第250話 マニフェスト


このゴールデンウィークは百合ひゃくあという催眠術を自在に操るいかがわしい教師の物語から始まった。

しかし本日は最終日。美保はまっとうな方の教師の元へ伺っていた。



「まいど。妹の年齢=わいのシスコン歴。東堂碧です」


「どうも。シスコン最高評議会の議員、東堂茜です」


「これはこれは。先人のお二方、今日はよろしくお願いします」



本人不在の東堂の自室にて行われているのは『第一回シスコン談義』といういかがわしい集会。

よくよく考えてみれば、丸女に在籍する教師でまともな教師など存在しない。


それは言い過ぎである。


おそらく探せば1人、2人は居るかもしれない。

語弊があったので訂正はさせて頂きました。



「しっかし、散らかってるな。2人の仕業?」


「いや、ほぼ明里自身の仕業やな。東堂家はだいたいこんなかんじやで」


「ふーん。 ……姉として片付けてあげようとか思わないわけ?」



美保は部屋に入る際も適当に壁側へ物をどけてリビングに来ている。

汚部屋あるあるなのだが、リビングの机の上にも所狭しと物が置いてある。



「美保。じゃあ君は姉が部屋を散らかしてたらどうする?」


「姉貴が? んなもんアタシが片付けるに決ま……ハッ!?」



基本的に美保は姉が家事を行う際、後ろを子ガモのようについて回るだけでほとんど家事はしない。

仮に姉が家事を放棄したとしても、家事を代行することは出来ないだろう。


と、言う上記の理由を無かったことにして、本人は都合の良い言葉を探す。



「気付いたようだね。明里が作ったこの部屋を片付けるなんて人格を否定するも等しいよ」


「せや。わいらはどんな明里でも受け入れる。それが愛情ってもんやろ」



「ほ、本物だ……。 これぞシスコンの鑑……ッ!」



2人の言葉は美保の心に(都合良く)スッと収まった。

彼女は今、碌でもない大人たちから悪い影響を受け始めている。



***


「そういえば四方堂さんは? 彼女も有資格者だっと思うけど」


「資格剝奪だよ。さっき、訳分かんねぇ写真送って来てたし。言うてあいつは贋作だからな」


「ほほう。その点、わいらは純血やからな。いわば真性……」



彼女たちは誇らしそうに血の繋がりを主張しているが別にそんなに威張る内容ではない。

むしろ血の繋がりがある方が幾分かヤバみは増す。



「ほな、今日は何から話す?」


「第一回だし、妹の好きなものについて聞きたい」


「んなもん姉貴に決まってんだろ」


「その言葉を明里から聞きたかったッ!!」


「茜先生……きっと口に出さないだけで、東堂さんもそう思ってるよ」


「君はなんという……はい、数学の内申点MAX!!」


「やたー!」



職権乱用とはまさにこの事である。

『シスコン談義』は将来の進路にも影響します。



「あ、でも。アタシも聞きたいことあったわ。姉が求める妹の職業って何?」


「そんなん姉に永久就職に決まっとるやろ。一生やしのうたるわ」


「やっぱり……!! 政治家なんて目指してる場合じゃないのか!?」



本人のあずかり知らない所で、東堂の自室はカオスな空間になりつつある。

暢気にサメ映画などを見ている場合ではないのかもしれない。



「てか、美保は政治家目指しとったんやな。なんでなん?」


「皆さんご存じ、現代社会は姉妹に対して厳しすぎる……」


「それな。この国が抱える社会問題の一つだね」


「アタシが政治家になった暁には……」



話題の最初は姉妹愛への風当たりの強さから入り、果てに彼女は経済の話や環境への取り組みについても熱く語っていた。



「――よってアタシは、この国の未来の為に姉妹婚を実現するッ!!」



何故姉妹愛が経済や環境に繋がるのか。

それは誰にも分からない。



「おおー。言ってることは完璧やな。穴が無いわ」


「よっ、政治家先生! 私は君に票を入れるよ」


「ありがとうございます。ありがとうございます。北条美保に清き一票を」



分かってる人もごく一部にいるらしい。

そしてそれが自身の生徒を”先生”と呼ぶ教師ともなれば、この国の未来は危うい。


尚、選挙期間外に『清き~』のセリフはNGワードらしいが、ここで公職選挙法の話をする必要はあまりないであろう。


……それ以前の問題なので。



「ええこと思いついたわ。美保を教祖にしてこの教えをSNSか何かで拡散したろ」


もう”教祖”とか言うてもうてます。


「入念に準備してTwitube↓動画配信サイトデビューしよう!」


「ふむ。悪くない……」



何故か美保も乗り気である。


こうして『第一回シスコン談義』の方向性は変わり、双子姉妹は北条美保の後援会を設立した。

おふざけ無しで厳正なる会議をした結果、美保は政治系Twituberになる事となった。


後にこれが、美保の見た目と知能のギャップ、そして独自の切り口がウケて大バズリされる事となるのだが、それはまた別のお話。



***


余談だが、この怪しい布教活動の会合は勝手に東堂の自室で行われることになった。

しかし、東堂が外出したにも関わらず、彼女の部屋に撮影機材などを持ち込む怪しい3人を目撃した近隣住民は警察に通報した。


通報された3名のうち2名が部屋主の実姉だった為、誤報と見なされたがぶっちゃけ誤報でもない。


丸女の長い歴史の中でも通報された教師もそう多くないだろう。



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政治の話はあくまでギャグなのでご安心下さい。

これからもゆるふわ系ラブコメディ『しかしゅら』に清き一票をお願いします。



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