第291話 密室殺人


7月24日金曜日。

今日は一学期の終業式があった。

とは言え、南雲と西宮、それに加えて一ノ瀬は来週からも週5日の登校するので実感はあまりない。


南雲と西宮としてはそんな些事より、昨日の北条家でどんなくんずほぐれつがあったのか知る事の方が重要だった。

東堂への事情聴取の結果、思ってたのとなんか違ったがインスピレーション自体は得る事が出来た。


2人は脳内で綿密な作戦を立てて来るべき戦いに臨んだ。



***


――『ピンポーン』



「私よ」


わたくしですわ」


「…………まぁ。そうなるな」



昨日同様、北条は帰宅後にWお嬢様の襲撃を受けていた。

この2人の場合、何故か北条側が自身の誕生日会を提供しないといけない可能性もある。

万が一に備え、お嬢様方には本日のご予定から伺った。



「場所はここ。料理はこちらで用意するわ」


「……お前が作るのか?」


「そんな訳無いじゃない。時間が来たら順次搬入していくわ」


「近くのキッチンにシェフを招いて作って貰っているので出来立てですわよ」


「そんな大掛かりな……流石は金持ち」



現在時刻は17時前。

料理を作らないとなるとしばらく暇である。

瑠美も仕事からまだ帰って来ないだろう


そこで西宮が提案したのは……



「やる事がないなら、一緒にお風呂に入りましょう」


「自宅でゆっくり風呂に入ってから飯の時間に来れば良かったんじゃね?」


「語弊があったわね。あなたと一緒にお風呂に入りたかったから来たのよ」


「西宮……自宅の風呂……うッ! 頭がッ……!!」



去年、北条は物理的に一泡吹かせられているので警戒心というよりは恐怖心が勝った。

ただ、どう抗ってもあの手この手で入ってくる女なので無駄な抵抗はしない。


それよりも入浴前に段取りを決める事にした。

北条が提示した段取りはこうだ。



①西宮が自分の身体を洗う。

②西宮が入浴する際、北条を呼ぶ。

③北条が自分の身体を洗う。

④西宮が風呂から上がり、北条が入浴する。



もはや一緒に入る意味は無いように見える。

完全なる作業プレイである。

これが西宮の性欲を満たしながら北条がギリ妥協できるラインの提案だった。



「はいはい。じゃあそれでいいわよ」 (←守る気なし)


「絶対守る気ないだろ……」 (←信頼感なし)



ある意味お互いを理解している2人の話がまとまるのは早かった。

ちなみにゴネようとしていた美保は四方堂が締め上げてました。



***


段取りの通り②に到達した、西宮が北条を呼んだ。

どうせ身体を洗っている時になんかしてくるのだろう。

その程度の覚悟で浴室の扉を開けた北条は度肝を抜かれた。



「何…だと…?」



浴槽にバカでかいマットが立て掛けてある。

可愛い刺繍の入ったバスマットとかではない。アレ用のマットだ。

西宮はまるでマットなど無いかのような何食わぬ表情で優雅に湯船に浸かっている。



「まずは身体を洗いなさい。これは気にしなくていいわ」


「いや、めちゃくちゃ気にするわ」



ひとしきり抵抗をした北条だったが、最終的には五味渕参戦により全裸で浴室に閉じ込められた。

やはり抵抗など無意味だった。自宅であろうが関係ない。

観念した北条が身体を洗い終えると西宮が鼻歌を歌いながらマット敷いた。



「……言っとくけど。密室状態で2人きりなら抵抗は出来るぞ」


「ふふふ。その強がり、いつまで続くか楽しみね」


ちなみに、この女が好きなそっち系ジャンルは『くっ殺』です。(90話参照)


「変なとこ触ったらシバく」


ちなみに、この女が好きなそっち系ジャンルは『マッサージとエステ』です。(90話参照)



北条はラインを越えない範囲で西宮に満足して貰う事にした。

心の中でそう言って自分を納得させる。


……だがしかし。


彼女も年頃の女子。

完全に興味が無いと言ったら嘘になる。

この非日常的アイテムを後学の為、まずは西宮で試してみるのはアリだった。


西宮は風呂桶にローションを入れてお湯で割って自分の身体に掛けた。



「じゃあマットに寝転んで」


「ほい」



まずはうつ伏せになった北条に豪快にローションをぶちまける。



「……だいぶビチャビチャだけど、こんな感じなん?」


「実は私も知らないのよね」


「はぁ!? 予習しとけよ!!」



感覚派の西宮はフィーリングでマットプレイをしようとしていた。


取り敢えず、

『胸を使ってローション伸ばせば気持ちいいんでしょ?』くらいの舐めプである。



「ふっ…………んっ……どう?」


「なんだろ。なんかニュルニュルした何かが背中を這いずってるだけで……。気持ちいいものでは無いな?」


「そんなバカな……! 手本を見せなさい」


「俺も知らんわ!! まぁいい。変われ。俺もお前に塗ってやるわ。ぬおっ!? めっちゃ滑るな!!」



北条は位置を変更しようとするが中々立ち上がれない。


――この時、西宮に電流が走った。


コミカルなマンガで言うと頭の上に電球マークが出ていただろう。

しかし表情は邪悪な悪魔のような何か。


再び適当にローションをぶちまけるフリをして、今度は計算して北条の手元と足元に散布しておく。



「おい……なんでローション追加した?」



そして未だに立てない北条の背後から思いっきり生乳を揉みしだく。



「くっ…なっ……てめぇ、ゴラッ……!! シバ……く!! ぬぉ!?」


「くくく……全て計算通り……」



抱き着かれている北条はで腕を使って立ち上がろうとするがヌルヌルで立ち上がれない。

快感は想像以下だったが、潤滑は想像以上である。

こうなると足を使うしかないのだが、これもまたヌルヌルによって阻まれる。



「もっと抵抗しなさい。もしかして、そんなに私に胸を揉まれたいの?」


「くぅ! やめッ……てめぇ!! 後で覚えとけよッ!!」


「ふふっ……死ぬ前にこの生乳の感触を覚えておきましょうかね♪」


「あっく! くっ……クソがぁぁぁ!!」



ムードもへったくれもなくローションマットでプロレスを繰り広げる2人だったが、暴れる北条を押さえようとした西宮も足を滑らせた。



「やんっ♡」


「ごふっ!!」



――ツルッ!!!! ゴッ!!!!



「……え? いま鈍い音がしたような……」



下敷きになった北条の身体はマットに力なく横たわる。

しかし、彼女の頭はマットからはみ出た浴室の床にあった。



「あわわわわわわ……」



1年前も見た光景を懐かしむ余裕もなく、西宮は昨年同様に美保の助けを呼ぼうとした。

慌てた西宮はここがローション地獄であることを忘れている。


勢いよく立ち上がろうとして……



「なるほどね」



勢いよく壁に突っ込んだ。


こうして密室となった北条家の浴室では2人の犠牲者が床に転がるのであった。



***


尚、監視兼覗きをしていた五味渕が速攻で救助した為、命に別状はなく、外傷もない模様。

ただし、北条の心には再びトラウマが刻み込まれたらしい。



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