第270話 完全にやらかした
6月20日(土)朝。西宮の自室。
『ごめん、麗奈。ゆーちゃんが風邪引いちゃったみたいで……今日は看病したいから、デートは中止にしていいかな』
「なるほど。構わないわ。彼女は一人暮らしだものね。私にも何かできる事はある?」
『2人で看病する必要は無いと思うし、大丈夫。気持ちだけ受け取っておくね』
「何かあれば連絡しなさい」
『ありがとう。この埋め合わせはまたの機会に!』
通話を切った西宮は昨日の夜の事を思い出す。
南雲と夜遅くまでゲームをやっていたのだが、思えばそれも風邪の原因の一端だったのかもしれない。
(か、風邪は彼女の不養生よ。これをやや凹みと言うには早いわ)
占いで見た『極力スマホを触らない事』という項目が脳裏を過るが西宮は頭を振る。
代わりの予定を立てようと真っ先に思い浮かんだのは北条だった。
(たしか、茉希は今日の予定が特にないと言っていたはずよね)
西宮は早速チャットを打つ。
『明里に急用が入ったから選手交代のお知らせよ』
『わりぃ。今日は南雲の看病で……』
「??????」
この文章を見た時、しばらく西宮は硬直していた。
(わっ、私だけハブられてる……!?)
事の発端はこれより少し前へと遡る――
***
6月20日(土)早朝。南雲の自室。
(う、うぅ……調子悪いぃ。思い当たる節なんて……いや、多いな?)
朝起きた南雲は倦怠感と悪寒に苛まれていた。
とりあえず何かを軽く食べて薬を飲もうと思ったが冷蔵庫の中身は空だった。
元々料理はしないうえ、昨日買い出しに行かなかったのが原因である。
「まぁ、いいや……薬だけ飲んで寝よ……」
南雲は棚を空けて薬を探すが……ない。
(調子良い時の南雲さんは何やってんの!? 調子が悪い時の南雲さんの気持ちもちゃんと考えてよ!!)
薬も食料も無いという危機的な状況に徐々に絶望感を感じ始めた南雲。
なんとなく症状も悪化して来ている感じもするので、焦って救援を呼ぶ事に。
『ごめん、あーちゃん』
『ワタシ風邪引いちゃって……』
『薬も食べ物も無くて……』
『それは大変! 熱は測った?』
『あんまり辛いようなら一緒に病院行こう』
『熱は微熱だったよ』
『病院は大丈夫』
『わかった』
『看病しに行くから少し待っててね』
『ありがとう、あーちゃん』
流石はフッ軽の東堂。
即断即決ですぐに看病に来てくれる事になった。
そんな彼女の様子に安心した南雲は体調も相まって再び眠くなってくる。
(あーちゃんには合鍵渡してあるし、寝ちゃおうかな……)
ベッドで横になり、スマホ片手に良い感じにまどろんできた南雲は、
……何故か北条にも報告していた。
『茉希ちゃん、ワタシ風邪引いちゃった……』
『薬も食べ物も無くて辛いよぉ……』
『怠いし、寒いー(泣)』
北条が取り込み中だったのか返信が少し遅れた為、返信が来る前に南雲は眠りに落ちるのであった。
***
6月20日(土)朝。北条の自宅。
「姉貴!! 今日は本当にデートしないんだよな!? 絶対に外に出さないからな!!」
「しねぇけど……デートじゃなくても外出くらいはするだろ」
北条家では長女が朝ごはんを作りながら次女がそれを妨害するように騒ぎ立てていた。
美保は例の占いで、『姉が他の女とデートする』という予言が脳裏に焼き付いていた。
「へへっ。まぁ? アタシは占いなんて信じてないけど? これで今日はずっと姉貴と一緒だな!!」
「まぁ、いいけど」
料理を配膳する時、北条はふと自分のスマホに通知が入っている事に気付く。
そこでようやく南雲からの連絡に気がついた。
(……!! 大丈夫なんかアイツ。一人暮らしだから心配だな……)
素早く配膳を済ませ、チャットを送り返す。しかし……
(へ、返信がないぞ……マジで大丈夫なんか?)
朝食を片付け終わる頃になっても南雲からの返信は来ない。
北条は段々と不安になってきた。
「……美保。ちょっと外出してくるわ」
「は!? 予定無いって言ってたじゃん!!」
「いや、大した用事じゃないから」
「ダメだ!! だったらアタシもついてく!!」
「だる、お前。うーんと……お袋。頼んだ」
「おけ」
美保が暴れ始める前にタックルをカマした瑠美が流れるような動きで四の字固めをキメていた。
「ぐ、ぐがあぁぁぁ、何が楽しくて休日にこんなアラフォーと……痛だだぁぁ!!」
心の中で妹に謝った北条は風邪薬や胃薬、それに簡単な料理が出来る食材をバッグに詰めて軽く身支度を済ませた。
その時、返信が来たのかスマホに通知が入った。
「お?」
『明里に急用が入ったから選手交代のお知らせよ』
「なんだ……西宮か。今はあいつに構ってる場合じゃないな」
『わりぃ。今日は南雲の看病で……』
そして北条は手短に返信を済ませ南雲の自宅へと向かうのだった。
***
そして6月20日(土)昼頃――
「優、大丈夫か? 食べれ切れなかったら残しても良いからな?」
「ふーっ、ふーっ。ゆーちゃん、はい。あーん」
「あ、あーん……」
(どうしてこうなったの!? はっ!? まさかここは……天国!?)
南雲の自宅では、
家庭的で優しいギャル(?)がお粥を作り、
献身的なイケメン幼馴染がお粥をふーふーしてくれるという、
あまりにも十分すぎるサポート体勢の中で看病されていた。
(こ、このままじゃワタシ……! 同時攻略されちゃうよ~ ><)
と、アホな事を考えているとふと自分のスマホが目に入り通知が入っている事に気付く。
ホーム画面からその内容だけ確認すると……
『私も看病に行きましょうか?』
……少し。南雲は考えた。
あまり記憶にないが、自分は伝達ミスで北条を自宅に呼んだらしい。
体調を崩したのは自分のせいなのに、彼女は怒るどころか心配してくれている。
一方、西宮は東堂にデートをキャンセルされたうえ、北条にも冷たくあしらわれた可能性がある。自分のせいで。
文脈的に北条もここにいる事は知っているだろう。
(……完全にやらかしているのでは??)
「ううっ、頭が……い"だい"ッ……!!」
「ゆーちゃん大丈夫!? まだ寝てた方が……」
「大丈夫か? 薬、飲めるか?」
(うん……今はこの状況を満喫しよう!!)
調子悪い南雲さんは調子が良い時の南雲さんに問題を丸投げする事にした。
尚、怖すぎるので西宮からのメッセージは未読で放置した。
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