第249話 プライドバトル


「たまにはラブラブデートでもしよっか?」


「……たまには? そもそもわたくし、あなたとデートをした記憶はないのだけれど?」



四方堂の自室に来ている十河はソファに背を預けながら軽いノリで提案をした。

ちなみに視線は寄越さずにスマホを弄っている。



「でも少し面白そうね。十河。今日は私の事を梅雨町さんだと思ってエスコートしなさい」


「は? 先輩を騙らないで。次やったら殴るから」


「めんどくさい女ですわね。デート先は病院で良かったかしら?」


「じゃあ杏樹は私の事を西宮先輩だと思えるの?」


「は? お姉様を騙るのはやめなさい。殴るわよ」


「はい。じゃあ杏樹ちゃん、病院行こうね?」



こうして2人は軽く身支度してから四方堂のマンションを後にした。



***


2人が向かったのは窓に柵の付いた病院……ではなく、ゲームセンター。

本当にそれっぽい所に来てみた。


四方堂の手を引く十河はプライズゲームの前で頼りがいのある女を演出してみる。



「ほら、杏樹。取って欲しいものはある?」


「えー(棒) じゃぁ……杏樹はあれが欲しいですわー(棒)」



意外とノリの良い杏樹が指さしたのはタコ焼き機である。


……正確には、

タコ焼き機の色の付いた部分にピンポン玉を入れるゲーム用のタコ焼き機である。



「ははっ。杏樹は本当にバカだなぁ。あれは景品じゃないよ」


「ふふふっ。知ってますわ。殺しますわよ♡」



物騒な言葉がチラ見えしたが、引き続くデートごっこで今度は四方堂が十河の手を引いた。



「ほら、来なさい十河。おもしろいものを見せてあげますわ♪」


「えー、なになに~(棒) 気になるな~(棒)」



先ほど色々なゲームを見て回っていた時に四方堂が見つけた、とあるものの前に十河を導いた。



「見なさいこのVtuberのキーホルダー死ぬほど売れ残っててウケますわ~(笑)」


プライズゲームの中には十河灯(Vtuberフォルム)のキーホルダーが整列されていた。


「あーんじゅっ♡ ツラかーして♡」



こちらも正確に言えば、丸井月まるいるな人気が高いので多めに陳列されているだけなのだが、タイミング的に丸井だけ売れ残っているような見栄えになっている。


良い感じにギスって来たところで一緒にメダル落として遊ぶプッシャーゲームをやってみる事に。



「いい、杏樹? 私の計算ではこのタイミング、この角度で……」


――ジャラララッ!


「しゃらくさい女ですわね。要は上の棚みたいなところにコインを乗せればいいのでしょう?」



十河の計算されたメダルは四方堂が豪快に投入したメダルに弾き飛ばされた。

しかし、当たり所が良かったのか上手い具合にコインが落ちてルーレットが回り出す。


……しかもなんか当たった。



「ほら見なさい。小賢しい事なんてしなくていいのよ」


「うざー。妖怪運だけ女じゃん」


「うるさいですわよ。この角度奉行が。一生角度とタイミングでも計ってなさい」


「いーっかい! 一回、私の言う角度で入れてみて?」


「仕方ないですわね。投入口を合わせなさい」


「おっけー。ここをこうして、タイミングは棚が4割くらい来た時に……」


「やっぱりしゃらくさいですわ(ジャラララ」


「杏樹!!」



その後もやいのやいの言い合いながらも2人は色んなメダルゲームを楽しんだ。



***


そして、最後はゲーセンデートの定番。『写真シール機』である。


ちなみにこれは余談だが、何故このような文言を使い『プリなんとか』と言わないのかと言うと、それは商標登録の関係上そこに大人の事情が発生するかららしい。



「チュープリでも撮っちゃう?」


「いいですわね」



売り言葉に買い言葉という感じに適当に返事をする四方堂。

当たり前のように返事をしているが、当然2人でチュープリなど撮った事はない。



「ごめん。冗談だから。私、杏樹とそういうのはちょっと……」


「逃げますの?」


「は? 逃げてないけど? 杏樹こそ良いの? 西宮先輩への裏切りでは?」


「…………やっぱりやめ」


「じゃあ杏樹が逃げるって事ね?」


「は? 受けて立ちますわ」



2人の間に色恋の雰囲気は無く、機内には決闘のような緊張感が漂う。

そして睨み合った2人は写真の合図に合わせてキスをした。


両者一歩も引かず、撮影完了の合図が出るまで唇を重ねていた。


機内から出て写真を確認すると2人は、どちらがビビっていたかを指摘し合う。



「杏樹の方がちょっと顔引いてるんじゃない?」


「眼科に行きなさい。あら? 十河はちょっと恥ずかしそうな表情にも見えるわね」


「目腐ってんじゃない? じゃあちょっと他の人に聞いてみようよ」


「美保と一ノ瀬に写真を送りましたわ」



すると、割とすぐに返信が返って来た。



『何やってんのお前ら。いらんもん見せんな』

『え。何この写真。全然いらないけど』


『どっちがビビってるように見える?』


『知らん。どうでもいい』


『十河の方が顔が歪んでますわよね?』


『その人いつも顔が歪んでるから分かんない』



「ほな、私の勝ちという事かしら」


「やれやれ。杏樹がそう思うんならそうでしょ。杏樹の中ではね」



名シーン風の空気を醸し出して、2人の勝負は引き分けのまま解散となった。

なんだかんだ言って、客観的に見れば今日のコレはまともなデートの部類に入るだろう。


傍から見ればどう見ても2人はカップルだった。



***


しかし、何故2人は互いのキスに抵抗が無かったのか。


――それは互いに認め合ってるから。


では無く、


普通にファーストキスじゃないなら良いか、程度の軽いノリである。

過去に2人は南雲の自室で先輩たちとキスしていると思い込んで今回の行為に至った。


しかし、彼女たちが実際にキスしたのは『ちくわ』。 



つまり、彼女たちのファーストキスの相手は――



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