第258話 起死回生の一手
起死回生。
それは死に瀕した危機的な状況を覆し、良い方向へと立て直す。
そんな意味合いを持つ言葉だ。
先輩組 8-14 後輩組
今回のソフトバレーは14点先取で勝敗がつけられる。
この時の先輩組の状況を例えるなら『瀕死』ではなく『死』。
ここから『回生』が出来るのはおそらく高難易度の死にゲー主人公くらいだろう。
しかし、ゆるふわ百合コメディ(?)の登場人物の一人でしかない西宮にもその素養があったらしい。
***
「っしゃ、オラァァァ!! 勝ったぞーーー!!」
「みほっち参加しただけじゃん……」
「まぁ、本気で勝ちに行くならメンバーから外したよね」
「何はともあれ
3位決定戦にも関わらず、お互いのミスによる失点、連続得点はワンパターン……と去年同様に激寒だった球技大会に観客たちは満足気である。
それはB級映画を見た後の満足感に似ていた。
もはやこれは、この季節の丸女の風物詩になりつつあるのかもしれない。
コートから出た8人は互いの健闘を称え合った。
「みんなお疲れ。 ……で、結局罰ゲームはなんだったの?」
「東堂先輩もお疲れ様です! 聞いてなかったんですね……」
「ふっふっふ……罰ゲームはアタシたちとのデートだ!!」
「あー……そういうね。まぁ、俺らは別にいいけど」
ようやく罰ゲームの内容を聞けた2人。
東堂は一ノ瀬と、北条は美保とのデートになるであろう事が分かっているので心穏やかである。
――だからこそ、北条は違和感に気付いた。
『こんなに穏やかでいいのだろうか?』と。
「てかさ、ごめん。もう一回、君らが勝った場合どうなるのか教えて?」
「先輩たちが私たちをデートに誘います♡」
「……君ら負けたら?」
「私たちが先輩たちをデートに誘いますっ♡」
「詐欺じゃねぇか!! 俺らにメリットねぇだろ!?」
そう、メリットが無いのである。
これでは戦う前から負けは確定している。
――だからこそ、東堂は違和感に気付いた。
『果たして麗奈がそんな勝負をするのだろうか?』と。
「そんなものは騙される方が悪いんです! 先輩のお誘い……キャーッ♡」
「そうだ! そうだ! もう約束してたからな! いえーい、姉貴っとデ~ト!」
「お姉様、騙すような真似をして申し訳ありませんが……」
「あなたたち……いつから自分たちが騙す側だと錯覚していたの?」
「「「なん…だと…?」」」 (←後輩3人)
ノリノリに調子乗っていた後輩たちが硬直する。
南雲も西宮の裏でなんかキメ顔をしている。
「私たちは正式に約束をする時に言ったはずよ。負けた側が相手をデートに誘うと。そうよね、南雲さん?」
「うん! ちゃんとボイスレコーダーに録音してあるよ!」
当初はただデートをする、と言う文言だったが西宮は負けた側に更なるペナルティをつけるように装った。
誘われたい欲に駆られた後輩たちは気づかずに快諾したが、それは指名を避ける為の西宮の工作だったのだ。
「そう、つまり……デートする相手を選択する権利は負けた側にあるのよ」
「ず、ずりぃ!! そんなん詐欺じゃん!!」
「おい。騙そうとしてた奴のセリフじゃねぇぞ」
「でっ、でも先輩は私を選んでくれるんですよね!?」
「と、思うじゃん? ……今から先輩会議で決めてくるからちょっと待ってて」
急遽立場が逆転した後輩組には暗雲が立ち込めている。
試合に勝って勝負に負けたとはまさにこのことだろう。
「そう……
「いやいや! あんなんただのペテン師だろ!!」
「は? お姉様をペテン師呼ばわりするのはやめなさい。これだから使えない自称知将は……」
「まぁまぁ。今回は先輩たちの方に一本取られたという事で」
「はぁ? なんで一ノ瀬さんが纏めてるの? うざ」
大変空気も悪くなっております。
そしてそんな最中、会議から帰って来た先輩たちの表情は微妙にぎこちない。
主に東堂と北条。
「組み合わせが決まったわ。まず私が一ノ瀬さんを誘うわ」
「はい」
一ノ瀬はこれを了承。
「……んで、俺が四方堂さんと」
「……」
四方堂は何も言わない。
「そして僕が十河さんを……」
「お断りします」
十河は努めて丁寧に頭を下げる。
「最後の組み合わせはなんと、なんと……!?」
「わかるわ。イヤじゃ、ボケ」
そうして美保が即拒絶した。
一応纏めると、
東堂 ⇒ 十河
西宮 ⇒ 一ノ瀬
南雲 ⇒ 美保
北条 ⇒ 四方堂
はっきり言ってドリームマッチ開催である。禁断の組み合わせしかない。
もちろんこれは意図的に組まれている。
先輩たちはこの機会を以て腹を割って話そうという心意気である。
かなり強引ではあるが、いつまでもこのギスった関係を放置している訳にもいかないのも確か。
それを先輩から提案すると言うのは中々に粋な計らいである。
尚、やり方は外道の極みである。
やり方はさておき、何気に凄いのが西宮。
なんと彼女はNGとなる組み合わせが無い。
GW中も全員とデートしているし、もしかしたら彼女は本当は凄い人なのかもしれない。
「まったくやれやれだぜ。みんなニコニコラブ&ピースが家庭科部のモットーだろ? って、部長が言ってたわよ」
「姉貴はそんな事言わない!!」
「……言ってねぇだけどさ。そこまで力強く否定されると俺が普段から争いを巻き起こしてるみたいになるだろ……」
「とにかく。全員、腹を割って話してみなさい。先輩の私たちはそうやって修羅場を乗り越えて来たのよ」
「えっ、乗り越え……てた?」
「明里。今大事なところよ」
***
こうして、西宮が特に上手い事を言った訳でなく強引にまとめた結果、上記の組み合わせでデートと言う名目の話し合いをする事になった。
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