第274話 甘やかしの向こう側の世界
南雲の風邪も治った後は平穏な一週間が過ぎた。
今週はテスト週間に突入したので部活もお休み。
そんなテスト週間の土曜日、4人で集まってやる事と言えば――
「ほぉら麗奈、ご飯の時間だよ~」
「よだれかけしてやるからなー」
「おまるセット完了!!」
――『赤ちゃんプレイ』である。
***
南雲の手違いによる補填を要求した西宮。
彼女は『麗奈ちゃんハイパー甘やかしタイム』なる謎の企画を発案したのだが、3人の解釈は西宮が思っているベクトルのさらに向こう側へ行っていた。
西宮はみんなにチヤホヤされながらやりたい放題出来ると思っていたのだが、自室に来訪した3人の持ち物を見て絶望した。
東堂:哺乳瓶、粉ミルク、よだれかけ
北条:赤ちゃん用のおもちゃ、おしゃぶり
南雲:おまる、尿瓶(?)、おむつ
どう見ても普通にチヤホヤされる装備品ではない。
やりたい放題されるのは西宮の方だった。
「よーし、西宮。今日はたくさん甘やかしてやるからなー」
「待ちなさい。この年からそのプレイにデビューするのはあまりにも危険すぎるわ」
「だいじょぶ、だいじょぶ。西宮さん、自分の可能性を諦めないで」
3人のこの装備品の数々は
西宮は自分の執事に今季何度目かの吐き気を催した。
「……ちなみに、五味渕さんが用意してくれた園児服もあるけど……着る?」
「着る訳無いわよね? あなたたち、今ならまだ戻れるわよ。普通に甘やかしなさい」
「ごめん、西宮さん……ワタシが先週やらかしたせいで……だから! 覚悟はもう決めてるよ! 尿瓶も持って来てるから!!」
「そもそも尿瓶は赤ちゃんプレイじゃなくない!? 対象年齢70くらい上だと思うわよ!?」
そんなこんなで西宮は人生初の『赤ちゃんプレイ』をすることになった。
……どう考えてもテスト週間中にする事では無い。
***
「そもそも僕、赤ちゃんプレイって初めてなんだよね。マキ、どうやってやるのか教えて?」
「俺が知ってるみたいな聞き方やめろ」
「とりあえずミルクぶち込んでおく?」
「赤ちゃんは丁寧に扱いなさい。 ……いや、赤ちゃんじゃないけども」
「なんかこの赤ん坊うるせぇな。言語封じておくか」
そう言って北条はまず西宮の口におしゃぶりを捻じ込んだ。
「む、む~~~ッ!! (ペッ!!)」
素直に従う気が無い不良児の西宮は速攻でおしゃぶりを吐き捨てた。
「うーん……しゃぶり辛かったのかな、やっぱり五味渕さんが用意してくれた奴の方が……」
そう言って南雲はSMプレイ用の
「ば、ばぶー!!(←必死)」
「お、ちょっとは聞き分け良くなったか」
「よし、じゃあご飯にしよう!!」
滅多に見れない西宮の幼児退行(?)に東堂さんのテンションも高めである。
北条がよだれかけを掛けて、哺乳瓶に粉ミルクを入れた東堂が西宮の頭をだっこする。
「ど、どうかな、麗奈ー? ミルク飲めるかなー?」
「ぅむぐ(ぷいっ)」
しかし、西宮は哺乳瓶を咥えずそっぽを向く。
「おっぱいを飲ませなさ……」
――バシッ!!
南雲にお尻を叩かれた。
「よ、幼児虐待よ!? もっと丁寧に扱いなさい!!」
「だって、パパからおっぱいが出るわけないよね?」
「いや、僕も性別的には出るんだけど……」
そこから西宮は暴力の陰に怯えながら、母乳も出せるスパダリから涙目でミルクを頂いていた。
もちろん、哺乳瓶からなのでご安心して頂きたい。
本日もゆるふわラブコメの本作のレーティングはR-15でお送りしております。
***
まさか本当に哺乳瓶からミルクを飲ませされると思わなかった西宮。
しかし、更なる試練はその先にも待ち受けていた。
「ほーら、西宮。おもちゃだぞー、な? 楽しいな? ほらほら、楽しいな~?」
「…………(モジモジ)」
「どうした? 楽しくないか? ほれほれ」
尊厳を弄ばれることには慣れを感じ始める西宮だったが、それとは別の焦りを感じていた。
「……麗奈、もしかしてトイレに行きたいんじゃない?」
「なるほど? ……そこに、おまるあるよ?」
「やるワケないじゃない!!」
「ほな尿瓶か」
エグ過ぎる二択戦慄する西宮。
真っ青になった彼女を見て流石に不憫に思った3人は第三の択を出す。
「はい。おむつ。自分でつけれる??」
「なんであなたはしきりに私の下の世話をしようとするの!?」
「え、だって西宮さん、尿道ガバガ……」
――バシンッ!!
今度は南雲の頭が叩かれた。
そして包囲網を突破した西宮は元気にトイレへと駆け出して行った。
「大丈夫か? ちゃんと一人でトイレ出来たか?」
「やかましいわよっ!!
……そ、それより、南雲さん? 言ってないでしょうね(小声)」
「ん? あぁ、おもら……」
――バシンッ!!
「だ、だいじょぶ。言ってないから!」
「よかった……こほん。あなたたち、話があるわ」
一つ咳払いをした西宮が3人に真剣な表情で向き合う。
「あなたたちは『赤ちゃんプレイ』をされた事がある?」
「ないね」 「ないよ」 「ある訳ないだろ」
「(イラッ)……そうよね? 言っておくけど、そっち系の趣味が無い限りこれは相当なものよ。あ、別にそっち系の趣味を貶している訳ではないわよ」
「その謎フォローいらんだろ」
「とにかく、いい? 『赤ちゃんプレイ』をやっていいのは、やられる覚悟のあるやつだけよ」
「「「…………」」」
少しの静寂の後――
「ワタシは正気に戻った!!」
「よしッ、今日はテスト勉強でもすっか!!」
「そうだね!! よ、よーし、今回の期末テストもみんなで頑張ろう!!」
「「「えい、えい、おーっ!!」」」
「本当にこの女ども……!! 今年度中にはおむつを履かせてやるから覚悟しておきなさい!!」
***
こうして『麗奈ちゃんハイパー甘やかしタイム』は無事終了し、4人は残りの時間をテスト勉強に費やした。
そりゃ学生がテスト勉強中に勉強するのは当たり前である。
ましてや哺乳瓶でミルクなど飲んでいる場合ではない。
その傍らでは、ついぞや使われる事はなかったアヒルさんのおまるが4人の勉強を優しく見守るのであった……
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