第260話 アレをしないと出られない部屋


後輩対策会議を経て美保をデートに誘った南雲。

美保は絶対に自宅から出ないという意思と共に籠城しようとした結果――



「えへへ。2人きりだね……」


「やかましいわ!! お袋!! 開けろ!!」



……自室に監禁された。



***


長女から事情を聞いていた母は南雲が来訪した際にあっさり家へと上げた。

すると次女は、今度は自室に籠城しようとしたのだがそれもあっさり突破され、挙句の果てには南雲と共に監禁されてドアノブに何かを噛まされ扉が開かなくなってしまった。


『そこを出たけりゃ南雲ちゃんと仲直りしな』


瑠美はそう言い残して自室へと帰っていった。

そうして冒頭の状況へと至る。



「は? なんでお前午前から来てんの? バカなの? アタシらの関係性でよく一日過ごそうと思ったな?」


「時間掛けてゆっくり仲良くなろうかと」



本日は土曜日で長女はバイトのため不在である。

その為、今日は2人っきりでたーっくさんお話が出来る状況が整っていた。



「えっ……ふつーに地獄……嫌いな奴にアタシの休日を丸一日持ってかれるのマジ?」


「じゃあ今日は好きになっちゃおう!!」


「なるかボケ!! 頭ん中お花畑なんか!!」



距離を詰めようとする南雲と身を守ろうとする美保の間でしばらく攻防は続いた。

美保はちゃっかり姉のベッドに潜り込み、ちゃっかり姉が使っているタオルケットを堪能した後にそれを身に纏い南雲を睨みつける。


暫しの間、沈黙が流れた――



***


引き続き微妙な雰囲気の中、美保は何かを言いたそうな気まずい表情を見せる。

しかし、その沈黙を破ったのは南雲からだった。



「……美保ちゃんはきっと、ワタシに茉希ちゃんを取られちゃうと思ってるんだよね?」


「思うって言うか、もう取ってるだろ」


「た、確かに?」


「否定しないんかい!! 話下手か!! て、てか、南雲……」


「ちょっと待って! まだいい感じに話持ってけるから!!」


「いや! それ言ってる時点でもう台無しだから!!」



美保を遮った南雲は眉間に指を当てしばらくの間熟考した後、再び語り出す。

その間も相変わらず美保は何かを言いたそうに震えていた。



「ワタシはさ。少しだけ美保ちゃんの気持ちわかる気がするんだ。だって……」


南雲は胸に手を当てて東堂の事を考える。


「自分より大切だったものを誰かに取られちゃう気持ち。凄く理解出来るから。

美保ちゃんにとっての茉希ちゃんは、ワタシにとってのあーちゃんみたいな感じで、美保ちゃんがワタシに向ける感情は、ワタシが西宮さんに向けてた感情と同じものだと思う。


だけどね、そんな時に茉希ちゃんはワタシに……」


「ご、ごめん、南雲。その話長くなりそう?」



真っ青な表情をする美保は股間を押さえている。

フルフルと震えながら目に涙を貯めて何かに耐える様子は完全にアレである。



「え? あと一時間は語れるけど?」


「ひッ……!! む、むり! トイレ行きたい! 漏れる!!」


「え!? どうしてもっと早く言ってくれなかったの!?」


「言おうとしたけどお前が……って、今はそれどころじゃないって!! お袋ーーーッ!!」



緊急事態につきドアはバンバンと叩きながら叫ぶ美保。

そんな事は露知らず、瑠美はのそのそと自室から出て来た。



「おい。あんま叫ぶな。近所迷惑だぞ。仲直りは出来たのか?」


「そんなんどうでもいから開けて! トイレッ!」


「あー、はいはい……」



瑠美がドアノブに噛ました棒を外すと美保は急いで扉を開ける。

そのまま飛び出すようにトイレに向かおうとした瞬間、瑠美に首根っこを掴まれた。



「ひぅ!! 何してんの!? 漏れる!! 漏れちゃうから!!」


「私、言ったよな? 仲直りするまでこの部屋出れないって。南雲ちゃんと仲直り出来たのか?」


「あぅ、あわわ……」


「選べ。南雲ちゃんの前でビッシャビシャにおもらしするか、仲直りするか」


「するする!! トイレ行ったら仲直りするから!!」


「よし行け」



ギリギリのところで人としての尊厳を守る事が出来た美保は再び南雲が居る部屋へと帰って来た。

今回は未遂だったが、何かとおもらし案件に縁のある南雲だった。



「ふぃ~。 で? なんの話だっけ?」


「いや、もう全部飛んだって……こっからいい話する雰囲気には持ってけないじゃん……」


「あー、ほら。西宮さんがどうのとか言って」


「まぁ……そう。なんだかんだワタシと西宮さんも仲直りしてるでしょって話がしたかったの!」


「ふーん」



する事してきた美保はもはや本当にどうでも良さそうである。

そして、今はクリアな頭で南雲の言っている事を理解出来た。



「じゃあさ。南雲は、東堂さんと西宮さんがイチャイチャしてるの見ても今は平常心なの?」


「え?」


「……え?」



感情的にした例え話に冷静な例え話が襲い掛かる。

咄嗟の出来事に思わず南雲の目は泳いだ。



「ど、どゆこと? 話繋がらなくね? え、結果、南雲と西宮さんは仲良いの? 悪いの? え、全然ワケ分かんねぇ……」


「と、とにかく!! 今度、西宮さんとワタシが仲良いとこ見せてあげるから、それ見たら美保ちゃんも考え直して!」


「まぁ……姉貴絡みじゃなきゃ少しは考えてやるけど……」



***


――後日。



「西宮さんっ!!」


「何かし……」



――ぎゅっ



「!?!?!?」



美保を連れた南雲は目の前で西宮を後ろから抱き着いて見せた。

尚、セクハラ防止の為両腕ごと抱きしめている辺りが最高に友情を感じられる。

これぞ信頼感の為せる技だろう。



「……どう??」


「それ流行ってるの!?」


「ワタシたち仲良い……よね?」


「ど、どうゆこと? え? あなたもデレ期……というか私のモテ期!?」



南雲にお触りしようと抜け出そうとする西宮だったが、結局別れるまでその拘束を解く事は出来なかった。

またも西宮は何の為に何をされたのかがよく分かっていない様子だった。



***


「ね!? 仲良かったでしょ?」


「うーん? アレがアタシらの1年後の姿?」


「そう!」


「うーん……まぁアレを仲直りに含むなら……仲直りしてもいいかなって」


「ミホチャン!」



――ぎゅっ



「うーん…………」



こうして南雲も美保にハグ出来るくらいには関係性が改善(?)した。



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