第8話 魔法3

 二人にサルナスの部屋へ来た理由を聞いた。

 「サルナスが呼んでいるからって、メイドが来て連れてこられた」

 中野充が答えると同時に、サルナスが戻って来た。


 「お待たせ致しました。通行許可書でございます」

 そう言って薄い楕円形の通行許可書を手渡してくれた。

 通行許可書には表に私の名前。裏に勇者と書かれている。

 勇者?

 

 「お城を出る際に必要になります。城門でお見せ下さい」

 通行許可書には紐と金具が付いている。

 左右の内ポケットにも丸い金具の付いた紐が縫いつけられていて、そこに付けるといいとサルナスが教えてくれる。

 

 そんな話を聞いていると兵士が一人入って来る。

 誰?

 「勇者様の護衛をする者です。町は危険ですから護衛を付けて外出して頂きます」

 えー!


 護衛が一緒だと自由に動けないな。

 だからと言って、護衛はいらないとは言いにくい。

 「勇者様、はじめまして。私はライと申します。よろしくお願い致します」

 ライは頭を下げて挨拶してきた。


 兵士の同行で町に行く事になり、サルナスが馬車まで見送りに付いてきた。

 不思議に思ったことが一つ、兵士であるライも一緒に馬車に乗ってきたことだ。

 何で馬車に乗るの?


 普通は馬に乗って馬車の外から護衛しない?

 一緒に乗ったら襲われた時、動きにくくて戦えないと思うけど。

 それにこの兵士、馬車に乗ってから窓の外を見て一度も私達を見ないし、会話にも入って来ない。


 車内は中野充が一人で話して、向かいに座った私が相槌を打つ。

 私の隣に座っている山形美緒は、足を組み、窓に肘を付いた状態でたまに「ん」とか「ふ~ん」と言うだけだ。

 正直、車内が辛い。


 我慢すること数十分、町の市場に到着し、日陰になった場所に馬車を駐車する。

 他にも数台駐車していることから、ここは馬車の駐車場といったところか。


 馬車を降り賑わっている市場を見渡すと、左右の通りに建物が並びその下にお店が入っている。

 市場の人達は足首が見える服や七分袖を着ている。

 王宮で用意された重たいドレスとは違う。


 「さぁ、冒険者ギルドに行こう!」

 突然、中野充が嬉しそうに片手を上げて言う。

 冒険者ギルド?


 「冒険者ギルドは何処ですか?」

 聞かれたライは首を傾げる。

 「冒険者ギルドですか?それは何ですか?」


 「冒険者はいないのか。ギルドもないのか」

 中野充は大袈裟に肩を落とす。

 「あなた、勇者なのに冒険者やるつもりだったの?」

 「勇者いらないんだろ?まぁ、魔王も魔獣もいないんだから、冒険者もいないか」


 何か可哀想なくらい落ち込んでいる。

 と、思ったら突然私の方を向いて顔を近寄せてくる。

 「あっ、充でいいよ。ゆきさん」


 は?

 何て?

 「山形さんも充でいいよ」

 「げっ、キモ」


 げっ?

 今、山形さん『げっ』って言った?

 「聞いてよ。この人、私達がここに来た翌日、サルナスに呼ばれたでしょう?お姉さんはいなかったけど」


 私が図書室で寝た時か。

 「私に会って直ぐ、『昨日の夜は、メイドに体は洗って貰ったか?』って聞いてくんねん。気持ち悪いやろ?」

 げっ!キモ!


 中野充を冷たい目で見る。

 「違う。違う」

 彼は両手を振って誤解を解こうとする。

 「俺はメイドに言われたから、皆もそうかなと思ったんだ。勿論、断ったよ」


 当然でしょ!

 洗って貰っていたら引くわ。

 でも、確かに私も、部屋を案内して貰ったメイドに、お風呂のお手伝いをすると言われたな。

 断ったけど。


 「キモいから私の名前は呼ばんといて」

 山形美緒がきつい口調で中野充に言う。

 「誤解だって。ゆきさんからも言ってよ」

 何を言うのよ?


 この世界へ一緒に召喚されたけど、お互いの部屋に行かないし、こんなに話したのも始めてだ。

 考えたら、二人のこと何も知らないよね。

 そう思いながら後ろを見ると、護衛の兵士が遠くからついて来る。

 あいつもう、護衛する気ないな。


 町に来たかった一番の目的は仕事探しだけど今日はムリだな。

 町の雰囲気を楽しんで帰る事にした。

 次回はこっそり来ようと心に決める。

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