第257話 その為のへそ出し


あっという間に、


先輩組 4-9 後輩組


という劣勢になってしまった先輩組。

現在、十河のサーブによって西宮が狙われ8連続失点。

東堂が居るのに何故こんなにも一方的な試合になっているのかを解説しよう。


ソフトバレーではレシーブ側はサーブを打たれる前まではある程度決められた位置関係に居なければならないというルールがある。

もう少し厳密に言うとサーバーが球に触れるまではレシーバーはその位置関係を守らなければならない。

つまり、幾ら東堂でも打たれた瞬間に西宮の元へ駆けつけるのがキツいのだ。


では何故、十河たちは美保というお荷物を抱えてそれが出来たのか?

答えは簡単。



――カバーすべき人間が1人だったからである。



当然、東堂と北条の頭には南雲のカバーが頭にある。

しかし、この劣勢の中で小賢しい事だけが取り柄の西宮は奇跡的にそれに気づいたのである。

十河がサーブに入る前に西宮は反則にならない程度の集合を掛ける。



「悪魔的な着想を得たわ。フォーメーションチェンジよ」



位置関係さえ守られれば極端なフォーメーションでも構わない。西宮が取ったフォーメーションとは……



「こっ……これはッ……!?」


「どうした十河。そんな反応にはならなんだろ。なんなん? あの陣形は」



コート半分以上を南雲に任せ、狭い範囲を守る西宮を東堂と北条がガチガチにカバーする陣形である。


……果たして西宮自身それでいいのか。


しかもそれ以前の問題として、



「南雲先輩ってあんなに守備範囲広いのかな?」


「球技は壊滅的という情報だったはずですわ。いや、まさか……十河。分かってるとは思いますが」


「うん、もちろん。私に求めらているのは……」



十河がサーブモーションに入る。



「――西宮さんを狙う精密なコントロールッ!!」



「ちげぇよ!?」

「違うよ!?」

「違いますわ!!」



無理に西宮を狙うサーブが来るゾーンは決まっているので簡単にレシーブが出来た。

北条がそのまま東堂にボールを繋いで美保を狙えばフィニッシュである。


スコアは5-9になった。



「なんで南雲のゾーンを狙わなかった!? どフリーだったじゃねぇか!?」


「私が先輩に恥を掻かすとでも?」


「あ、アホですわ、この女……」


「そうか……西宮先輩はこれを見越して……」



とは言え、先輩チームのサーバーは南雲。

このサーブの順番も、サーブの2番手は北条の方が良いと思うかもしれないがポジションとサーブ順が紐づけれらているのでこうなっている。



「ふ……見てよ、みんな。あっちのチームの顔。私のサーブが入らないと思ってる顔だよ」


意味深にその場でボールをつく南雲。


「その慢心が足を引っ張る事となるとも知らずに……見よ!! 無回転サーブッ!!」


「ま、まさかっ……南雲先輩はこの短期間でその技を!?」



無回転サーブとはボールに全く回転を与えないことにより、ランダムな軌道に変化する打つのも取るのも非常に難しいサーブである。


南雲が放ったによりボールは天高く舞い上がる。

確かにボールは無回転だった。



「いや、無回転ってそういう意味じゃねぇだろ……」


当然これは無回転サーブなどでは無く、球が回転していないだけのアンダーサーブである。


「……しかもこれ入ってませんわよ」



そもそもの話、ボールはコート外に上がっていた。

これで後輩チームには1点が――



「あんっ♡」



「「「「「「「???????」」」」」」」



6-9である。


一体今何が起きたのか。

それは後輩チームでも一瞬理解が追い付かなかった。


視認できるのは、いつの間にか消えていた十河が床でボールを抱きしめながらビクンビクンしている事くらいだ。



「ねぇ……この人まさか……」



そう、十河は南雲の超絶ノーコンサーブを全身で受け止めていた。

一ノ瀬はわなわなと怒りに震えている。



「てか、てめぇ!! この為にへそ出ししてたんじゃねぇだろうな!?」


その通りである。その為のへそ出しである。


「一ノ瀬。南雲さんのサーブが終わるまでその女を羽交い絞めにしておきなさい」


「おっけー了解」


「ちょ、離してッッッ!! 先輩のサーブは私が全身で受け止めないとッッッ!!」



その後、南雲のノーコンサーブは奇跡的に十河の近くに落ちて一点。

次のサーブは特大ホームランで後輩組に一点。


スコアは7-10となった。


なんだかんだ言って、スコアだけ見ればいい試合である。

しかし、次のサーバーは一ノ瀬。

店なら蛍の光が流れ始める頃合いだろう。



「お、終わった……ここで一番やべぇ奴来たって……」


「ゆ、ゆーちゃん。結局罰ゲームって……」


「あーちゃん!! まだ試合は終わってないよ!!」


「一本集中よ!!」



何故か足を引っ張っている者ほど前向きなチームだった。

無慈悲にも見える一ノ瀬が遂に終焉のサーブの体勢に入る。



「東堂さんと北条さんの間。狙いは南雲さんですわよ」


「いや西宮先輩狙えば勝ちでしょ」


「どっちでもいいわ。くくくっ……勝ったな」



「ボクが狙うのはもちろん……東堂先輩ッ!! いざ勝負!!」



「「「おい」」」



スポ根少女が東堂を狙ってくれた為、普通にレシーブをして北条がトス、東堂のアタックという美しい連携が美保の足元に炸裂した。

最早美保は怒りを通り越して呆れている。



「チッ……あんのさぁ……。

なんでウチのチームってこんなに使えねぇ奴しか居ねぇの?」



「「「お前が言うな」」」



現在スコア8-10。

ここから先輩チームの反撃が始まる――



***


という訳でもなく、普通に8-14で敗けました。

対戦ありがとうございました。



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