第271話 介護が手厚すぎる件について
南雲からの連絡を貰って急いで彼女のマンションへ来た北条。
彼女がインターホンを押すと、対応してくれたのは東堂だった。
北条は少しだけ驚いたが、東堂が見てくれていた安堵の方が大きかった。
部屋に上がると南雲はスヤスヤとベッドで寝ていた。
「どう? 優の様子は?」
「うん。たぶん風邪だね。熱も微熱みたいだから薬を飲んで安静にしてれば良くなると思うよ」
「そうか、それは良かった。ところで、優は薬と食料が無いって言ってたけど、お前何か持ってきた?」
「風邪薬は買って来たよ。食料の方はゼリーとかヨーグルトと果物を買って来たよ」
北条は雑炊が作れる食材を持って来ていたので幸い被っては無かった。
冷蔵庫を確認すると東堂が持ってきたであろうゼリーとヨーグルト、そして経口補水液と何故かちくわが一個ある程度だった。
「ホントになんもねぇな……」
「ゆーちゃんは普段料理とかしないからね……」
「いつでも食えるような飯でも入れとくか」
「ありがとう、マキ」
「じゃあ僕は掃除でもしようかな」
「……出来るのか?」
「や、やろうと思えば出来るよ!!」
汚部屋の主である東堂は人選ミスかと思われたが、彼女が出来るというならその尊厳は大切にしようと思う北条であった。
こうして2人で手分けして作業をしているうちに昼頃になって南雲が起きた。
そして前回の状況に至るのであった。
***
夕方頃まで看病した2人は自宅へ帰る事に。
東堂は泊まりで看病しても良かったのだが、2人とも明日は午前からバイトがあるという事で南雲の方も流石に気が引けた。
「優。冷蔵庫に雑炊入れといたから、腹減った時にレンジで温めて食ってくれ」
「薬は食器棚に入れてあるから、食後に飲んでね」
「2人ともありがとう!」
一体、前世でどんな徳を積めばこんな生活が可能になるんだろう。
南雲がそうしみじみ思っていると、東堂と北条によるスペシャルゲストがやって来た。
「せんぱぁい!! 大丈夫ですか!?」
「げ」
「さっき説明した通りだよ。ゆーちゃんをよろしくね」
「東堂……ここで私に先輩を託すとは……その殊勝な心掛けを称してしばらくは東堂『先輩』と呼んであげます」
2人が帰った場合に一番すぐ駆け付けられるのは南雲の上下の部屋を借りているこの女、十河灯が適任だった。
……と、言っても間違いなく南雲の部屋に居座るのだが。
「な、なんでこの人呼んじゃうの……!? 体調悪くなるよ!!」
「まぁ……お前一人だとまた不摂生すると思ってな。風邪が治るまでは監視をつけておこうって話になって。 ……こんな状況なんだからマジで頼むぞ」
「もちろんです! 私が先輩に変な事をするということは天地神明に誓ってありません!」
「「よしっ」」
「いやいやいや!! この監視員に監視が必要なんじゃない!?」
十河の宣誓を鵜呑みにした2人は安心した表情で帰っていった。
南雲を想い合うもの同士、なんだかんだ言ってもこの状況で十河は絶対にやらかさないという確信があった。
その確信通り、その後の彼女は驚くほどまともだったという。
***
夕食は北条が作ってくれた雑炊を十河が温めてくれた。
尚、南雲は十河の『ふーふー』と『あーん』は全力で拒否した。
食べ終わってから少し経った後、
「先輩。寝る前に汗を拭いておきましょうか。濡れタオルお持ちしましたので上着を脱いで背中を向けてください」
「く、くッ……! 遂に本性を現したな……!」
「恥ずかしかったら私は部屋の外に出てますけど、自分でやれますか?」
「え?」
「?」
「じゃ、じゃあお願いしようかな……」
「はい」
少しでも変な事をしたら通報するつもりだったが、彼女は手際よく汗を拭き取ってくれた。
またある時は、
「先輩。やるな、とは言いませんが今日はゲームも程々に。安静にしてるほうがいいですよ」
「だって昼間あんなに寝たから眠れないんだもん!」
「じゃあ、私が一緒にベッドで寝てあげましょうか」
「くッ……!! 本性を現し……」
「冗談ですよ。私は床で寝ますから。ほら、寝れないなら横になって一緒にお話でもしましょう?」
ベッドの横へ座り南雲を優しく寝かしつける。
この辺りで流石に南雲も十河が本気で自分を心配してくれている事に気付き始めた。
「……十河さん。今日の配信は?」
「風邪を引いたって言って今日明日はお休み貰いました」
「そうなんだ。ごめんね……」
「気にしないで下さい。先輩の体より大切なものなんてありませんから」
そう言って十河は南雲の頭をゆっくり撫でる。
まるでそれは子供をあやす母親だった。
彼女のファンもまさか風邪を引いたのが本人ではなく、彼女は看病する側だとは思わないだろう。
それから少し話をしていると以外にもすぐに南雲は良い感じにまどろんできた。
かつて十河の前でこれほどの安堵を感じたことはあっただろうか。
南雲は意識を手放す前に、彼女への感謝の気持ちを贈ろうと思った。
「ふみゅ……十河さん……今日はありがと………………しゅき」
眠気で南雲自身も何を言ってるかは理解してないが、しっかりと感謝の言葉を告げることが出来た。
そして、そんな言葉と共に穏やかに眠りへと落ちていく。
……十河が。
道半ばの彼女の人生だったが、その最後は安らかな笑みを浮かべていたという。
後に死因は尊死と診断された。
尚、その3時間後に奇跡の復活を遂げ、元気に床を転げ回っていたらしい。
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