第285話 プロのお仕事
ソフトボール支部が出来たとて、相変わらず自由な活動をしている家庭科部。
一ノ瀬と東堂は助っ人で練習に参加しているが、それ以外のメンバーは家庭科室で会議を行っていた。
今日の議題は南雲が出している。
「みんなに質問なんだけど、ホラーって苦手?」
「あー。そういう季節だもんな。俺は別に……」
ふと、西宮から鋭い視線を感じた北条は軌道修正を試みた。
「別に……得意ではないけど、どうしたんだ?」
「いやね? 配信でホラゲをやって欲しいってリクエストが多いんだけど、ワタシ全然怖いと感じないからリアクションに自信が無くて……」
「無理にやる必要なくね……?」
配信でホラーと言えば人気コンテンツの内の一つ。
南雲こと梅雨町は別にファンに媚びる訳では無いが、ホラーを楽しんでもらう為の最大限の努力はしようと思っていた。
要するに『ホラーが怖い』という感情を学習しようとしているらしい。
「それこそ十河が得意なのでは? 嘘で塗り固められた演技の神髄を見せて御覧なさい」
「失礼だね。純正だよ」
「そうなの? 十河さんのホラゲ配信は人気あるけど、あれって素なの??」
「もちろん演技です!! 演技指導はお任せくださいっ♡」
「うざいですわ」
「やばいだろコイツ」
こうして人気Vtuberによるホラー解説講座が始まった。
ビビりポイントの解説とかはだいぶシュールだった。
一方、皆の輪から少しずつ距離を離している2名に北条は小さく声を掛ける。
「えーと……苦手なら今のうちに席を外しておいた方が……」
「は? 私がお化けが怖いとでも?」
「お化けとは一言も言ってねぇよ……」
「わ、私はホラー苦手なので退席を……(ガシッ」
早々にギブしようとした
ホラーが苦手なのは自分を除けば百合だけなので、西宮としてはなんとしてでも孤立だけは避けたかった。
この時点で百合は西宮が同類なのを察して残ってあげる決意をした。優しい。
そこから具体的なアドバイスをする為に過去の配信の振り返る事に。
雰囲気を出す為に家庭科室には暗幕を張り、7人は暗闇の中で動画を視聴する。
今回見るのはTHE・ホラーって感じの洋館で謎の化け物から逃げるゲーム。
まず、第一としてホラーに耐性がない人間はその時点で怖いのだ。
既に口も震えもマナーモードになっている2人の反応と配信者の反応を比較してみよう。
では梅雨町リリィ氏のダメな例。
①探索編
(梅雨町)『ふ、雰囲気あるねー(棒) 怖いかもー(棒)』
「躊躇なく引き出しとか開けますわね」
「それと探索細かすぎな。怖いと思ってるやつはさっさと部屋出るんじゃね」
「なるほど! めもめも……」
悪い例1:『探索の手際が良すぎる』
②登場編
(梅雨町)『ん、居るっぽい? あ、居た』
「化け物を死角に入れないプレイヤースキル……!! 流石です♡」
「バケモンに対する立ち回りがFPSなんだよな……」
「どゆこと? お化けは画面に映さない方が良いの?」
悪い例2:『クリアリングが上手すぎる』
③遭遇編
(梅雨町)『うわぁ……いま顔見た? グロかったよね』
「距離ちっか。あと、顔の感想は要らん」
「横を通り過ぎるのに一切の迷いがありませんでしたわね」
「リスナーも喜んでくれると思ってサービスショット撮ってみた」
悪い例3:『回避ルートが攻めすぎている』
その後、終盤は驚いて見せようと機会を窺っているうちにゲームが終わったらしい。
それでは同じタイトルを配信したプロ、
①探索編
(丸井)『ふ、雰囲気あるねー(震え声) 私無理かもー(涙声)』
「普通に腹が立ちますわね」
「なるほど、こういう感じな。了解」
「了解やめてね?」
良い例1:『腹が立つほどの全力演技』
②登場編
(丸井)『ひっ、ひゃああああぁぁ(涙) 無理無理ぃッ!!』
「ふむふむ。お化けはフラッシュバンだと思って視線外せばいいんだね!」
「焦ってオプション画面開くのも芸術点高めだな」
「ここは練習しました!」
良い例2:『お化けはガン見しない』
③遭遇編
(丸井)『いやぁッ!! やめて! 来ないでっ、来ないでッてばぁ……!!』
(※長めのチェイス)
「ルート選択絶妙過ぎんだろ。この配信者、絶対画面の前では真顔だろ」
「ちらちら視界に入れるタイミングが上手すぎますわ。これは真顔ですわね」
「心が綺麗な人間には今、
良い例3:『リハーサルは大事』
十河の演技指導は役に立っていたのだが、南雲はまだなんとなくピンと来ていない。
そこで画面から遠ざかっている
「ちなみにー……百合先生.Verって、行けそ?」
「無理無理ッ!! 私こういうの苦手で!!」
「でた、でた。配信者なんてみんなホラー苦手とか言ってるんだから!」
「そんな芸人みたいなノリじゃありません!」
その瞬間、先ほどまで手を繋いでいた西宮が百合をパージした。
――ガシッ!!
……が、一瞬で再装着された。
「に、西宮さんもリアクションとか得意ですよねぇぇぇ??」
「放しなさい! セクハラよ!!」
「茉希ちゃんもホラー怖いんだっけ? やってみる?」
「うーん、別に俺は……」
――ガシッ!! ――ガシッ!!
両サイドから連結され、たちまち3両編成になった。
「まぁ、じゃあせっかくだしみんなの反応を見せて貰おうかな。はい、ノートパソコンの前座って?」
「ち、ちなみにこれはお化けは出ないのよね……?」
「あー、そうだよね。気になるよね。大丈夫! ……出ますッ!!」
「「ひッ……!!」」
「ちょ、痛ぇって……操作しづらい……」
こうして、北条は脇腹を摘まむ背後霊を2体携えてホラゲーの操作担当に就任した。
ここからは本当のプロの絶叫が聞けるかもしれない。
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