第253話 西宮を越えた女


今年の体力測定は日程の関係上、中間テストよりも後に行われた。

この測定結果は6月に行われる球技大会のメンバーを決める際、運動神経の参考にもなる。


2-Aの注目の的は2名。

東堂はもちろんとして、もう一人。人知を超える存在がいた。


彼女は豪快なフォームで腕をしならせ、とんでもない球速を実現している。



「セイィィィ!!」



――ズドンッッッ!! シュルルルッ!!



「す、すげーな優!! 球がまったく見えなかったぞ!!」


「やっぱりゆーちゃんはパワーあるね!」



「そうね。ハンドボールは地面にめり込んでるけどね」



南雲優、ハンドボール投げ。結果2m。

尚、2投目はアンダースローで天高く打ち上げた結果、とんでもない高度まで上がったボールが垂直ミサイルのように落ちて来て周りからは悲鳴が上がった。


結果8m。


このように、測定結果はあくまで参考で、中には身体能力はあっても運動神経0の人間もいる。

もし彼女にソフトボールのピッチャーをやらせようものなら、間違いなく死傷者がでるだろう。



「まったく。本当の運動神経を見せてあげようかしらね」


西宮麗奈、長座体前屈。結果74cm。


「今年もどうせ前屈自信ネキだろ」



西宮は昨年、前屈は10点満点を採り、逆に他は全て最低点を取るという快挙を成している。



「ワタシも74目指すぞー!! ふッ!!」


「な、71!? ゆーちゃん凄い!!」


「そ、そうね。それ握力だけど……」


「こっちは握力自信ネキなんてレベルじゃねぇぞ……」



先輩組はだいたい昨年同様の結果になっていた。

尚、東堂は今年は西宮の胸をガン見してなかったので80点満点だった模様。



***


一方、後輩組はと言うと。



「一ノ瀬さん。測定結果で負けた方が服を脱いでいくってどう?」


「いいけど。8種目だと服の枚数足りてないけど大丈夫?」


「舐めた事を……まるで自分が全部勝つみたいな言い方だね」


「服だと足りなくなるから負けた方は指を一本ずつ折りましょう。それなら10本までいけますわ」


「地下闘技場か? なんでお前は友達をそんなに粗末に出来るの?」



恐ろしい勝負を持ち掛けた十河が恐ろしい代案を出されていた。

とりあえず、罰ゲームは保留にして50m走を競ってみた。


一ノ瀬紗弓、6.9秒。十河灯、7.1秒。



「くッ……東堂先輩には及ばずか……」


「はぁはぁ……あと、少しなのに……ッ!!」



ちなみに基準として、女子50m走は7.7秒で10点満点。

それが分かると2人が異次元の勝負しているのがお分かりいただけるだろう。


尚、南雲は東堂よりも速い。


そんな異能力バトルが繰り広げられる中、一般人同士でペアを組んでいる四方堂と美保は反復横跳びの準備をしていた。



「あんな超人たちは放っておいて、わたくしたちはのんびり罰ゲームでも考えながらやりましょう」


「だな。杏樹、先にやって良いぞ」



四方堂ガブリエル杏樹、反復横跳び。結果42回。

これは平均よりやや上の6点である。



「え……嘘。お前って運動出来るの?」


「この前のテストでは一ノ瀬に学力を問われましたが、今度は運動神経ですの? あなたたちは私の事をなんだと思っているのかしら?」


「だって十河がポンコツだって言ってたぞ」


「やはりあの女の指は全て折るべきですわね」



四方堂と入れ替わり、今度は美保が構えに入る。

彼女は何やらブツブツ言いながら線と線の間隔を確認していた。



「シミュレーションはバッチリだ。あとは足の入射角を最適化して……行くぞッ!」


「え……嘘。美保、あなた……」


「す、すごい!! みほっち、昨年の2倍くらい速いよ!!」



いつの間にか観客として見ていた一ノ瀬と十河も混ざっている。


――北条美保、反復横跳び。結果14回。


最低点の1点は26点以下。これはその1点の半分程度の数値。



「真面目にやりなさい」


「ぜぇ……! ぜぇーッ……! ま、真面目だっつーのッ……!!」


「え? 北条さんって足に爆弾抱えてる?」



北条さん家の末っ子は運動神経が皆無だった。

当然、ケガや病気などではなく、シンプルに運動音痴なだけである。

体が小柄なのも相まって反復横跳びでは彼女は全身全霊で横っ飛びをする必要があった。



「みほっち、昨年とか20秒間跳べなかったもんね。すごい成長だよ!」


「はぁ……、はぁ……ったりめぇよ! アタシも……日々進化、してんだよ……」


「凄いですわね。見た目だけなら日本新記録樹立してますわよ」



本人にとっては凄い成長らしいので3人は温かく受け止める事にした。

もしかしたらゴールデンウィークを経て4人の友情も芽生えているのかもしれない。



「でもこれ、ダントツで丸女の最下位かな?」


「待つんだ一ノ瀬! アタシたちには西宮さんが居るだろ!」


「お姉様を心の拠り所みたいに言うのはやめなさい」


「いやいや、でも流石に……ねぇ? テストも体力測定もダメなら杏樹以上のポンコ……」



***


「……へくちっ!」


「なんか麗奈のくしゃみって可愛いよね」


「そうか? 俺はわざとらしさを感じるというか……」


「あーちゃん! へくちっ! へくちっ!」


「茉希。完全なるわざとらしさを見せつける南雲さんを見て一言どうぞ」


「か、可愛いだろ」


今日も2-Aは平和です。



***


最終結果。


8種目合計点

A:58点以上

B:47~57点

C:36~46点

D:25~35点

E:25点以下


一ノ瀬:80点、十河:80点、四方堂:45点、美保:11点



「同点か。いい勝負だったね一ノ瀬さん!」


「そうだね。 ……十河さん、全種目ボクに負けてたけど」


「では十河、生活に必要な指を2本選びなさい」


「いったれ、いったれ!! アタシの弔い合戦じゃ!!」



ちなみに、西宮以下の記録を叩き出した美保が唯一加点された種目。

それは……


――やはり、選ばれたのは長座体前屈でした。



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