第296話 何で捕獲したかという重要性
7月26日、日曜日。
北条家で幻の誕生パーティー(四日目)が開催されていた日と同日。
西宮邸には東堂が訪れていた。
中庭に設置された簡易プール(特大)の前で西宮は今一度覚悟を問いただした。
「明里、今日は何の日か知ってるわよね?」
「うん……知ってるけど……なんか思ってたのと違うと言うか……」
「さぁ、脱ぎなさい」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!? 僕、水着なんて持ってきてないんだけど!?」
プールで全裸になる必要がある夏のイベント。
もう皆さんはお分かりかとは思うが、
本日は――土用の丑の日である。
西宮の好物の一つである『うなぎ』で料理を振舞って欲しいと言われた東堂。
これを快諾した東堂は、材料も調理器具も全部西宮が用意してくれるとの事だったのでほぼ手ぶらで来た。
しかし、そんな東堂が現在身ぐるみを剥がれて何故手ブラ状態になっているのかと言うと、その原因はプールにある。
……いや、西宮にあると言ったほうが正しいかもしれない。
先日、西宮が風呂上りにだいぶチルっていた時、
『うなぎ_おもしろい_イベント』とかいう馬鹿みたいな検索ワードで『うなぎの掴み取り』という企画へと辿り着いた。
一般的な一個人では実現できないソレも西宮なら『あれがやりたいわ』の一言で実現できてしまう。
そんな経緯で西宮家のたくさんの人が動いた結果、集められたのは大量のうなぎと一匹の東堂という訳だった。
涙目で半裸のイケメンをガン見するメイドたち。
現状、被害のないうなぎさんたちはプールを優雅に泳いでいた。
今日も平和な一日である。
満足した所で西宮は何故かサイズがぴったりの水着と上着をプレゼントする。
貰ったビキニとシャツを着た東堂は気を取り直した。
「……こ、コホン。で? このうなぎを取ればいいの?」
「そうね。まずはお手本をみせるわ」
「え?」
それなりの難易度だと思われるが、果たして西宮に出来るのだろうか。
当然無理でした。
「わぁぁぁ!! ちょっと麗奈!? そんな絡まり方、アニメでしか見た事ないよ!!」
「ふむ……? おかしいわね。イメージトレーニングは完璧のはずだったのだけど」
瞬発力も握力もない西宮にはうなぎは捕獲不可能だった。
その割にはフィクションみたいな動きでうなぎは西宮の谷間を潜ったりしている。
試しにやってみた東堂は一発が取れたのを見て、余計に西宮は熱くなった。
その後、捕獲の仕方を東堂に手取り足取りで教えて貰ったが一匹も取れない。
うなぎには舐められてるらしく、うなぎの方から西宮に寄ってくるという奇跡もあった。
「はぁ……はぁ……今日はこれくらいにしてやりましょうか……」
「そ、そうだね? 人には向き不向きってあるよ!」
「そう言われると諦めたくなくなるのよね」
「ええっ!? 僕、これ以上麗奈がうなぎに蹂躙される姿は見たくないよ!?」
こうして、もう1セット追加で西宮はうなぎと戯れる事となった。
苦労した末、ようやく西宮は1匹のうなぎを捕獲した。
最終的には谷間を抜けようとしたうなぎを無理矢理抱え込んだだけである。
しかし、西宮はこの絶技を『真剣谷間取り』と名付けた。
当然このうなぎはこのあと東堂が調理する事になるのだが、自分の谷間で取ったうなぎを喜んで食べてくれるのかは疑問であった。
***
西宮が長時間に及ぶ激闘を繰り広げている裏で、メイドたちが調理器具をセットしてくれていた為、東堂はスムーズに調理へと移行できた。
今回東堂が作ったのは『うなぎの白焼き丼』。
薬味の上から醬油ベースの柚子胡椒ダレを掛けてサッパリとした味付けに仕上がっている。
調理を見ていた西宮は、いざ席に着いた時に自分の丼と東堂の丼を入れ替えた。
「え? 自分が取ったうなぎを食べなくていいの?」
「ふふっ。お互いに取ったうなぎを交換する方がデートみたいよね?」
「麗奈……確かにそうだね」
西宮は微笑みながら手を合わせた後に白焼き丼を食べ始めた。
「それは自分の谷間で取ったうな丼は食べたくないよね……」
「あら? 白焼き丼を食べたのは初めてではないけど、この味付けは美味しいわね」
全然目が泳いでいた。
ちょっと考えてみよう。
素手で取った魚から手の味がするかというと、決してそんなことはないのだ。
それが谷間であっても同じだ。谷間の味などするわけがない。
でも、気持ちの上ではどうだろう。
仮に足の指で取ったうなぎを食べたいと思う人は居るのだろうか。
どうせ洗うのだから衛生面に問題は無いが、目の前でその様子を見ていたら食べる気は失せるだろう。
それと同じである。
いや、たぶんちょっと違うかもしれない。
でもまぁ、だいたいそんな感じだろうと言う事で東堂は自分を納得させた。
そして白焼き丼を食べ始めた。
「うん。凄くおいしいね!」
「そうね。タレで食べる事が多かったから新鮮な味わいだわ」
「白焼きだと、よりうなぎ本来の味が楽しめるよね」
「へ、へぇ……谷間の味、とか?」
「ごふっ!!!!! ごっほ!! ……そもそも、谷間の味なんて知らないよ!!」
「そ、そうよね? ごめんなさい。はい、お茶よ」
折角固めた東堂の決意は無駄となり、それ以降これは『西宮の谷間うなぎ丼』の味としか思えなくなってしまった。
東堂は今後、白焼き丼を食べる度に西宮の谷間を思い出す呪いに掛かった。
***
尚、プールに残ったうなぎは西宮邸のスタッフの皆で食べました。
西宮の谷間を通り抜けたうなぎは何匹かは居たはずなので、スタッフの何人かは主人の谷間うなぎを食している模様。
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