第9話 魔法4

 町に行ってから数日が経った。

 馬車で町に行くのも、兵士を伴うのも御免だから一人で行けないか考える。

 板に浮遊魔法を付与して乗って行こうかと考えたが、町で人にぶつかったら危ないので却下だ。

 まぁ、付与ってどうするか解んないからムリだけど。

 

 風魔法を使って空を飛んで行けないか練習している。

 体に風を纏わせて浮けないだろうか。

 浮いても、体を安定させられなくて苦労している。

 風の纏わせ方を研究中だ。


 「ゆきさん」

 呼ばれて見ると中野充がこっちに来る。

 「中野さん、おはようございます」

 「おはようございます。何しているんですか?」


 「魔法の練習をしているの」

 「魔法?」

 手から水を出して見せる。

 「凄いですね」


 中野充は目を輝かせて水を見る。

 「やってみる?」

 「えっ?」

 携帯に入っている、簡単な水魔法の写真を見せる。


 「本を写真に撮ったんですか?」

 「初めは書いていたけど疲れて来たから、携帯の電池が続く間は写真を撮ろうと思ってね」

 でも、電池は減らない。

 充電しなくても使い放題だ。


 このことを彼にも伝える。

 「えっ?」

 中野充は直ぐ自分の携帯を出して確認する。

 「使う事がないから開けることもしなかったよ」


 彼は私の携帯の写真を捲り出した。

 「あっ、これいいな」

 雷魔法?

 「雷で剣を作ったらライフセーバーみたいだろ?」


 子供か。

 私はまた練習を始める。

 何時間経っただろう。

 気付けば太陽が頭上にある。


 お弁当にしてきた朝のパンを食べようと芝生に座った。

 中野充はまだ携帯を見ている。

 私は、昼である事を彼に伝え、昼食の用意がしているだろうから部屋に戻るように言う。


 「昼と夜は断わったんだ。俺も食堂で食べようと思って」

 そうなのね。

 私がパンを食べているのを見て、彼は立ち上がり食堂に向かう。

 「じゃ、また後で」


 お弁当を食べ終わったら休まず直ぐ練習する。

 こんなに根を詰めて練習するのは、ここをいつ追出されてもいいためだ。

 勇者は必要ないと言っていたからその内、私達も必要なくなるだろう。

 下手すれば殺処分されるかもしれない。


 彼が戻って来たのは夕方近くだ。

 えらくゆっくりした昼食だな。

 食堂で食べ終わっても、誰か声を掛けてくれるかもと暫く座っていたらしい。

 しかし、護衛部で知った顔がいても声は掛けて来なかったそうだ。


 昨日も同じように暫く座っていたらしい。

 私が思うに、多分勇者である彼に、気軽に声は掛けられないのだろう。

 何て事を考えていたら、携帯の写真を見ていた彼がボソッと呟いた。


 「この写真俺に送れたらいいのに」

 いや、ここ電波ないし。

 ムリだろう。

 彼はラインを開けて私のQRコードを読み取り出した。


 !!!

 あんた何勝手にしてるん?


 読み取った?

 彼からスタンプが届く。

 えっ?マジ?

 二人で顔を見合わせ、何でと呟く。


 前に私が妹に送った時は既読にならなかった。

 でも今は……。


 既読にならない。


 お互いラインを開いて見ているのに既読にはならない。

 私から彼にスタンプを送る

 やはり既読にはならない。

 でも、ラインは送れる。


 もしかすると、既読にはならないが妹の所にもラインが届いているかもしれない。

 ……電波ないけど。


 彼が雷魔法を送ってと言うから、初心者用を送った。

 あくまでライフセーバーに拘るのね。

 送った雷魔法を見て練習を始めていたが、陽が落ち出したので二人で食堂に行って夕食を食べることにした。


 横並びでテーブルに座り、ここの食事が美味しいとか美味しくないとか話しながら周りに目をやると、私達のテーブル周辺には誰も座っていないことに気付いた。

 私って一人で食べて当たり前って思っていたから、ここまで避けられているとは気付かなかったよ。

 中野充、これは声かからんわ。

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