第275話 赤点の理由
本日の議題はタイトルを見て頂ければ分かるだろう。
――人は何故過ちを繰り返すのか。
幾度となく見て来た光景だが、どうしても
何故なら彼女は担任だから。
「テスト期間中、あなたたちは何してたんですか!!」
「西宮さんで子育ての難しさを勉強してました!」
「明里から授乳されてたわ」
「……本当に何してたんですか??」
百合からは本気の困惑の色が滲み出ていた。
この4人からはいつも想像の斜め上の解答が返ってくる。
「ち、違いますよ? 粉ミルクですからね? 直には出してませんよ?」
「そこは疑ってませんよ。何を言ってるんですか東堂さん? ……と言うかミルクを与えたのは事実なんですね?」
「いや、百合先生。誤解です! 俺たちはただ、勉強に行き詰った西宮の息抜きをさせようと……」
「ほう、では当然ミルクはコップで飲んだんですよね?」
「ほっ……哺乳瓶です……」
「へー。あなたたちは息抜きをする際は哺乳瓶でミルクを飲むんですね。勉強になりました」
「哺乳瓶を使ったのは、
「唐突な裏切りはやめなさい」
この年で哺乳瓶をしゃぶり散らかしたともなれば周囲から一目置かれることは間違いないだろう。
絶対にそれだけはあってはならないので、3人は西宮という尊い代償を支払った。
「だけど、『赤ちゃんプレイ』して『赤点』って何か面白いわね」
「たしかに! 『赤』で掛けたんだー!! 面白ーい!!」
「面白くありません」
「「はい。すいません……」」
もちろん、今回も赤点を取ったのはこちらのアホの子2人である。
一学期の期末テストでは赤点を取ると補習があるので、見事2人は今年の夏休みも登校する義務を手に入れた。
昨年のお勤めは週4日程度だったが、なんと今年は週5日。
来年には週7を目指せるペースである。
「百合先生、考えてみなさい。何故私たちだけが補習なの?」
「テスト期間中に遊び呆けてたからじゃないですか」
「それだったらこの女たちも同罪よ。補習を要求するわ」
「なんでだよ。だりぃな」
「僕は今年も講師として来るよ?」
「違うよ! ワタシたちはみんなで一緒に勉強がしたんだよ! ……ダメ?」
「「うっ……!!」」
可愛らしく小首を傾げる南雲に2人はたじろぐ。
しかし、そこに一石を投じるのは百合。
「2人とも騙されないこと。そもそも補習でまともに勉強するつもりなら、テスト期間中にも勉強しているはずです」
流石は歴戦の教師。伊達に一年以上彼女たちの担任をやっている訳では無い。
ちなみにそれを見た南雲と西宮は舌打ちしていた。普通に行儀が悪い。
「分かったわ。じゃあ、夏休み中は毎日部活ね。部長命令よ」
「あのさ。一応言っとくけど、部長は俺な?」
「夏休みに毎日活動する家庭科部とか聞いたこと無いよ……」
「強化合宿もやるわよ」
「何を強化するつもりなんですか!!」
その後、繰り広げられた議論により、おおよそ週2回程度という活動頻度で合意に至る。
後輩たちの同意は得てないが、元より家庭科部は個の集団。
然したる問題はないだろう。
強化合宿に関しては一時保留である。
***
一方、1-Aでは。
「一ノ瀬ぇ……。 一ノ瀬、これはちょっとアカンやんけ……」
13教科中11教科で赤点を取った一ノ瀬紗弓は2-Aの先輩同様に担任とお話していた。
1-A担任の教科担当は東堂碧が現代文で東堂茜が数学。
当然、一ノ瀬が赤点を回避したのはこの2つ。
……ではなく、保健と家庭科。
「なにがマズいって担任が担当してる教科で赤点取ってる事だよね」
「ずびばぜん"……」
彼女も晴れて週5日勤務が決定していた。
夏休み中は運動部の助っ人も多いので相当に激務である。
それに加えて家庭科部とかいう訳の分からない部活もあるので、夏休み中のカロリー消費量はかなりエグめになるだろう。
「私たちの授業そんなに分かりにくかった?」
「はい……」
「否定せいへんのかーーーい!! どのへん? 分かりにくかったんわ?」
「茜先生が数式をアニメキャラで例え始めるし、碧先生はセルフボケ&ツッコミで授業のテンポ悪くて……」
「「ごめん」」
まぁ、担任が優秀でも赤点を取る輩は居るので結局は本人の問題である。
ただし、担任の問題が水に流される訳では無い。
「はい。耳の痛い話はここまで。君たちの中から補習のアシスタントをやってくれる人を募集。ちなみに私たちは先輩教師の陰謀によりほぼフル出勤にされた」
「ほんま鬱陶しいわ。自分らも出てこい言うてんねんこっちは」
「えぇ……あなたがた、新任のくせによくそんなデカいツラ出来ますわね」
「無垢な私たちは先輩教師たちとの垣根を取り払いたい一心だよ」
昨年のそのポジションは百合たちだったが、今年は茜と碧に白羽の矢が立っていた。
とは言え、聖人百合は今年も参加してくれるらしい。
「せや。確かな情報筋によると、南雲と西宮は週5日補習するらしいで」
「私、やります! 諸事情で毎日は無理ですが……」
「
十河も四方堂も2年生の補習の手伝いに行く気満々である。
当たり前だが、やらせるのは1年生の補習なので汚い大人たちはそこに関しての明言を避けた。
「北条妹はどうする?」
「やるワケねぇだろ。姉貴は家に居んだから」
「この流れで断んのは中々やるやん。自分」
東堂姉妹の計算によると、この女を動かすのは本人を説得するより姉を説得した方が遥かに効率が良いので、この場はあっさりと引き下がった。
そんなこんなで、それぞれが思い思いに過ごす夏休みは間近に迫っていた。
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