第265話 水陸両用 side 南雲 優
今日はワタシの誕生日。
去年からの流れでなんとなくみんなが何かを用意してくれてたのは知っていた。
正直言うとちょっぴり期待しちゃってる。
だけど……
代表で美保ちゃんがプレゼントしてくれたのは謎の棒(?)
用途も何も分からないのでリアクションに困る。
「みんなで頑張って考えたプレゼントだから大切にしてくれ」
「う、うーん。大事にするね? みんなありがとう!」
どう大切にしろと!?
とりあえずワタシは謎の棒を箱に戻して鞄に入れた。
まぁいいや。後から教室でみんなに聞こう。
……そう思ってたらなんか下駄箱で紗弓ちゃんからも同じような棒を貰った。
なんなのコレ!?
***
始業前には聞けなかったので授業中にもう一度プレゼントを確認してみた。
素材はよくわからないけどビニールとかの樹脂。
両方とも形状はV字で、よく見ると脚に見えなくはない。
(……もしかしてこれ。一人ずつフィギュアのパーツをプレゼントしてくるのかな?)
そんなワタシの予想は正しく、1限目が終わると杏樹ちゃんが明らかに右腕を持ってきた。
「完全に理解した」
「でしょうね。それでは
しかし、ここでワタシは悲しい事に気付いてしまった。
この服装、どこかで見覚えがある。
日常生活ではセルフモザイクで視界に入れないようにしているがこれは……
***
その予想も正しく、2限目が終わると十河さんが新たなパーツを持ってきた。
「はい♡ せーんぱい! 私からのプレゼントです♡」
「ありがとう……なんか今回のパーツ大きくない?」
しかし、今度のパーツはちょっと違って左腕と胸部がセットになっていた。
「不正はやめなさい。それは抱き合わせ販売よ」
「あぁっ……!! 西宮先輩!? 私の腕をもがないで!!」
何やら不正したらしい十河さんの胸部は返品され、ワタシは左腕だけプレゼントされた。
胸部のネタバレもくらって核心を得た。
ワタシの誕生日プレゼントは、
――
(ど、どうしよう……全然要らないんだけど……)
でも、みんが考えてプレゼントしてくれてるしなぁ……。
これから貰うであろうあーちゃんと茉希ちゃんからの丸井月のパーツをワタシは大事に出来るのだろうか。
正直、あまり自信はない。
***
3限目が終わると茉希ちゃんがお腹から腰辺りのパーツを持って来て、遂に3つのパーツが合体した。
「う、うわぁ。へたりこんでる感じだぁ……」
「優……その、詳しくは言えないけど……まだ希望は捨てるな」
ネタバレもあった為、何となくポーズの予想がついた。
地面にへたり込んで恥じらいながらスカートを押さえるポーズだろう。
ここから丸井の恥じらう顔を想像すると無性に腹が立つ。
みんなもみんなだよ!!
なんでよりにもよって丸井のフィギュアなの!?
十河さんにどう唆されたらそうなるのかがサッパリわからないよ!!
茉希ちゃんは励ましてくれたけど、ここから希望なんて……
***
そう思った矢先、昼休みに西宮さんから貰った胸部パーツで流れは変わった。
「……!? あ、ありがと」
「誕生日おめでとう。これでほとんど完成するわ」
(さっきとパーツが……違う!?)
十河灯と丸井月の体形はほぼ一緒、だけどこのパーツはどちらのものでもない!!
この胸の大きさ、形状、私が見紛うハズもない!!
ワタシは万感の思いでフィギュアを組み上げて机の上に置く。
あとは最後のパーツを待つのみだ。
「な、南雲さん……? 授業に関係ない物はしまいなさい。というかその人形? 首が無いので怖いんですけど……」
最後のパーツが早く見たい……!!
***
五限目が終わると、あーちゃんがおずおずと最後のパーツを持ってきた。
「ゆーちゃん、誕生日おめでとう。これ、自分で渡すのはなんかちょっと気恥ずかしいけど……はい」
「あーちゃん……はわぁ……」
……完成したのは、あーちゃんのフィギュアだった。
なんで丸井月のコスプレをしているのかは完全に謎だけど、完成度が非常に高い。
頬を赤らめて恥じらうあーちゃんが最高に可愛い!!
なんで丸井月のコスプレをしているのかは完全に謎だけど!!
***
追加で西宮さんから貰ったケースに大事にあーちゃん(1/7スケール)を入れて携行する。
再度、みんなにお礼を言う為に家庭科室へ。
「みんな……ワタシの為にこんなサプライズをありがとう。途中まで絶望だったけど……最後はとっても嬉しかったよ!!」
「南雲先輩に喜んで貰ってよかったです!!」
「しっかし、完成度たけぇな。パンツとかどうなってんの?」
「確かに気になりますわね。南雲さん、拝見させて貰っても?」
「ちょッ……! みんな、僕のパンツ見ないでぇ!!」
「いや、正確にはお前のパンツではないだろ」
みんながワイワイやっていると、十河さんがもじもじとした様子でやって来た。
「先輩? 実はこのフィギュアまだ完成してないんです」
「そうなの!? まだ何かあるんだ!! 欲しい!!」
「はい♡ 先輩、最後のパーツですっ♡」
「おぉー……!! ……ん?」
そう言って渡されたのは丸井月の胸部と頭部。
ワタシはそれを大事に握りしめ天高くかざす。
「いるか!! こんなもーーーんッ!!」
そして、地に叩きつけた。
「あぁ……っ!! 先輩、なんて事を!!」
蛇足とはまさにこの事である。
たぶん十河さんがゴネたからみんな仕方なく用意したのだろう。
「……まぁそうなるわよね。五味渕、可哀そうだから彼女の四肢も用意してあげなさい」
「畏まりました、すぐに用意致します」
「西宮先輩……ありがとうございます!!」
「いいのよ」
退室した後に一瞬で帰ってきた五味渕さんがパーツを持ってきた。
「あの」
「……なにかしら?」
「これ、『ガン○ラ』って書いてあるんですけど?」
「……書いてあるわね」
「しかも、なんでよりにもよってズゴ○クなんですか!! 腕がジャバラになってるんですけど!!」
「申し訳ございません。すぐにご用意出来るパーツがそれしかなくて」
「逆になんでズ○ックはすぐに用意出来るんですか!?」
その後、丸井月に仮の四肢として取り付けた○ゴックのパーツは一生取り替えられる事はなかった。
まぁ、どうせそんなに見るもんでもないし。なんでもいっか。
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