのを見たことがない。

 メイドが話しているのを聞いたが、ドレスを毎日着替えては、ポーズを取って四 角い物に笑いかけているそうだ。

 自撮りだな。


 時々、四角い物を見て大笑いしているとも言っていた。

 恐らく、動画でも見ているのだろう。

 しかし、この世界の人には、そういうのが解らないから、彼女は危険人物扱いだ。

 美緒勇者は、召喚の時に何かが取り付いたと思われている。


 私も何と言われていることか。


 最近、飛行魔法が上達し、空を浮遊することが出来るようになった。

 飛距離の確認良し。

 飛行高度の確認良し。

 飛行時間確認良し。


 いざ町に出発!

 城壁は飛んで越える!

 一人で町をブラブラ。

 最高!!


 周りに人がいないことを確認して、町の入り口の木陰に降りる。

 お城に近いからか、大きな屋敷が多い。

 少し歩くと先日来た市場に出る。

 その市場を横切り更に進んで行き、通りを三本過ぎた頃から、家の大きさが小さくなっていく。

 

 歩く事一時間、また市場がある。

 でも、こっちの市場は建物が小さい上に、扉が付いていないお店が多い。

 さっきの市場を境に階級が変わるのか、ここの人々が着ている服装はラフな物で、庶民的って感じがする。


 しかし町の入り口から遠い。

 次からはもう少しこっちの市場の近くまで飛んで来よう。

 市場を楽しみながら求人募集がないか見て回る。

 元いた世界と食材が違うし、食事の名前も解らないから飲食店は無理だな。

 

 化粧品のことは昔から頓着ないから論外だ。

 スーパーは無いし。

 ここで、私ができる仕事って何があるのかな?


 ―客室清掃募集―

 建物の壁に客室清掃募集の張り紙が貼ってある。

 掃除?

 客室ってことは宿屋?


 中に入ってみる。

 「いらっしゃい。何泊だい?」

 カウンターから女性が声を掛けてきた。

 「表の張り紙を見ました」

 訝しそうに私を見ながら女性はカウンターから出てくる。


 「こっちに来な」

 言われて女性に付いて行くと、裏の扉から外に出て倉庫に連れてこられた。

 「あんたー。ケイブ!」


 呼ばれて倉庫から男性が出てくる。

 「何だ?どうした」

 「この子を使ってやっておくれ」

 えっ?おじさんと客室清掃?

 ちょっと嫌かな。


 「細い腕だな。まぁいい。あれをこの倉庫に運べるか?」

 男性が指したところには木箱がいくつか置かれている。

 その木箱を男性は持ち上げ肩に担いだ。

 ははは……。無理でしょう。


 木箱を持ってみるが重くて動かない。

 だよね。

 どうする?

 少し考えて閃く。


 風魔法で木箱を持ち上げる。

 「どこに持って行ったらいいですか?」

 二人とも口を開けて驚いている。

 一個ずつは面倒臭いので、全部浮かせている状態だ。


 男性がアタフタと言う。

 「あ……、そ……倉庫の奥に運んでくれ」

 木箱を倉庫に運んで、いや飛ばしてと表現する方があっているな。

 言われたところに置いていく。


 「あんた、魔法使えるのかい?」

 やばい。

 「魔法が使えるのに王宮に就職していないのかい?」

 女性が不思議そうに聞いて来る。


 魔法が使える者は王宮で就職なの?

 「私、魔法のことは誰にも話していなくて……」

 こんなセリフ信じないか。


 「よく今まで内緒にできたね。学校は魔法課じゃなかったのかい?」

 信じた?

 ってか、魔法課?


 「あんたさ、女か?」

 男性が聞いてきた。

 「女?そうなのかい?何で男性の格好をしているの?」

 女性が上から下まで見てくる。


 何で男性の恰好かと言うと、王宮にあるドレスは動き憎いからさ。

 でも、そんなこと言えない。

 「魔法を隠すのは仕方ないか。女性だからね」

 二人は顔を見合わせ頷きながら話す。


 ??

 女性だから仕方ない?

 何かよく解らないが、まっ、いいか。

 取り敢えず、客室清掃として働くことができた。


 カウンターにいた女性は、この宿の女将さんで、倉庫にいた男性は旦那さんだそうだ。

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