第291話 酒池肉林
風呂から上がった北条は母の猥談にドン引きしつつも、机の上を見ると料理はほぼ完成していた。
どうやら今日は中華がメインだそうで、麻婆豆腐や春巻き、青椒肉絲やエビチリなど他にも様々な料理が机の上で湯気を立てている。
どの料理も美味しそうで、みんなで机を囲み和気藹々と団欒している。
……しているのだが、どうしても北条には気になる事があった。
「いや、おかしいだろ」
「ん? お袋の頭の話?」
「違ぇよ。どうやったらこの短時間でこんだけの料理を用意出来るんだよ」
「ふっふっふー。アタシたちも手伝ったんだぜ? どれだか分かるか~?」
一ノ瀬と一緒に作った料理があるらしく胸を張る美保。
2人とも料理が出来ないのに頑張ったと思うと微笑ましい。
「……うん。まぁ、ほうれん草のおひたしだろうけどな」
「な、なんで食べる前から分かったんですか!?」
中華の中で浮いている事と超簡単に作れる事から一目瞭然ではあった。
ほうれん草を1分くらい茹でて、軽く切った後に出汁につけて置くだけなので5分くらいで出来る。
そんな事より問題は東堂シェフだ。
「普通に考えたら〇berとかで配達してない限りこの量は無理なんよ。誰かこいつの挙動とか見てなかったの?」
「そういやなんか恐ろしく速く動いてた気するけど……ジロジロ見んのも悪いと思って見てなかったわ」
「鶴の恩返しじゃねぇんだからよく見とけよ。料理人っつーか雑技団レベルの神業だぞ」
「そんなに褒められると照れるね……」
「どっちかって言うと引いてるわ!!」
彩り豊かな机を瑠美は最後のピースを添える。
「東堂さん、一つだけ足りないものがあるぞ」
「え、マキの好物とかありました? リクエストあれば今から作りますけど……」
「いいや、中華と言えばこれだ」
――ドンッ!!
瑠美はデカめのビール瓶を机の真ん中に置いた。
「しまえ」
「いやいや、中華と言えばコレだろ!? 大丈夫、大丈夫、いざとなったら『全員18歳以上です』でなんとか出来るって!!」
「だとしてもダメなんよ。酒もタバコも20歳からなんだわ」
「えぇ? 成人年齢引き下がったのにぃ?? てか、私らがアンタらの年の時なんかそれはもう……」
「ちょッ、ストップ、ストップ!!」
※ゆるふわラブコメディ『しかしゅら』では、
未成年及び、二十歳未満の飲酒喫煙の防止に取り組んでおります。
***
東堂の四次元クッキングで作られた中華に舌鼓を打った一同。
なんだかんだ言って5人で食べたら程よい量にはなっていた。
流石は東堂である。
「うぅっ! 茉希っ……お前はこんなに頑張ってるのに! 妹の方は不甲斐なくてごべぇんんん!!」
「おい、謝るとこおかしいぞ。アタシも頑張ってるだろ」
北条の誕生日はだいたい瑠美が酔い潰れている。
まぁ誕生日じゃなくても酔い潰れる事は多いが。
ダメな大人を寝室に帰し、飲酒の危険性も見せびらかしたタイミングで一ノ瀬がケーキを用意した。
こちらも恒例、一ノ瀬の実家の喫茶『オリーブ』で作られたケーキである。
ご丁寧にメッセージ入りのチョコプレートと数字タイプのロウソクもつけてくれていた。
ロウソクの数字は後々ツッコまれると面倒な事になる可能性があるので伏せておく。
ゆるふわラブコメディならではの当然の措置である。
瑠美の分のケーキは冷蔵庫に入れて置き、皆でケーキを食べた。
「やっぱり美味いな。で、でも……」
「どうしたんですか? 苦手なものでも入ってましたか!?」
「いや、これがあと2日続くんだろ? 流石にちょっと身体動かした方がいいか……?」
「大丈夫ですよ。東堂先輩の料理ならきっとカロリーも低いはず!」
「う、うーん……調理に使った油は0kcalだよ!」
「んなワケねぇだろ!! 怖いわ!! この世の食材じゃねぇよ!!」
なんだかんだ言いながらも完食した後はみんなで片付けをした。
その後、東堂と一ノ瀬は自宅で風呂に入って来ているので美保だけ風呂に入る。
その間に居間に東堂たちの布団を敷いて寝床の準備をしようとしていた。
「せっかくだし、みんなで寝ようよ」
「そんなに布団ねぇよ」
「幾つくらいあるの?」
北条が収納スペースを探すと3セット用意してあった。
寧ろ多い方だと思われる。
「3つ並べれば4人いけないかな?」
「ま、まぁ……いけない事も無い、くらいか……?」
このメンバーなら気兼ねなく寝れるので北条も拒否する事は無かった。
それぞれベクトルは違うが南雲と西宮には気兼ねがあるということだ。
風呂から上がって来た美保はそれはもう、姉と一緒に寝れるという事でテンション爆上がりだった。
お忘れかとは思うが、明日は平日で終業式もあるので4人はそこまでの夜更かしをせず寝る事に。
『少なくとも今日は落ち着いた気持ちで寝れる』
そう思っていた北条はある事を失念していた。
***
寝ようとし始めて最初の方は姉の胸の中でむにゃむにゃしていた妹の霊圧はいつの間にか消えていた。
寝返りを打ったのかと思ったが、なにやら様子がおかしい。
「うっ、ぐる、ぐるじぃ……」
「……美保? あ痛っ!」
美保の様子を確認しようとした北条の顔面に衝撃が走る。
暗闇から繰り出された突然の衝撃にパニックになる北条。
衝撃の原因を確認しようと寝返りを打ったら何かが自身の上を転がった。
就寝時のポジショニングは、
東堂⇒北条⇒美保⇒一ノ瀬の順だったはず。
何故か今は、
北条⇒東堂⇒美保⇒一ノ瀬となっている。
「あだッ」
美保の小さな悲鳴を聞いて再び北条が寝返りを打つと、美保の顔面には東堂の裏拳がめり込んでいた。
ここで北条はようやく先ほどの衝撃の原因に気付く。
よく見てみると美保は一ノ瀬に抱き枕にされ締め上げられている。
戦々恐々となった寝床で戦慄する北条は思い出した。
(そ、そうだ……!!
見る限り一ノ瀬も寝相が悪いらしい。
北条は美保を生贄にする事で出来る限り距離を離した。
しかし、最終的にはそこに酔っ払いの瑠美まで乱入してきて状況は混沌を極める。
***
翌日登校時。
「な、なんでみんなそんな眠そうなの!? あーちゃんたちまさか……」
「どんな酒池肉林が催されたのか詳しく説明しなさい」
「……いや、俺と美保は分かるけど、こいつらまで眠そうなのはマジで解せんわ」
「ふ、ふぁ……どうしてだろ。やっぱり枕が違うと熟睡できないのかな?」
「やかましいわ!! 裏拳出すくらいにはぐっすり寝とったわ!!」
こうして、北条生誕祭の一凸目は無事終わったのであった。
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