第299話 火薬庫
東堂茜が引き起こした戦火は未だ鎮火に至らず。
今も尚、更なる有識者が登壇するのであった。
……尺の関係もあるのでさっさとダイジェスト版でお送りしよう。
***
緑川作:『この雨が止むまで side.四方堂ガブリエル杏樹』
(一ノ瀬×四方堂)
林間学校ではぐれた
突然の雷雨をやり過ごす為に一ノ瀬は私を丁度いい洞窟にエスコートしてくれた。
すると、どこか近くに雷が落ちる。
――ズダアァンッ!!
「きゃっ……! こ、怖いですわ……」
***(中断)***
「誰だよそいつ。杏樹に化けた妖怪か?」
「雷よりこの杏樹の方が怖いでしょ」
「黙って聞きなさい。普段は虚勢を張ってるだけで、本当の杏樹ちゃんはか弱くて繊細な乙女かもしれませんわよ」
「いやwww ないだろwww」
「いやwww ないでしょwww」
「シバきますわよ」
***(続き)***
私は恐怖から咄嗟に一ノ瀬に身を寄せる。
すると一ノ瀬はそっと肩を抱いてくれた。
「大丈夫? 安心して。ボクが居るから」
「一ノ瀬……」
私が一ノ瀬の肩に頭を預けると、一ノ瀬も私の方に頭を傾けた。
――雨が草木を叩く音。
――雷が遠くで落ちる音。
気持ちが落ち着いてくると私はある雑音に気が付いた。
――自分自身の鼓動の音だ。
みんなには隠してきたけれど、私は一ノ瀬に好意を抱いている。
冷静に考えてみたら、こんな状況で平静で居られるはずは無い。
一度気づけば忘れる事は出来なくて、私の頬はどんどん熱くなる。
「杏樹? 顔、すごく赤いけど大丈夫?」
気付けば心配そうな一ノ瀬の顔が目の前に。
(……か、顔が近いですわっ!!)
咄嗟に言葉が出ずに私は震えながら顔を逸らしてしまった。
「もしかして体調が悪いの? 火は……無理か。地面は冷たいし。どうしよう……」
私の為に真剣に悩んでくれる一ノ瀬。
――やっぱり、私はこの方の事が……好き。
再度、気持ちの整理がついた私は勇気を持って一歩踏み出す事にした。
「一ノ瀬が……私を抱きしめて暖めてくれないかしら?」
「え?」
もじもじと表情を窺う私を見て察したのか、少しの間を置いて一ノ瀬は正面から私を抱きしめた。
しかし、一ノ瀬からは何処か戸惑いのようなものが感じられる。
「一ノ瀬……?」
「ごめん、杏樹。これ以上は……」
「?」
今度は一ノ瀬が顔を逸らす番だった。
「……! そう。なら安心しなさい。私も一ノ瀬と同じ気持ちですわ」
「い、いいの? 止まらなくなるかもよ……?」
「構いませんわ。今は、その……2人きりですし」
一ノ瀬が強く私を抱き寄せる。
しばらくお互いの感触を確かめ合った後、私たちは徐に見つめ合った。
「杏樹……いい?」
「……」
目を瞑り、無言で顔を上げた私に一ノ瀬は口付けをする。
「……んっ」
「んぅ……」
――触れたのは一瞬だった。
幸せな感覚が胸一杯に広がるが、一瞬では物足りないというのが本音だった。
今度は私が再び顔を寄せようとすると一ノ瀬は私を胸に抱きしめた。
「ちょ、一ノ瀬?」
「今は無理ッ! もうちょっとインターバルちょうだい!」
「なんでそこで日和りますの!? さっきまでの威勢は何処へ行ったの!! こうなったら観念しなさい!!」
「あ、杏樹こそ、さっきのお淑やかさは!?」
こうして結ばれた私たちは、雨が止むまで滅茶苦茶キスをした。
***(完)***
「ふむ。読み物としては悪くなかったですわ」
「結局杏樹の化けの皮は剥がれたな」
「杏樹はヤる時はヤる女だよ」
「オチはともかくとして、最初だけ私の解像度は高かったわね」
「「「それはない」」」
「……それはない」
「なんで二回言ったのかしら? 一ノ瀬?」
満足気に降壇した緑川は、やってみろとでも言わんばかりに青山にバトン渡した。
……そう、まだ最後の一組が残っているのだ。
青山作:『敗北の味 side.北条美保』
(一ノ瀬×美保)
誰も居ない教室で一ノ瀬に押し倒されたアタシ。
キッカケは些細な口論だった。
「へっ! そっからお前に手ぇ出す度胸があんのかよ!?」
「ッ!! みほっちがそんなに言うならどうなっても知らないから!」
するとコイツはアタシの胸に手を這わせ……
***(中断)***
「ちょーっと待てーいッ!! アタシだけスタート地点おかしくないか!?」
「何か1人だけフライングスタート形式でしたわね」
「てか、これ地上波OKのやつ? 怒られない?」
「ここは危なそうだから一番盛り上がるとこ聞いてみようよ」
***(危険なシーンをカット)***
「ふーん? 胸、小さい割に良い反応だったね。じゃあ、下は……」
そう言って一ノ瀬はスカートの中に手を忍ばせ下着に手を掛ける。
「ら、らめッ……」
***(緊急停止)***
「ホントにダメだわ!! は!? 何してんの一ノ瀬!?」
「いや、青山さんに聞いてよ」
「すいません。美保さんはその……メスガキ感が強くてどうしてもこんな感じに……」
「あー。解像度高めですわ」
「クソザコだもんね」
「うるせぇ!! なんでこんな猥談でオチ担当みたいにされてんだよ!!」
怒れる美保は教壇から青山を引きずり下ろし、スマホを弄る茜を怒鳴りつけた。
「おいインチキ教師!! さっさとこの収拾をつけろ!!」
「……ん? あ、終わったの?」
ふらふらと教壇に上がった茜は時計を見る。
「ん~。まだ時間あるし、じゃあ今度は逆カプね」
――その時、教室に亀裂が走った。
昨日の友は今日の敵状態になった教室には更なる争いが生まれるのであった。
「いや、もうええて!! どうせアタシがまたぐちゃぐちゃにされんだろ!?」
※.されました。
***
尚、この後。茜は先輩教師の
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