第288話 デスマッチ
諸事情により現在家庭科室は封鎖されており、本日の家庭科部は家庭科室の前の廊下で活動していた。
今日の活動は終了したい気持ちはあるのだが、それが出来ない込み入った事情があり、部員たちは先ほどから議論を重ねている。
「……この中で虫が大丈夫な者は手を挙げなさい」
「「「「「……ッ!!(ふるふる)」」」」」 (←家庭科部員+
現在、家庭科室は一匹のコードネーム『G』に占拠されていた。
尚、北条と東堂はバイト、一ノ瀬が助っ人で不在。
この絶望的な状況を打破するための作戦が今始まる――
***
そもそも何故、わざわざ『G』の根城に突入しなければならないのか?
理由は単純。部員たちの荷物はまだ家庭科室に置いてあるからだ。
何とかして取りに行きたいのだが、一番の問題は誰が取りに行くのかだ。
「ま、まず。この家庭科室の主は誰!? 分かる人は居るかしら!?」
「百合先生だっ!!」
「えっ……そういう……?」
「そう。つまりこれは主の管理責任。責任を持って処理しに行くべきよ」
初手は解決策というよりは責任の擦り付け合いから始める西宮。
そしてそれに便乗する南雲。
こういう緊急事態の時こそ人の醜い部分がよく際立つ。
しかし百合曰く、毎日ちゃんと掃除しているので今回出たのは本当に偶然で、言わばこれは天災のようなものだと言う。
要するに、『被災者同士力を合わせて頑張ろう』という事である。
流石は聖職者。至極真っ当な意見を出す。
「そ、そうだよな? 対策委員会の結成って事だな?」
「では、委員長を決めなければなりませんわね。どなたか相応しい方は……」
「百合先生ですっ!!」
「また私!? 一番最初に入る人選定してない!?」
家庭科部には人間味溢れるメンバーしか居なかった。
とは言え、百合もこのままでは『G』とタイマンさせられてしまう。
百合の人間味も顔を出す頃合いである。
「あ、あの! 西宮さんお抱えの忍者の方は!?」
「五味渕は今日はマ……こほん、お母様とお話があるらしくて不在よ」
「そ、そのぉ……今日就いてくださっている忍者の方に処理して頂く事って……」
「五味渕以外は真っ当な執事よ。そんな事はさせられないわ」
逆に言えば五味渕だったら素手でヤれと命令していただろう。
結局、忍者不在の今、人柱となれるのは百合しかいなかった。
教師としての意地と責任で自らを奮い立たせた百合は殺虫剤を持って家庭科室に突入した。
……と、同時に部員たちは家庭科室の扉を全力で押さえた。
「討伐するまでこの扉は開かないわよ」
「どうゆう事ですか!? 人として終わって……ひッ……ひぃぃぃ!?」
「ど、どしたの百合先生!? 倒した!?」
「倒してないけど別のが、開けてッ! 開けてェ!!」
扉の外のメンバーはサーッと顔を青くする。
百合はドンドンと扉を叩くが西宮と南雲は力なく首を振った。
「ダメよ……出来ない」
「ごめんね、百合先生……これ以上みんなを危険に晒す訳には……」
今日ほど己の無力を恨んだことは無い。
彼女たちが今できる事と言えば、今押さえている扉により一層の力を籠める事しかない。
扉を開けなければ彼女が犠牲になり、
扉を開ければ他の皆が犠牲になってしまうかもしれない。
海外のゾンビ映画とかにありがちなワンシーン。
そんな窮地に立たされた百合は最終手段を思いつく。
「こ、こうなったら南雲さんのカバンを盾に……なんか異様に軽いし」
「ちょッ!? 開けるから早く入ってッ!!」
余りにも早い判断で開門した南雲。
それを見た百合は転がり込むように廊下へと退避した。
「な、なんで閉じ込める必要があるんですか!? もう絶対に一人では行きません!!」
「ごめんて。で? ワタシのカバンは?」
「飛び込むときに置いて来ました……」
「ナイスな判断だ。こいつだけ先に楽になるなんて許されねぇからな」
「そうね。私たちは今、運命共同体よ」
「どの口がそれを言えるんですかッ!?」
百合の魂のツッコミも炸裂したところで、別動隊の話に移行する。
冒頭の西宮のような雰囲気を醸し出す百合は真剣な質問をする。
「……この中で蜘蛛が大丈夫な人は手を挙げて下さい」
「「「「「……ッ!!(ふるふる)」」」」」 (←家庭科部員)
別動隊の正体はでっかいクモ、コードネーム『アシダカ軍曹』である。
『G』を処しにやってきてくれたのかもしれないが、まぁ彼女もキモい事はキモい。
「地球に6本も足つけてるだけでキモいのに、8本はもはや無法者だよ!!」
「こればっかりは南雲に同意だわ!! 歩くのにあんなに足要らんだろ!!」
「微妙にフサフサしているのも最高にキモいですわ!!」
「リスナーで『クモは益虫だから~』みたいなコメントホント無理ッ!! もう虫って書いてあるじゃん!! こっちは虫がダメだって言ってんのに!!」
「みんなのアツい思いは伝わったわ。……と、言う事よ。百合先生、どう思う?」
「きょ、今日はカバンを持ち帰るのは諦めましょう! 明日までにはお二方はご退室してくれますよ!!」
時間が解決してくれるのを待とうと言う作戦だ。
厳密にいえば作戦というより、ただの諦めだった。
要するにもう行きたくない。
「教師がそれでいいのか!? 明日はどうやって教科書持ってくんだよ!!」
「そうだ!! そうだー!!」
「……じゃあ、あなたたちはいつも教科書持って来てないからカバンは要りませんね?」
「「…………」」 (←美保・南雲)
ぐうの音も出ないほどの正論を受けた2人は黙ってしまった。
「よくよく考えてみれば、私は家庭科室に何も置いてないので私が突入する必要はなかったのでは?」
「「「…………」」」 (←西宮・四方堂・十河)
***
家庭科室で突如始まった『Gvsジャイアントスパイダー』。
なんとしてでも自分以外の人間にカバンを取り返してほしい家庭科部員による足の引っ張り合いはまさかの後編へ続く。
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