第256話 だいたい知将が足を引っ張る戦い
現在のスコアは、
先輩組 1-0 後輩組
というスコア。引き続き東堂がサーバーである。
「ごめんねッ……美保ちゃん!!」
再び東堂は美保を狙ってサーブを打った。
「フッ……知将が2度も同じ手に引っかかるかよ! お前ら! アタシは一歩も動かない!! あたっ!!」
今度はドライブサーブである。(球の軌道が変化して落ちるやつ)
東堂の精密なサーブは棒立ちの美保の体に直撃してボールはコートの外へ。
これで2-0である。
「……知将? そろそろ体調悪くなっとく?」
「まぁまぁ。でも……もう球には慣れて来たね。十河さん、右は頼んだよ。左はボクと杏樹が」
今度の後輩組のフォーメーションは、東堂から見て左側は十河一人でフルカバーする体勢。
一方右側は、美保の正面を一ノ瀬が、美保の後ろにはやや離れて四方堂が構えている。
この臨機応変に対応してくる感じには本気度が窺える。
「みんな。たぶん次あたりから球が返ってくるよ。練習の成果を見せよう。行くよッ!!」
東堂は再び美保狙いのドライブサーブ。
しかし……美保はしゃがみ、一ノ瀬はその頭上でレシーブを成功させた。
「取った!! 杏樹、速攻ッ!!」
「任せなさい!!」
一ノ瀬の絶妙なレシーブを受けて杏樹は速攻で飛び上がる。
動けるお嬢様である杏樹は念のため西宮の位置を確認した。
すると……
「えっ!? あれはなに……!?」
四方堂と目が合った西宮が突如コートの外を見る。
釣られて四方堂もそちらを見るが、
……何もない。
その間に四方堂はアタックをスカしていた。
3-0である。
「西宮ナイスっ!! これでまだ東堂がサーブを打てる!」
「練習の成果が出たわね」
これぞ西宮が体得した奥義『よそ見』である。
正常な思考ならプレーの最中に他の場所を見る事はない。
だからこそ、驚いた表情でコートの外を見ているとなれば釣られる人間もいるだろう。
そしてそれは西宮を信頼している人間、こと四方堂に対しては効果が絶大だった。
「ず、ずりぃ……そこまでして勝ちに行って恥ずかしくないのか!!」
「は、恥ずかしいに決まってるでしょー!! こっちだって遊びじゃないんだよ!!」
「恥ずかしいんだ……」
「……杏樹。アタックを打つ時は西宮先輩の位置を確認しない事」
「そ、そうね。来た球を全力で振り抜きますわ……」
東堂の4度目のサーブがまたも美保を襲う。
……と、見せかけてカーブした球は美保から遠ざかる。
「ふッ!! 一ノ瀬さん、トスよろしく!!」
「はい。よっと!!」
流石の十河はコート半分をカバーしながらでもレシーブを上げた。
今度は一ノ瀬がトスを上げて十河がアタックモーションに入る。
一瞬、十河は南雲の位置を確認し……
「えっ!? なにアレ……!?」
「えっ……」
――スカッ
4-0である。
「十河、あなた……」
「ちょ、ちょっと待って! 先輩の視線の先に何があったのかを確認してくるから!!」
「何もねぇよ!! お前も完全に術中に嵌ってんだよ!!」
「先輩たちは一体何の練習をしてたんだろう……」
正直、こんな練習ばかりしていた。
1週間そこそこで一ノ瀬や十河のような超人たちに勝つには姑息な手段を使うしかないのである。
他にもどんな手を用意してきたのか。
信頼と安心の二年生に対して、一年生は警戒しながら東堂のサーブを迎え撃つ。
放たれたサーブを再び十河がレシーブした。
「一ノ瀬さん、今度は任せて!!」
「おっけー」
先ほどと同じ流れで一ノ瀬は十河に、
「なんてね」
――バスン!!
ジャンプトスと見せかけて即座にアタックに切り替えた。
後輩組はようやく1点を返し4-1である。
「ひ、ひえー。今のアタック、まったく返せる気がしないよー」
「安心しなさい。私たちはどんな球でも返した試しはないわ」
「それな」
「こ、ここからの流れ……うっ、頭が……」
東堂の頭には先ほど負けた準決勝での惨劇がフラッシュバックしていた。
このチームは実質東堂と北条しか居ないチームなのでここからは暗黒時代への突入である。
サーブは十河。
ジャンプサーブとかではなく、その場で綺麗なフローターサーブを打つ。
東堂が美保を狙ったように、十河の狙いは……
「ふっ……予想通りね」
やはり狙いは西宮。
――ぽすん
しかし、まさかのドヤ顔レシーブが綺麗に上がる。
……訳もなく、ボールは腕の間に嵌っていた。
西宮選手、ホールディングという反則である。
4-2となった。
どの物語でもそうだが、だいたい『予想通り』とか言ってるやつは当てにならない。
一、二年生が誇る知将たちがそれを忠実に再現している。
四方堂と美保以外は何とも言えない表情で西宮を見ていた。
「勘違いしないで欲しいわね。私はこうなることが予想通りと言っただけよ」
「そうだよ!! てめぇらだって天気予報で明日台風来るって言われて台風回避出来んのか? あぁん!? どうなんだコラァ!?」
「どゆこと? つまり、みほっちと西宮先輩の予想は当たるけど意味無いって事?」
「「…………」」
「それはさぁ……お前。ちょっと、違うじゃん……」
「そういう天然なところは明里をリスペクトしなくていいのよ……」
一ノ瀬の純粋な言葉のナイフが2人の胸を突き刺した。
何はともあれ東堂の不安は的中し、そのまま試合は4-9まで進行したらしい。
しかしなんと、ここからでも入れる保険はあった。
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