第263話 ちょっとかしこめの犬
3組の和解が行われたことにより、既に球技大会の件は終わっているような雰囲気が出ているが、忘れてはならないもう一組がある。
「今日もよろしくお願いします! 西宮さん!」
「ゴールデンウィークにもデートしたものね。何だったら明里とのデートより頻度が多いわよ」
「じゃあボクもう西宮さんの彼女ですね~」
「そうよ」 (←即答)
別に嫌悪な関係でもなく、本当に普通のデートをするのはこの一組ぐらいだろう。
なんだかんだ3組がバタバタしていたのでお忘れかと思うが、元々は球技大会で負けた際の罰ゲームは『後輩とのデート』である。
3組が『コメディ』寄りだったので、ラブコメ詐欺と言われない為にも西宮氏には是非『ラブ』を担当して頂きたところである。
***
そんな2人が今日いらっしゃるのはなんと海。
その海でやろうとしている事が、これまたなんと釣りである。
尚その一帯は当然、西宮家所有の土地なのでその点は安心して頂きたい。
「わー。ここ全部西宮さんの領土なんですね!」
「領土ではないわ。私も国を持っている訳ではないの」
プライベートビーチについては海岸法や各自治体の条例などが絡んでくるのだが、ゆるふわ系百合コメではそういう細かい話は無しにしよう。
とりあえず、この付近には西宮家の息の掛かった者しか居ないという認識で問題はない。
荷物の五味渕を連れて2人は堤防を歩いて釣りスポットを目指す。
「やっぱりお嬢様って魚介類が好きなんですか?」
「……どういうイメージなの? 別にただのきまぐれよ」
「そうなんですね。この前、杏樹とも潮干狩りに行ったので」
「へー。確かにそれも面白そうね」
同じお嬢様として潮干狩りに惹かれるものがあったらしい。
ただ、こちらのお嬢様には四方堂とは大きく異なる点があった。
それは釣り具のセットを用意した五味渕が餌箱を渡した時に発覚した。
「どうぞ、お嬢様。この虫を針に通して下さい」
「絶対に嫌よ」
無数の虫たちが
「いえいえ、遠慮なさらずに。釣りの醍醐味ですよ」
「絶っっっっっ対に、嫌よ」
「……ボクが通しましょうか?」
寧ろ五味渕は、この反応を引き出したくてやっていたまである。
西宮は汚れることはおろか、虫を触るなど言語道断であった。
おそらく潮干狩りに行っても貝には触れないだろう。
「ちなみに西宮さんは魚には触れるんですか?」
「綺麗なお魚さんなら触れると思うわ」
「なんか急にお嬢様の一面が出てきましたね」
「では、綺麗な
お嬢様思いの執事は傍らで優しい笑みを浮かべていた。
(※カサゴさんとは?)
割と釣れる上に派手な見た目の魚。
毒棘があるので初心者は絶対に触らないようにしましょう。
尚、味は非常に良好。
***
餌の取り付け、投げまでやって貰ったので実質釣り竿を持っているだけの西宮。
あとはそれっぽい振動をしたらリールを巻くだけである。
……果たしてこれを釣りと呼べるのか。
そもそも彼女は釣りが好きとかではなく、釣りに来たのはただの気まぐれ。
釣り糸を垂らしているだけで彼女が楽しんでいれば良いのだが……
「暇ね」
暇とか抜かしていた。
「天気も良いしエッチでもしましょうか」
「いいですよー」
「いいの!?」
「一旦、リール巻きましょうか?」
「いや……ちょっと待ちなさい」
一ノ瀬後輩のあまりにも軽いノリに西宮の脳内では緊急会議が行われていた。
西宮A(軽すぎない!? これが体育会系のノリなの!?)
西宮B(それは全国のスポーツ少女に失礼よ、麗奈)
西宮C(おそらく、彼女の貞操観念が終わってるのよ)
西宮D(ならば、これは据え膳。征かねばガチレズの恥)
西宮E(待ちなさい。あなたは過去の過ちから何も学んでないの?)
西宮F(……そうね。めんどくさいけど世間体とかあるものね。私は成長したのよ)
協議の結果、後で絶対にめんどくさい事になるという事でエッチを我慢する事になった。
この1年で様々な経験をした西宮には確かな成長を感じられた。
「やっぱりエッチはナシよ」
「了解でーす」
「でも、胸はちょっと触らせなさい」
「どぞー」
ただ、人と言うのはそう簡単に根っこの部分は変わらない。
そんな現実も垣間見える一幕であった。
軽くお触りし始めたら釣れ始めたので、そこからは2人で釣りを楽しんだ。
ちなみに、カサゴさんも釣れました。
西宮は一ノ瀬の胸くらい気軽に素手で行こうとしたので、五味渕に全力で止められた模様。
***
――後日。
「……という事があって、私は自分の成長を感じられたわ。褒めなさい」
「麗奈が後先を考えられるなんて……(涙)」
西宮は昼休みの学園で3人に自らの武勇伝を語ってみせた。
「やるじゃん。『待て』が出来るようになったんだ」
「マジですげーな。『お座り』とかも教えたら出来るようになるんかな」
泣いている東堂を除き、残りの2人は西宮の自制心をちょっとかしこめの犬程度にしか見ていなかった。
と言っても、未だ『待て』くらいしか言う事を聞いてくれないのでお犬さんにも失礼かもしれない。
「あ! じゃあ、麗奈。お手!」
「…………」
この後、西宮は東堂の胸にお手付きして南雲にシバかれた。
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