第14話 町4

 二本足で歩いてくる野獣が木の上から顔を出してきた。

 森の木と大きさが変わらない。

 横にも大きく、全身の毛は長めで、爪はさっきの野獣より尖っていて鋭く長い。

 

 「やばい。こいつこんな入り口近くまで出て来るなんて」

 「ゆっくり下がれ」

 セドルがそう言った時だ、野獣が腕を振り下ろしてきた。

 全員咄嗟に飛びのく。


 振り降ろされた地面には大きな穴が開き、一振りがかなりの威力であることが解る。

 当たったら即死間違いなしだ。

 野獣は、セドル達を目がけて何度も腕を振り下ろす。

 次々腕が振り下ろされ、誰も矢を放ったり、剣を振ったり出来ない。


 さっき、野獣の額に矢を放っていたな。

 私は、指を立てて風を圧縮させ、鉛筆ぐらいの長さにして野獣に向かって放つ。

 見事に野獣の額に当たり、大きな音を立ててその場に倒れ込んだ。

 死んだかな?


 セドルに目をやると、全員が私を見て固まっている。

 やばい、あのままだと全員殺られると思ったから、咄嗟に考え付いた魔法を飛ばしてしまった。


 まさか倒せるとは思わなかったし、ちょっと足止めして彼らが攻撃出来ればと思っただけなのに。

 「え~と、死んだかな?」

 恐る恐る彼らを見て聞く。


 「た……多分……」

 セドルが答えるが、声が動揺している。

 「今の何?魔法?」

 「まぁ」

 曖昧に答える。


 「回復魔法以外も使えるのか?」

 「まぁ」

 もう聞かないで欲しい。

 

 「凄いな。ありがとう助かったよ」

 「昨日、このイーエルに殺られたんだ」

 「二日続けて命の恩人だよ」

 全員がお礼を言ってくる。


 照れるな。

 野獣はイーエルと言うらしい。

 この野獣の前に倒したのはオドガザスと言うそうだ。


 セドルは早速イーエルの眼石をくり抜いている。

 眼石を両方取り出したら、胸から腹にかけて切り心石を取り出す。

 眼石は緑で、心石は赤い。


 「イーエルの心石は鮮度が高いほど高値で売れるから、直ぐに取り出さないといけないんだ」

 へぇ、そうなんだ。

 って、何でそんな説明するの?


 「はい、この眼石と心石は君のだ」

 えっ?

 戸惑っていると手の上に石を乗せてくる。

 「あんたが倒した野獣だから。あんたが使うといい」


 石は宝石のように輝いている。

 もしかして、ドレスにジャラジャラ付いていた宝石ってこれ?

 要らないな。

 乗せられた石がやっぱり重い。


 「これ貰っても……」

 「イーエルの石は魔道具になるぞ」

 えっ?魔道具?

 「魔道具?どんな?」


 「それは自分で決めればいい。魔法を扱える者は、石に魔法を付与して身に付けている」

 へぇ~。

 魔道具か。役に立つかも。

 「これもどうぞ」

 ラマイルが黄色い石を持って来た。


 彼らが倒した野獣オドガザスの心石だ。

 「でも、これは…」

 「昨日のお礼だよ。俺、野獣に殺られて死を覚悟していたのに、気が付いたら宿で傷が治っていて驚いたよ」

 また頭を下げられた。


 他の皆も是非と頭を下げる。

 「受け取ってくれ」

 セドルが、私の手にある石の上に黄色い心石を乗せた。

 有難く頂くことにした。

 「ありがとう。これも魔道具になるの?」


 「これは武器かな」

 「武器?」

 武器か。

 ナイフとか欲しかったのよね。


 サバイバルにはナイフが必要だよね。

 「武器が欲しかったのか?」

 「えっ?」

 「顔が嬉しそうだから」

  

 顔に出ている?恥ずかしい。

 「それならイーエルの爪と牙も持って行くといい。こっちは武器職人に依頼しないといけないけどな」

 こっちは武器職人?


 「この石は武器職人じゃないの?」

 「こっちは装飾職人だよ」

 装飾ってアクセサリーとかだよね。

 ジャラジャラ身に纏わなきゃいけないのか。


 考えるな。

 出来た装飾品を見て付けるか決めよう。

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