第272話 姉妹モノの定番 side 四方堂 ガブリエル 杏樹


……やはりは正しかったようで、わたくしは6月20日にお姉様のご自宅にお誘い頂いた。


どうせ呼ばれるならと思い、私は前日にもデートのお誘いをしたのですが、それは何故か断られてしまいました。

おそらく最初は何か用事があって、それがキャンセルになったのかもしれませんわ。


でないと、こんなにもお姉様がお凹みになられる事はないでしょう。



「ごきげんよう、お姉様。何かあったのですか?」


「ガブ……よく来てくれたわね……」



お姉様の自室ではお姉様がベッドで抱き枕を抱えていた。


状況的には申し訳ありませんが……めちゃくちゃ可愛いですわ!!


どんな姉妹モノでもそうだが、

一見クールで完璧に見えるお姉様(※西宮の事を言ってます)は意外と些細な事でショックを受け、激凹みしてヘラると人形や抱き枕を抱いて普段とは違うギャップをあざとく醸し出し、しかも駄々っ子したり泣きついてきたりして普段とは違う行動がまた尊くもあり……(以下略)


要するに私が言いたいのは!!

古今東西どのような姉妹モノでも、その様な時にお姉様を慰めるのは妹の務めという事ですわ!!

私はおもむろに胸元のボタンに手を掛けた。



「お姉様……もし、お姉様の気分が晴れるならこの四方堂ガブリエル杏樹、我が身を差し出す事も厭いませんわ!!」


「ごめんなさい、ガブ。今はそういう気分ではないの……」


「はい」



一旦冷静になりましょう。


本能のままに私利私欲で動いては十河と同レベルに扱われてしまいますわ。

ここは寄り添える系の妹ムーブで行きましょう。



「愚痴でも弱音でも構いません。お姉様が凹んでる理由をお聞かせ下さい」


「ありがとう。実は……。 ガブ? なんでベッドに入って来たの?」


「あ。お気になさらず」



そこからお姉様に先輩組の中で自分だけが南雲さんの看病に呼ばれなかった話をして頂いた。

私が抱いた感想としては、


『……まぁそれはそうだろう』という感想でした。


東堂さんの連絡通り南雲さんの容体が風邪という事なら、その看病に2人も3人も要らない。

北条さんが乗り込んだのは連絡ミスかは分かりませんが、さらにそこへお姉様が加わったとしてもそれは看病ではなくお見舞いにしかならないでしょう。


私だったら歓喜ですが、南雲さんの立場なら『風邪如きでこんなに集まられても……』となるだろう。



「お姉様は南雲さんの看病がしたかったのですか?」


「……それはそんなに?」


「ふむ。では一人だけ呼ばれなかった事が悲しいのですか?」


「そうね……連絡くらいくれてもいいんじゃない……?」


「多分、私の予想ですが南雲さん的にはお姉様と東堂さんのデートを邪魔してしまった後ろめたさも多少あって、連絡するのが気まずかったのかもしれませんわ」


「……結果、未読スルーと?」


「ちょ、調子が悪くて寝ているのかもしれませんわね!」



まだ本当にメッセージを読んでないだけなのかもしれない、そんな話をしている時に都合よくお姉様のスマホに通知が入った。



「ほ、ほら! お姉様はないがしろになんかされてませんでしたわ!」


「『今は十河さんに看病してもらってるから大丈夫!』って……」


「どうゆう状況ですの!? 何してますのあの人!?」


「南雲さんの中で私なんて十河さん以下なのよ……」



こうして私はよわよわになってしまったお姉様を一日掛けて慰める事になった。

お姉様と一緒にご飯を食べ、お風呂に入り、一緒に寝る。

本当に文字通りの一日である。


……正直、私にとっては最高の一日でしたわ!!



***


が、それで終わりではない。

翌日の朝、お姉様と別れた私は『りりあん☆ガーテン』とか言ういかがわしい店へと足を運んだ。


私は入店時に発狂していた猫耳女と女執事を自らの席へと呼び出した。



「あなたたち、何故自分が呼ばれたのかは分かってますわよね?」


「まったく心当たりねぇ……にゃ」


「その取って付けたような語尾は要りませんわ」


「杏樹ちゃんが来てるって事は……もしかして、麗奈絡み?」



まぁこの方たちにも、南雲さんにも非があるとは言い辛いですが……ここはお姉様の為にも少し話を盛っておきましょう。



「昨日、お姉様は南雲さんの看病に自分だけ呼ばれなかった事に深く心を痛めております」


「えーと……もしかして、あいつだけ優からの連絡もらってなかったのか……?」


「そうですわ。しかも、十河は呼ばれたという事がトドメになりました」


「そ、それは確かにショックだよね……どのくらい凹んでた?」



「…………(←意味深なタメ) 号泣しておられましたわ……(大嘘)」



「「そんなにッ!?」」



ヤバいですわ。ちょっと盛り過ぎましたわ。

なんとなくそれっぽい事を付け加えておきましょう。



「お姉様は皆様の事を愛しておられますもの。それがまさか、自分だけ除け者になっていると知れば当然の事……」


「そっかぁ……あの状況で麗奈も誘うべきだったのかな……」


「え? てか待て。俺は別に関係なくね? 西宮と約束無かったのに南雲ん家行っただけで怒られんの?」


「言い訳は聞きたくありませんわ。今日のバイト終わりでも、ちゃんとお姉様のアフターケアに行きなさい」


「えぇ……」



この女は逃走する可能性がありますわね。

送迎車を店の前にビタ止めして逃げ場をなくしておきましょうか。



「それでは、また仕事終わりに迎えに来ますので頼みますわよ」


「うん。ありがとう杏樹ちゃん! マキにゃ、一緒に麗奈に謝罪しよう!!」


「……謝罪? 俺も?」


「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとお姉様を慰める案を考えなさい」


「はい……」



これで少しでもお姉様が元気になってくれる事を祈りますわ……!!

妹として責務は果たしてみせます!!



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