第293話 お高めのビール
7月25日土曜日。
北条の誕生日から2日経過し、ついに夏休みへと突入した。
いつもと様子が違う姉に対して苦言を呈するのはこの女。
――ピンポーン
「いいか、姉貴。誕生日ってのは1年に1回のイベントだ。前日、翌日くらいはまぁアタシも許してやる。だけどな」
――ピンポーン
「2日経ったらそれはもう平日だ。流石にそんな日に祝いに来る奴は碌な奴じゃない」
――ピンポーン
「そしてだな。そんな碌でもない奴には……あだっ!!」
「はよ出ろ!!」
インターホンのモニター前を陣取る美保は応接を妨害していた。
美保をどけた北条が急いで対応すると、普通に回覧板だった。
「す、すいません……!! ホント、お手数お掛けします~!!」
出来る限り低姿勢で謝った北条は扉を閉めた後、
「……今日は優が来るときは俺のスマホに直接連絡するように言ってあるから。無駄な抵抗はやめろ」
「こ、小癪な!! そこまでして南雲を家に招き入れたいのか!?」
「そうだよ! 悪いか!?」
罰として回覧板は美保に届けさせた。
***
美保の執拗なマンツーマンディフェンスは南雲が来るまで続き、時にはトイレまでついて来ようとした。
しかし、そんな努力も空しく。
「ワタシですっ!」
「私です。お邪魔します」
「はッ!? なんで家に入って来てるの!? まさか合鍵!?」
「違ぇよバカ。さっき茉希から連絡貰って、私が開けたんだわ」
北条がディフェンダーを引き付けている間に瑠美がしれっと南雲たちを迎えていた。
本日、何故こんなに美保は南雲を家に入れたくなかったかというと……
「いいのか十河ッ!? 今から姉貴たちは風呂場でイチャつくんだぞ!! エロい事もするかもしれないんだぞッ!?」
「おまっ……バカッ!! そんな事を叫ぶな!!」
「大丈夫。だって私も一緒に入るから」
「……お前天才か? そうか、別に人数制限とか無いしな。よし、だったらアタシも一緒に入るぞ!!」
「4人も入れる訳ねぇだろ!! 西宮ん家じゃねんだから!!」
なんだったら十河は今日、南雲とお風呂に入った後に一緒に寝る為に北条家に来たと言っても過言ではない。
その条件が北条を祝う事なら全力でお祝いするつもりだった。
「お袋からも何か言ってやってくれ」
「えー。だったら私も一緒に入りたーい」
「お袋もそっち側かい!!」
こうして、北条家の風呂に5人で入る。
……のは無理なので、瑠美が車を出して全員で銭湯に行くこととなった。
***
「は、はわぁ……姉貴、胸触っていい?」
「いいわけねぇだろ。ぶっ飛ばすぞ」
「しぇ、しぇんぱぁい。ここって撮影OKでしたっけ」
「いいわけないよね? 通報するよ」
銭湯には身体を舐め回すように凝視してくる変質者が2名居た。
「いやぁ、娘が増えたみたいで嬉しいわ。みんなで流しっこするか!」
「恥ずかしいからやめてくれ」
皆テンションが高いようで何よりである。
それぞれ身体を洗った後は適当に風呂を巡った。
と言っても、南雲と一緒に回る北条に2名が同行してくるので結局4人一緒に回るのだが。
瑠美だけは割と自由に満喫していた。
色んな湯を巡った4人は最終的に露天風呂でまったりする。
「ふぁ~。いい湯だね~」
「だなー」
「銭湯と言えば、西宮さんと一緒に行ってのぼせた事を思い出すよ」
「変な事されなかったか?」
最優先で聞かれるのがソレなあたり、流石は信頼と実績の安心宮さんである。
「本人は何もしてないって言ってたけどね」
「疑わしいな」
これぞ信頼と実績(以下略
ちなみに本当に西宮は何もしていない。
そんな雑談を4人並んでしているのだが、
……実は北条と南雲は見えない部分でイチャついていた。
2人は乳白色の湯の中で手を繋いだり、指の腹を揉んだりして遊んでいた。
「茉希ちゃん、手の形当ててみて(小声)」
「うーん、と……ピースサイン?(小声)」
「……残念! ツーシームの握り(小声)」
「ほぼ変わらんわ!!(小声)」
もし2人きりだったらとってもいい雰囲気なのだが、だからこそ気になる事もある。
「十河さん。さっきから内股でモジモジするのやめて? 調子悪いならお風呂でよっか」
「い、いえ……んっ。調子はだいぶいいです……!」
「普通に気持ち悪ッ!」
「美保。お前も大概だぞ。ずっとチラチラ見てんな」
「す、すまん……わかった! ガン見するわ!」
「そういう事じゃねぇよ!!」
その後、合流した瑠美まで猥談し始めたり、とにかくやりたい放題の3人。
もうなんか色々ぶち壊しだった。
しばらくして、風呂から上がって帰り支度をした5人はみんなで牛乳を飲む。
これでもかというほど銭湯を満喫した。
「ぷはー! っぱ、風呂あがりはコーヒー牛乳よ!」
「えー、フルーツ牛乳も美味しいよ?」
「南雲は子供舌だからな」
「ちっちっち、私から言わせればどっちもまだまだ子供だ。本当の大人は……
くぅ~~~ッ!! っぱ、これよ!」
瑠美は金色の炭酸を傾けていた。
「……おい。お袋」
「おいおい。また飲酒警察か? 大丈夫だって、一杯じゃ酔わねぇから」
「ちっげぇよ!! 車で来てんのにどうやって帰るんだよ!?」
「あ」 (←完全に忘れてた)
***
こうして北条たちはタクシーで帰る事となる。
4人乗りしかなかったので2台分の請求で瑠美は非常にお高いビール代を支払う事となった。
尚、後日2日分の駐車料金も支払わなければならない為、さらにビールの値段は高騰する模様。
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