第261話 出られない部屋(Ver.西宮)


今日は遂にあの十河と東堂の話し合い。

東堂の呼びかけには絶対に応じないと思われていた十河だが、



「……十河さん。この状況に心当たりは?」


「あるわけないですよねッ!? 出して!! ていうか拘束解いて!!」



今現在、彼女は奇跡的に東堂の前に居る。

この世界にやはり奇跡も魔法もあるのかもしれない。


そんな冗談は置いといて。

ジタバタと暴れている十河の現状を説明するのに非常にややこしい。



「ようこそ、麗奈の部屋へ。あなたたちには今からデスゲ……ミニゲームを始めてもらうわ」


「今なんか言いかけてた!! 東堂!! なんとかして!!」


「あれ……敬称外されて……仲悪くなってない?」



まずは、ここに至るまでの説明をしよう。



***


十河を抜いた7人が集まる後輩対策会議ならぬ、十河対策会議。

目下の課題はどうやって東堂と十河を引き合わせるかなのだが。



「しゃらくせぇ。みんなで奇襲掛けてどっかに縛り付けようぜ」


「いいんじゃない? 十河さん縛られるの好きそうだし。力仕事ならボクに任せて!」


「ワタシもさんせー! 異議なーし。ワンチャン、そのまま処そう」



こうして、顔を合わせて2秒で方針は決まった。



「無力化には貢献出来るわ。人を拘束した実績があるの」


「流石はお姉様、頼りになりますわ!!」


「いや、ホントお前のお姉様は流石だよな……」


「みんな、僕の為にこんな……!! 絶対に十河さんと仲良くなるよ!!」



これが十河が今まで徳を積み続けて来た結果である。

そんな彼女の為、7人の侍がいざ尋常に参る。


作戦はこうだ。


①南雲がハンカチ※1をプレゼントする。

(※1.サスペンスで使用される怪しいクスリが塗布されております)

②十河が匂いを嗅ぐ※2

(※2.口に含むでも可)

③無力化

④特別準備室に配送

⑤みんなで十河を縛り付ける。



みんなが一つの目標の為に一致団結しつつある。

……そんな中、西宮はサプライズで恐ろしい事を考えていた。



⑥西宮が何気なく東堂の汗をハンカチ※3で拭く。

(※3.サスペンス仕様)

⑦東堂も縛り付ける。



***


そして現在。

この複雑な状況を文章で説明させて頂こう。


まず、五味渕が設置した大掛かりな装置により、

十河はガチガチに拘束されたうえ、天井からロープで吊るされてミノムシのような状態でつま先立ちになっている。

そしてこの装置はここから十河の角度を前傾姿勢に変えていくことが出来る仕組みになっているらしい。


原理は謎。


対してその対面に位置する東堂も十字架みたな装置に張り付けられて各関節は縛り付けられている。

広げた両手の部分のみ装置によって畳む事が出来るようになっているらしい。


当然、原理は謎。



「デスゲーム、間違えた。ミニゲームのルールは簡単」


「もう今デスゲームって言った!! あの人、デスゲームって言いましたよ!!」


「あんまりうるさい事言うと……こうよ」



十河はゲームマスターのルール説明に茶々を入れ、彼女の気分を害してしまったらしい。

西宮が何やら手元のボタンを操作すると、ゆっくりと十河の体は前に傾く。


するとどうなるか?



「ひ、ひぃぃぃぃ!? 東堂ッ!! 離れて!! 私から離れて!!」


「ごめん、僕も拘束されてて……」


「お分かり頂けたかしら?」



十河の顔面が東堂の胸に目掛けて少し近づいた。

全力で海老反りするがそれも無意味で、あと数回傾けば東堂さんのお胸に額を擦り付けることになるだろう。



「今からするミニゲームの制限時間は20分。私が出したお題について2人で話し合うだけよ」


「い、いやぁぁぁ!! 家に返して!! こんな奴の胸になんて飛び込みたくない!!」


「あら、まだ立場が分かってないようね。それに胸に飛び込むだけじゃないわよ」



西宮が手元のボタンを操作すると、今度は東堂の腕が十河を優しく包み込もうと動く。

十河の方には動きは無かったが、彼女の顔からは血の気が引いて行った。



「ぁわ、わわ……わ、分かりました!! ルール説明をお願いします!!」


「よろしい。今から十河さんは否定をしてはならない」


「……それだけ? 簡単ですね」


「当然、黙秘はダメよ。そして明里は肯定してはならない」


!」



――ウィーン (←東堂の腕が閉じる音)



「おいいいぃぃ!? やる気ある!? バカなの!?」


「ご、ごめん。ゲーム始まってるとは思わなくて……」


「今のはちょっとした麗奈ちゃんジョークよ。今回の分は戻してあげるわね」



――ウィーン (←東堂の腕が開く音)



「とにかく、出したお題に対してお互いに質疑応答して20分過ごしなさい。きっと終わる頃には抱き合うことになんの抵抗も無くなってるわよ」


「そんなワケ無いじゃないですか!!」


「否定……?」



――ウィーン (←十河が前に傾く音)



「ま、まだゲーム始まってませんよね!? 灯ちゃんジョークですよ!!」


「そうよね? あまりにも可愛らしいジョークだったからついつい私の手も滑ってしまったわ」



――ウィーン (←十河が元の傾きに戻る音)



始まる前から相当にドタバタしていたが、西宮氏によるデモンストレーションのお陰でだいたいのルールはご理解頂けたと思う。


ここからは十河にとって悪夢の20分が始まる――



***


ちなみに、残り5人はデスゲームの様子を見ながら家庭科室で和気藹々とポップコーンを摘まんでいた。



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