第273話 よく出来た妹


「うん。もう熱もだいぶ下がりましたね。体調はどうですか?」


「悔しいけどお陰様でだいぶよくなったよ」


「悔しいとは……? 昨日は好きって言ってくれたのに?」


「嘘乙」



南雲の自室では十河がしっかりとその任を果たしてくれていた。

昨日、まどろんでいた南雲は寝ぼけて十河に『しゅき』と実際に言っていたが、本人にその記憶が無いのでノーカンである。

病で弱っていたのもあるのかもしれない。



「……でも、2日間看病してくれた事はありがと」


「いえいえ! 2日と言わず365日看病しますよ!」


「それはホント無理」



何はともあれ、こちらは解決しそうである。


……そう、



「そう言えば、杏樹が西宮さんが何かすごい凹んでるっていましたよ。何かあったんですかね?」


「……うぅ!! 頭がッ!!」


「せ、先輩!? まさかまた体調が!?」


「ちょっと嬉しそうにするのやめて?」



***


そして、その凹宮さんのご自宅に向かう一行は。



「良いですか? あなたたちはあくまでも自主的にお姉様の家に来たというていでお願いしますわ」


「杏樹ちゃんは行かないの?」


わたくしが行ったらお2人に強制させてるみたいですわ」


「え? 違う……のか?」


「まだガタガタ抜かすつもりですの? 事が終わったら車を用意しますわ。それまでは帰れると思わないで下さいませ」



そう言って四方堂に車から叩き出されて西宮邸の前へと下ろされた2人。

インターホンを押して用事を告げる。

すると、五味渕が北条の背後から現れて屋敷へと案内してくれた。


屋敷の扉を開けると、いつもよりそわそわした西宮がわざわざ出迎えてくれた。



「い、いらっしゃい……今日はどういう用件で来たのかしら?」


「麗奈の誤解を晴らすために来たよ!!」


「誤解……そう。じゃあ、上がって」



そこからは西宮が自室へと案内するのだが、2人の目にも確かに凹んでいるように見えた。



(おい、東堂。なんか想像以上に凹んでるぞ……!!)


(そ、そうだね! これは僕らがゆーちゃんの分のフォローもしないとね!)



先導する西宮がふと疑問を口にする。



「……2人は今日どうやってここへ来たの?」


「あーっと、その……そう! 五味渕さんを召喚してみたらなんか成功した感じだ!」


「そうそう!! マキの背後からニュルッと出てきて!! そこから車を用意して貰って……?」


「そう。それはご苦労様、五味渕」


「恐縮です」



(おい、東堂。あの人いま、主になんの躊躇いもなく嘘吐いたぞ)


(五味渕さんは否定も肯定もしてないから厳密に言えば嘘ではないよ! ……僕らは嘘吐いちゃってるけどね!)


(それな!!)



西宮の自室へと辿り着くと3人は机を囲んで話し合いする事になった。



***


「で、誤解とは?」


「僕らは麗奈を除け者なんかにしないから! だからもう泣かないで!」


「……ほう」


「どういう反応?」



実は昨日の四方堂のメンタルケアのお陰か、もうそこまで凹んでいない西宮。

と言うか、一日寝て冷静に考えたらそうでもない気がしてきたというのが一番大きい。

占いによる思い込みはあったのかもしれない。


しかし数時間前、気を遣ったのか四方堂から『2人を呼び寄せたので煮るなり焼くなり好きにしてください』と一報を入れられていた。


正直、突然そんな事言われても何をすればいいのかは分からない。

先ほどまで西宮が凹んでるように見えたのは単に困惑していたからだった。

もちろん、交通手段が四方堂であることも知ってて聞いている。

それっぽい話題を出して時間を稼いだだけである。


そしてその結果、とりあえず2人になんかはさせようという結論に至った。



「い、いやぁ……昨日は泣いてしまったわ。号泣よ……

(……ちょっと盛り過ぎたかしら?)」


「やっぱり!」


「……やっぱり?」


「だから、どういう反応だよ」



西宮は四方堂が自分の精神状態をどのように伝えたのかまでは聞いていなかったが、どうやら昨日の西宮さんは号泣はしていたらしい。

西宮本人から語られた号泣案件に東堂は全信無疑、北条は無信全疑の構えを見せている。



「どうすればッ……どうすれば麗奈は僕らを再び信じてくれるかな!?」


「そうね。じゃあ、今度3人で私を看病してくれれば……」


「お前が病気に掛かった時ってこと?」


「私の体調に関わらず、今度の土曜日でいいわ」


「いや意味わからんだろ。病気じゃねぇやつをどうやって看病すんだよ」


「いいからとにかく私を全力で甘やかしなさい」


「おい、東堂。こいつ尻尾出したぞ」


「うぅ……思い返すとまた涙が。激凹みよ……しくしく」


「う、うぜぇー……」



西宮のトラウマが想起されたのか顔を覆ってしまった。

尚、涙は1粒も流れてない模様。



「れ、麗奈大丈夫!? やろう、マキ。それで麗奈が元気になるのなら!」


「いやこいつ多分元から元気やぞ」


「はい。じゃあ、約束よ。来週は私をみんなで甘やかす事、決定」



こうして、四方堂からのキラーパスを受けた西宮だったが、最終的には自力でなんとかゴールまで導いた。

流石の西宮も、本当に風邪を引いただけの南雲に申し訳ない気持ちが少しあるが、それはそれ、これはこれ。やったもん勝ちである。


しかし後々、

『麗奈ちゃんハイパー甘やかしタイム』は思いもよらぬ方向性へと発展する――



***


それはそれとして、帰りの車中。



「……お前、やったな?」


「なんのことですの?」


「グルだろ。完全に嵌められたわ」


「身に覚えがありませんわね。でも、これに懲りたらもう少し日頃からお姉様を労わる事ですわ」


「こっ、こいつもうぜぇ……!」



あくまでしれっとした四方堂はだいぶ良い性格をした姉想いの良く出来た妹だった。

北条に優しい明日は来るのだろうか。



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