第259話 歴史的和解


例の案件から一番最初に話し合いの予定を取り付けたのは北条だった。

部活の無い放課後に2人で喫茶店でお茶を飲む事に。



「良い判断ですわね。いきなり一日付き合わされたらどうしようかと思っていましたわ」


「それくらいには嫌と……思えば四方堂さんは出会った時から俺に厳しいような……」


「覚えておりませんわ」



先輩組は裏で一度集まって後輩対策会議という会議を開いている。

なので、出会ってからここまでの関係性はある程度おさらいしていた。



「そうだな……せっかくの機会だし、俺も怒らないから、率直に俺の気に入らない所を教えてくれ」



北条は策を弄さずに実直に申し出る事にした。

対面に座る四方堂もその空気を察してか北条と顔を合わす。


と、言うかそれは睨むと言った方が正しい。



「お姉様に狼藉を働いている所ですわ」


「狼藉て……」


「この際ハッキリ言わせて頂きますが、あなたはお姉様の扱いが世界一乱暴ですわ」


「そこまでじゃねぇだろ……いや、聞こう。詳しく聞かせてくれ」



北条はいつものメンツ以外から西宮と自分の関係性を改めて聞いてみたいと思った。


意外にも真摯で素直な彼女を見た四方堂は少し驚く。

『この金髪、中々殊勝な心掛けですわね』と。

しかし、彼女はすぐに表情を戻して西宮について熱く語り始めた――



***


北条が盛りに盛られた西宮の話を整理しながら真剣に話をまとめると、


・殴り過ぎ

・もっと優しくしろ

・お姉様のアタックを冷たくあしらうな


だいたいこんな感じである。



「……そんな殴ってる?」


「ツッコミついでにお姉様の頭を叩きすぎですわ。芸人でも目指してますの?」


「い、いや、でもアレはほら! 全然力入ってないし? スキンシップみたいなもんだろ?」


「暴力女の常套句ですわね。スキンシップならお姉様の手を握って差し上げて下さい。よっぽど喜びますわよ」


「ボケに対して急に手握ったら怖いだろ!」


「殴る方が怖いですわよ」


「それはそうか……」



南雲はもちろんの事、東堂や西宮本人もあまり言ってこなかった意見を聞いた北条は素直に反省した。

四方堂は少し凹んで俯く北条の手を優しく握る。



「あなたはちゃんと反省出来ますのね。そう、暴力は良くない事ですわ」


「四方堂さん……」



会議で聞いた通り、彼女は本当は優しく気さくで面倒見のいい子だった。

北条が態度を改め歩み寄れば、驚くほど簡単に彼女との和解は出来そうである。


ただ……



「……でも君さ。優の友人、夜咲さんを殺害しに部屋に乗り込もうとしてたよね?」


「…………」


彼女は胸に手を当てて温かく柔らかな笑み浮かべた。


「それはそれ。これはこれ。 ですわ♪」



「サイコパスじゃねぇか!!」



なんにせよ北条は歴史的和解を果たす為、もとい西宮へと謝罪する為に四方堂と共に彼女の元へと伺う事にした。



***


――翌日。



「ごきげんよう、お姉様! 突然失礼ですがボケて下さいませ!」


「ごきげんようガブ。今日も殺人的なフリをありがとう」



早速2人で落ち合って西宮の元へ。

例の件を試す為、四方堂に段取りを任せた結果がコレである。

しかし、サービス精神旺盛な西宮はスマホで何かを検索した後にボケ始めた。



「こほん。


パンダがレストランに行きました。

ウェイターが『何にしますか?』と聞くと、

パンダは『竹』と答えました。


食事が終わると、パンダはテーブルをひっくり返して店を出ようとしました。

ウェイターが驚いて「どうしたんですか?」と聞くと、

パンダは辞書を指差してこう言いました。


『パンダ。食べて、壊して、去る。』」



「「??????」」



余りにも難しすぎるボケに困惑する2人。

果たしてボケなのか、そもそもオチが何処なのかも全く分からない。

しかし、我らがツッコミエースこと北条は必死に頭を回した。



「え、AIのジョークか~い!!」


「正か…ぃ……」


――ぎゅっ


そして西宮の手を握ってみた。



「!?!?!?」



訳分からない西宮のAIジョークの朗読に、訳分からないタイミングで手を握る北条。



「……どう??」


「『どう』とは!?」



何もかもが訳分からない状況であるが、四方堂はしたり顔で頷いている。

ここで当初の予定通り北条は謝罪をする事に。



「そ、その。今までバシバシ頭殴って悪かった……」


「ど、どうゆこと? え? デレ期始まったの??」


おもむろに西宮は北条の胸へと手を伸ばす。


「ちっげぇよ!! あっ……」



北条は普段通り殴ろうとしたが、四方堂の冷たい視線に気づいてハッと手を引っ込める。

代わりに、殴るのではなくあくまで手を強く握ってみた。



「そ、そういのじゃねぇから」


――ぎゅっ


「完全に理解したわ!! デレ期ね!!」


「だから、ちっげぇって!!」


――ぎゅっ


「け、けしからん女ね。さっさとヤらせなさい!」



こうして、セクハラしようとする西宮と暴れながら手を握る北条でイチャイチャしていたが、結局は北条の鉄拳が炸裂した。


謎にボケさせられた上に最終的には殴られただけの西宮であった。



***


場所を移して再び四方堂とサシで話す北条。



「え? アレは俺が悪いって判定なん?」


「汝、お姉様の愛を受け入れなさい」


「てかさ、お前はそれでいいの? 俺と西宮がイチャついてたら十河さんみたいにならない?」


「なりませんわよ。あんなサイコパスと一緒にしないで下さい」



いまいち納得がいかない北条だが、四方堂は胸の前で手を組みまたも優しい笑みを浮かべる。



「いいですか? お姉様は聖母のようなお方。その寵愛を受ける女性は星の数ほど居るというのは古事記にも書いてありますわ」


「書いてねぇよ」


「書いてあります」


「お、おう……」



北条は初めてツッコミに対しマジレスを返されてたじろぐ。

しかも、しょーもない嘘である。



「ですのでわたくしは全人類、お姉様の愛は素直に受け止めるべきだと思いますわ」


「……夜咲さん殺そうとしたのに?」



すぅー、と彼女は一つ深呼吸した後、満面の笑みを浮かべる。



「それはそれ。これはこれ。 ですわ♪」


「…………」



それから北条は西宮の待遇改善に努め、四方堂との関係性はだいぶマシになった。

今後はなるべく四方堂の前では事に及ばず、西宮をシバく時は物陰でシバく方向性へと改善した。



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