第262話 アイドルの顔面もグーで行けるラブコメ


前回を見逃した方の為にも分かり易いあらすじを説明すると、現在2名が捕縛され西宮にデスゲームを迫られております。

これから20分の間、西宮が出すお題に沿って会話し十河は否定を、東堂は肯定をしてはならない。



「行くわよ。ハイパー♡仲良しタイム、開幕よ」


『名前ださ』


『あ、茉希ちゃん。ワタシ、キャラメルポップコーンがいい!』


『あいよー』



尚、残り5人は別室で観戦してます。



***


お題①:『対面している相手の事が好きですか?』


「ふふっ……私を舐めないで下さい西宮先輩。私の本職は何だと……」



――ウィーン (←十河が前に傾く音)



「ちょっとぉ!? え!? 私ミスしました!?」


「ゲームマスターを無暗に煽らない事。今あなたたちの生死は私の指先一つで決まるのよ」


「理解しました! ……こほん。ええ。大好きですよ♪」



病みながらもアイドル系の人気Vtuberを続けているだけあって、思ってもいない事に感情を込めて発言するのはお手の物だった。


言わば彼女は現代社会が生んだ悲しき化け物である。



「明里は?」


「……き、嫌いかな」


「どうして?」


「掘り下げてくるの!? えーと……ゆーちゃんにちょっかい掛けたりするから……とか?」


「は?」


「なるほど。で? 十河さんは明里の事好きなんだっけ?」


「え ぇ 。 も ち ろ ん」



十河は既に過剰なストレスにより呼吸が乱れていた。

この2分程度のやりとりをあと10回耐えれば南雲の元へと帰れる。

その希望だけが十河の精神的な柱になっていた。


――しかし、本当の絶望はここからである。



お題②:『今の回答を南雲さんに誓えますか?』


瞬間、十河の顔から血の気が引いた。



「どう、明里? 誓える?」


「ゆーちゃんには誓えない」


「……十河さんは?」


「ち、ちか……誓えませんッ!!」



――ウィーン (←十河が前に傾く音)



……お分かり頂けただろうか?


西宮がやりたいことは非常に単純で、この企画の趣旨は、

『東堂と接触したくなければ南雲に誓って仲直りをしろ』という事である。


まぁ早い話ここからのダイジェストを見ればそれは分かるだろう。



~~~Dieジェスト~~~


お題③:『対面している相手と仲良くできますか?』


(東堂)「出来ません」

(十河)「……出来ます」


お題④:『それは南雲さんと約束できる?』


(東堂)「出来ません」

(十河)「……でぎま”ぜん”ッ!!」


お題⑤:『対面している相手とデート出来ますか?』


(東堂)「出来ません」

(十河)「……でで、でき、出来ます」


お題⑥:『そのデートに南雲さんを含むことは可能ですか?』


(東堂)「出来ません」

(十河)「いやぁぁぁあああッッッ!!!!」


~~~ 完 ~~~



以上の質疑を繰り返した結果、

両手を思いっきり広げている東堂の胸の中で十河はギャン泣きしていた。



「うぁぁぁーーー……ひっぐ、なんで、なんでしぇんぱいが好きなだけで、こんなぁ……こんな目にぃ」


「れ、麗奈? これ結構なガチ泣きなんじゃ……」


「そ、そうね……。まるで私たちが悪い事をしているみたいだわ」



やってる事は、拉致、監禁、拘束のトリプル役満なので余裕の謝罪案件である。

西宮は十河の体勢を戻そうとした時、



『……待ってくださいお姉様、その女の本職を覚えてますか?』


観戦用のタブレットを通して四方堂が語り掛ける。


「え……まさか?」


「で、でも! 杏樹ちゃんには見えないかもしれないけど、現場の十河さんは凄い泣き腫らしてて……!!」


「ぇ、ええーーーん!! なんで、杏樹は親友なの、にッ!!」


『おぉん? なんか嘘くせーな。踏み絵だ、踏み絵を用意しろ!』



外野が盛り上がって来たので、急遽西宮はお題を用意した。



お題EX:『流した涙が本当だと南雲さんに胸を張れますか?』


「無理です。ウソ泣きです。先輩すいませんでした」


「「えぇ……」」


シャーペンの芯くらいカンタン綺麗に涙は収納された。



――ウィーン!! (←東堂の腕が高速で閉じる音)



とりあえず西宮は罰として東堂の腕を目一杯閉じる事に。

思いっきり胸の中にいる十河を思いっきり抱きしめる東堂。

するとムードもへったくれもなく十河は暴れ散らかす。



「ぐッ!! くッ……殺せ!! とは言いませんよ!! 私はどんなに汚されようと、絶対に先輩の腕の中に帰るんだ!!」


『そこは君の巣じゃないよ。ちゃんとお家に帰ろうね』


「どう? 明里とは上手くやっていけそう?」


「ゴミゴミゴミゴミゴミ、カスカスカスカスカス」



彼女の口からは、到底アイドルとは思えない様な暴言しか出て来ない。



「れ、麗奈? 最初より酷くなってる気がするんだけど……」


「……距離は近くなったわね!」


「心理的には離れてるよ!?」



こうして、西宮のお陰で2人の距離(物理)はだいぶ縮まった。



***


五味渕が十河の拘束を解くと彼女は無言かつ、光の速さで家庭科室へと駆けて行った。

音を立てて家庭科室の扉を開け放つと、彼女は南雲の前に立つ。



「先輩!! 私、頑張りました!! ご褒美下さい!!」


「は? あーちゃんに抱きしめられただけじゃん。うらやましいだけじゃん」


そこで徐に十河は両手を広げた。


「はい、先輩♡ あーちゃんですよ!!」



――ガッ!



十河の顔面に南雲の拳が入った。



「あーちゃんを騙るな。小娘が」


「あ、アイドルの顔面にグーパン……」


北条は容赦ない南雲を見て若干引いていた。


「あ……♡ あぁ……♡ 先輩の可愛い拳が私の顔に……!!」



しかし、それ以上に虫のようにのたうつ十河を見てドン引きしていた。



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