第287話 ホラーと言えば黒髪


ホラゲについての研究が終わり本日の活動を終えた家庭科部。

若干2名がプルプル震えていたが自宅に帰る事は出来たそうだ。


その夜。


北条家では就寝前に姉妹で些細な会話をしていた。



「美保ってさ。ホラーとかはなんで大丈夫なんだ?」


「なんでって……別に。 理由? うーん。まぁ、見た事ないからなんじゃね」


「だよなぁ。なんかいまいちリアルに出てくる想像が出来ないんだよなぁ」


「ん? 姉貴……?」


「……って言う意見もあるらしいぞ!! 一説によればな? 俺は想像出来るから怖いんだけど!!」



正直、ここまでして西宮を庇う必要があるのかは謎だが一応取り繕っておいた。

ホラーをまったく怖く感じない人間としては、逆にあそこまで怖がる理由を聞いてみたいと思ってしまう。

そんなホラー談義をしていると気付いたら美保は寝ていた。


自分もそろそろ寝ようかと思ったその時。スマホに通知が入る。



『寝れないわ。誰のせいかは分かってるわよね?』


『まぁ、そうなるわな』



どうやら西宮は寝れないらしい。

だいたい想像はついていたが、もうお互いにベッドに入っている時間なので掛けられる言葉はそう多くはない。



『がんばれ。おやすみ ( ˘ω˘ )』


『待ちなさい! 絵文字で誤魔化さないで!』

『ちなみに、今から家に来てもらう事って出来る?』


『何時だと思ってたんだよ』

『ふざけんな』



それでもごちゃごちゃと食い下がってくる西宮と数十分の問答を繰り広げる。

おそらく一人だと不安になってしまうのかもしれない。


(こういう可愛らしいとこもあるんだよな)

 

……と、思いつつもこれ以上対話を続けるつもりはない。

何故なら普通に眠いから。



『OK。わかった』

『そんじゃバケモンが出てきた時にまた連絡してくれ』

『そん時は助けに行くわ』


『出て来た時は私が死ぬ時よ!?』

『もういいわ』



急に諦めた西宮に違和感を感じつつもやっと寝れると安堵する北条。

しかし、続く西宮の一言に飛び起きた。



――『今、あなたの家の前に居るの。開けて?』



「怖ッ!?」



急いで玄関の扉の覗き穴を見ると黒髪の女が立っていた。



「え!? 怖ッ!?」



***


放置するのも怖すぎるので北条は西宮を家に上げた。



「……なんで来た?」


「車よ」


「理由じゃボケ。交通手段は聞いてねぇよ!」


「そっちね。あなたが話にならないから来たまでよ」


「あっそ。道中は怖くなかったのか?」


「ここまでは複数台で護送してもらったから大丈夫だったわ」


「何してんの!? 深夜手当はちゃんと出してやれよ!?」



THE・車と人の無駄遣いである。

そうまでして西宮が今からする事はもちろん―― 



「さぁ、もう夜も遅いし寝るわよ」


「はぁ……布団用意してやるから待っとけ」


「私も一緒にやるから一人にしないで!!」



手伝う訳でもないのに後ろをついて来る西宮を見て北条は妹がもう一人増えた感覚がした。

布団を準備した北条はやっと寝れる、そう思ったのも束の間。



「寝る前にトイレに行くわよ」


「いや。準備してる間に行って来いよ」



ダルさを隠しきれないものの流石は姉御肌の北条。

腕を抱く西宮を連れてトイレへと誘導した。

しかし、何故か西宮はトイレに入ろうとしない。



「早く入りなさいよ!!」


「バカなの?」


北条が一緒にトイレに入ってくれるのを待っていたらしい。


「流石にイヤだろ!! ……目のやり場とか、音とか、色々気まずわ!!」


「選びなさい。ここで漏らされるか、一緒にトイレに入るかを」


「人ん家で堂々とお漏らし宣言すな!!」



西宮も色々と限界そうなので結局は北条が折れて一緒にトイレに入る事に。

しかし、ここでまた新たな事件が起きる。



***


深夜。美保がトイレに行くと誰かが先に使用していた。



――コンコン。



ドタッ、ドタドタ!!

何故か中で暴れる音が聞こえた。



「ちょ、ちょっと待ってろ。てか部屋で待ってろ!! 終わったら呼んでやる」


「???」



まぁ、姉が言うなら従おうと一旦部屋に帰る美保。

すると、程なくして姉は部屋にやって来た。

尚、めんどくさいので部屋の電気はつけていない。



「わ、わりぃ。待たせたな」


「いや、いいけど。何かあッ……………………」


「ん? どした?」



尋常ならざる雰囲気を感じ取った美保は姉の首元に注視する。

そこには姉の手ではない青白い誰かの手が掛かっている。


……姉の後ろに


寝ぼけている可能性もあるので目を擦ってみると、姉の首元からゆっくりと黒髪の女が頭を出した。



「ひッ……!! と、トイレ行ってくるわ!!」


「???」



顔を見る前に咄嗟に目を逸らした美保は何も見なかったことにした。

この日、遂に美保は幽霊という存在を目撃してしまったのだ。



***


翌日の朝。

当たり前のように食卓に座っている西宮に疑問を感じつつ、美保は昨夜の出来事を姉に報告した。



「もしかしたら、姉貴は良からぬモノに憑りつかれているかもしれない……」



――ズズッ ×3


北条以外の全員が椅子を引いて距離を取る。



「おい」



「あ、姉貴の後ろに……黒髪のヤベー奴が居たんだって!!」


「ひッ……何勝手に呪われてるのよ!!」


「知らんがな。つか、どう考えても、おま……」


「茉希……悪い事は言わないからお祓い行ってきな。出来れば西宮さんも付き添ってあげて」


「そ、そうね。飛び切りの退魔師を要請するから一緒に除霊しましょう」


「いや、俺の背後霊はお前が自宅で寝たら消えるんよ。不思議な事に」



***


それから北条が何を言っても、

『うんうん。憑りつかれている人は皆そう言うよね』みたいな感じで相手にして貰えなかった。


数日後。

西宮が呼んだ退魔師に謎の気功を撃たれ、北条の除霊は無事完了したらしい。

やりきった感を出す退魔師を見た北条は以前にも増して心霊現象を信じられなくなった模様。



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