第295話 三度あることは四度ある
3日に渡る北条の誕生会が終わり、昼過ぎには南雲と十河も帰っていった。
北条は祝ってくれたメンバーに感謝をする。
口では言わないがみんなを大切にしようと心に誓った。
――ピンポーン
感傷的な気持ちになっている最中に鳴ったインターホンに嫌な予感がしつつも北条はモニター越しに対応する。
「はい。どちら様でしょうか?」
『私だ』
『それとアタシだっ!』
「はい。勝手に入りやがり下さい」
モニター越しには車を取りに出掛けていた瑠美と美保が居た。
もちろん家の鍵は持っているハズなのでインターホンを押す必要がない。
仮に押す必要があるとしたら、それは北条の誕生会ルーティーンを守ることくらいだろう。
そう。つまり、幻の四日目突入である。
***
何故か母と妹を招き入れる羽目になった北条は何故か母と妹をリビングに案内する。
「これはこれは茉希。ご丁寧に」
「いや、勝手知ったる我が家だろ……誰だよ、この習わしを作った奴は」
当然、やり始めたのは西宮である。
その伝統を守った東堂と南雲の手よって風習はこの土地に根付いた。
「アタシたちも姉貴をもてなす為に色々買ってきたぞ! ……この3日間に比べたら見劣りするけど」
「嬉しいよ。あいつらの事は気にすんな。レアケースしかおらん」
「すまんな。お袋の稼ぎ少ないばっかりに」
「お前の飯抜きにしたろか? そしたら茉希にもっといいもん食わせてやれるぞ」
何だかんだ言ってもこうやって誕生日を祝ってくれるだけで北条は温かい気持ちになる。
今日は一体どんな料理が出て来るやら。
北条がレジ袋の中を見ると入っているのは大量の食材とおつまみだけだった。
「今日は2人が料理するのか……?」
「姉貴の誕生日にそんな粗相は出来ん!!」
「茉希の大好きな家族をもてなす権利。これが私たちからのプレゼントだ!!」
「……………………日常じゃねぇか!!!!」
別に瑠美が家事をする日がある訳では無いし、別に美保が料理を作る日があるわけでもない。
そしてそれは誕生日であろうと変わらない。
……いや、変わらないのであればそれはもう誕生日会では無いのでは?
という意見も出ると思うがそれは北条家では通用しないのでご注意頂きたい。
おそらく多く人間が北条と同じく日常と勘違いしてしまうだろう。
「ほら、姉貴。たくさん食材買ってきたから好きなもん作ってくれ!」
「茉希の為に私たちは一切手を出さんからな!!」
「はぁ……まぁいいわ。手出される方がめんどいしな。じゃあ、お袋たちが食いたいもん聞かせてくれ。俺が作りたいのソレってことで」
「姉貴ッ! しゅき……♡」
「茉希ッ! しゅき……♡」
こうして世にダメ人間は増えていく。
妙に手の凝った料理を要求する母と妹にイラつきながらもなんだかんだでやりがいを感じてしまう北条。
これぞ、彼女がダメ人間製造機と言われる所以である。
――2、3時間後。
食卓に並ぶ牛すじ煮込みやポテトサラダ、タコのから揚げや鉄板焼き。
調理中にも言いたいことは山ほどあったが、完成した北条から一言。
「居酒屋じゃねぇんだよ!!」
「さ、酒が飲みてぇ……!!」
「姉貴……風俗嬢なんてやめて居酒屋開いたら?」
「風俗ちゃうわ! コンカフェの店員な。そこは間違えんな」
流石に今日は休肝日にしようとしていた瑠美の決意は揺らぐ。
じゃあ、何故こんなメニューをリクエストしたのか。
それは誰にも分からない。
瑠美は断腸の思いでウーロン茶を握りしめ、乾杯の音頭を取った。
実質、ウーロン茶を注いだだけで何故そんなバースデーソングを熱唱出来るのか。
それも誰にも分からない。
乾杯の後、ポテトサラダから人参を一つ一つ丁寧に除去をする美保。
そんなブレない家族の姿を見てほっこりする北条だった。
当然、除外された人参は全て美保の口の中に捻じ込んだ。
***
風呂に入るのにもひと悶着あったが、なんとか今日は一人で入る事に成功した北条。
リビングを通ると何故か瑠美と美保が布団を敷いていた。
「……なるほどな?」
2人が発言をする前に北条は全てを察した。
特に拒否する理由も無いので北条もそれを手伝う。
瑠美と美保は調理中に風呂に入っていたので、敷き終わったら早々に布団に入る事になった。
明日は月曜日。
悲しい事に社会人である瑠美は仕事があるのだ。
「しくしく……茉希ぃ。明日仕事行きたないよぉ……」
「あー、はいはい。いつも仕事頑張ってくれてありがとな」
「うぅ……茉希は仕事頑張ってる私と家でだらけてる私どっちが好き?」
「めんどさい彼女みたいな聞き方するな。どっちも好きだから明日も俺たちの為に頑張ってくれ」
「茉希ぃ(ガシッ)」
北条にしがみついた瑠美は涙を流していた。
今日は北条を中心に両サイドに瑠美と美保という配置。
「姉貴ぃ……。明日も一緒に寝たいよぉ……」
「あー、はいはい。明日からは別々のベッドな」
「南雲とは布団であんなにイチャコラしてたのに?」
「……み、見てたのか?」
「してたんだぁ……!!(ガシッ)」
「だっっっる」
誘導尋問をしながらダルめの彼女ムーブをした美保も涙を流していた。
その後、北条は2人を宥めて寝かしつけるのに1時間は掛かったという。
***
こうして、今年の北条の誕生日は本当の意味で終わりを迎えた。
……今日のコレを誕生会に含むのであればの話だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます