第254話 新しい顔よ
時は放課後。
この日は東堂と北条はバイトがあるので家庭科部は休みになった。
なので一ノ瀬も他の運動部の助っ人に行っている。
それ以外のメンバーは下校する為に下駄箱に集まったのだが、ここで唐突に後輩組は先輩組に挑戦状叩きつけた。
「お姉様!
「乗ったわ」
「ちょちょちょ、西宮さん。内容聞かなくていいの? だいたいそーゆーのでいつも失敗してるんだから」
「安心してください先輩! 球技大会で勝負するだけですよ!」
「ふーん……じゃあ当然、変な要求とかもしないんだ?」
「当たり前だろ。負けたらデートしてもらうだけだ」
「乗ったわ」
「ちょちょちょ、2人の許可! ていうか厳密に言えばワタシの許可も取ってないって」
やはり先輩組代表と言えばこの女。
何故か勝負に乗り気な西宮を南雲が制止している。
姑息な後輩組はあらかじめ西宮の運動性能と南雲の不器用さをリサーチ済みで、勝てる勝負をもぎ取りに来ていた。
「南雲さん、安心して。競技種目はこちらで決めても良いのよね?」
「ええ! もちろん、構いませんわ!」
「ふふっ、勝ったわ……ならこちらはテニスのダブルスで明里と茉希をセットするのみよ」
「くくくッ……計算通りだぜ。それならこっちは一ノ瀬と十河をぶつけるまでよ!」
「なんで勝負の舞台に上がらない人の方が楽しそうにしてるんですかね、先輩?」
「きっと生殺与奪の権を他人握らせるのが好きなんだよ」
とは言え真面目な話、流石の東堂と言えど一ノ瀬&十河の2名を相手にテニスで勝つのは厳しいだろう。
仮に勝ってしまった場合でも、おそらく人間卒業の烙印を押されることは間違いない。
……まぁ、今でもたまに人間扱いされていないが。
西宮はその超次元テニスの中に北条という一般人が紛れ込む図式を見たさはあったが、冷静に勝負を見つめ直し考える。
球技大会の競技種目は、
バスケットボール、フットサル、ソフトバレー、ソフトボール、テニス、卓球。
テニスと卓球を除くと、西宮と南雲が足を引っ張りづらいのはソフトバレーとソフトボールくらいである。
「ふむ。ちょっとあなたたちの運動神経と私たちのポテンシャルを確認したいわ」
こうして西宮は送迎車を呼び、適当な運動場でソフトボールをやってみる事に。
***
まずはピッチャー十河。キャッチャーはまさかの四方堂である。
と言うか、このメンツで捕球が出来るのが十河と四方堂だけなのである。
バッティング練習なので十河は基本的にど真ん中にしか投げない。
一番バッター:北条美保
「いいか? 一番ってのは一番打順が回ってくるんだ。フォアボールでもいいからしっかりと塁に出て……」
⇒見逃し三振
「ごちゃごちゃ言ってないでバットを振りなさい」
「フォアボール待ってるとこ悪いんだけど、私投げたとこ全球ど真ん中だったよ?」
二番バッター:西宮麗奈
「いい? 二番打者には小技が求められるの。つまり、私の構えは……こうよ」
⇒バント失敗(バットに当たらず)
「十河ッ!! ちゃんとお姉様のバットを狙って当てなさい!!」
「いや、初心者がバントするのは無理あるって。そもそも最近の二番打者はバントしないらしいけど?」
三番バッター:南雲優
「えーと……、三番バッターは……うーんと」
「いや、もうそのうんちくみたいなのはいいですわ。とにかく当てなさい」
⇒空振り三振
「キャーーーッ♡ 先輩のスイングカッコいい!!」
「いや……お前。あんなスイング当たったらボール粉々に弾け飛ぶぞ」
「い、命を刈り取るスイングだったわね……」
四番バッター:四方堂ガブリエル杏樹(←特別参加)
「…………」
「いや、何か言えよ」
「だから、そういうコーナーではありませんわ!!」
⇒センター前ヒット
「ハッ!? まさか『四』番と『四』方堂を掛けて?」
「杏樹。先輩がスベッた責任を取って」
「私に非があるみたいな言い方はやめなさい!!」
若干南雲の顔は赤くなっていた。十河が一番酷いまである。
とりあえず3人の打者としての適性は無いとして、今度は投手もやってみる事に。
キャッチャーは十河、一応バッターボックスには四方堂が立って構える。
投手:北条美保
「北条家の精密機械と言われたアタシのコントロールを見せてやるぜ」
――シュッ! (←口で言ってます)
「おー。たしかにコースはいいね」
「そうですわね。まったく届いてないけど」
無情にも白球は地面を転がっていた。
投手:西宮麗奈
「チェンジアップを投げるわ」
「え!? 変化球を投げれるんですか!?」
――ひゅるるる……
「すんごい山なりですね。ストレートは?」
――ひゅるるる……
「……うん。一緒ですね」
投手:南雲優
「ちょっとバッターボックスに杏樹ちゃん立ってるのは怖いというか……」
「なるほど。私も怖いですわ。十河、代わりに立ちなさい」
「喜んで♡」
バッターボックスには十河が入った。当然キャッチャーは無し。
すると南雲は投球を構える。
「なんだろう。凄い安心感が……そっか、最悪当てても大丈夫なんだ!」
「来てっ、先輩♡」
躍動感溢れるフォームから殺人的な加速度で白球は南雲の手から放たれる。
すると、それと同時に一陣の風が十河の顔面を掠め、気付けばボールは煙を上げて後ろのフェンスにめり込んでいた。
「……今のは何? レールガン?」
「ふわわぁ……しぇんぱいの球、顔面で受けたかったのに……」
「そしたら十河の顔面はソフトボールと入れ替わってましたわね」
「いやいや、アンパ○マンじゃねぇんだから。普通に死ぬぞ」
***
と、言う事で2人にソフトボールの適性が無かった事が発覚した為、勝負はソフトバレーで行われる事になった。
この選択はきっと、誰かの命を救う事になるだろう。
尚、東堂たちへの連絡は忘れている模様。
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