第247話 王者の風格


ついにやって来たゴールデンウィーク最終日。


そんな5/6の予定は、


東堂:南雲とデート

西宮:北条のバイト先に乱入(予定)

十河:四方堂とデート

美保:???


となっている。普段あまり関わった事が無かったメンツも入り乱れたこのGW。

最終日は割とおなじみのメンツが多い模様。



***


東堂と南雲は映画館にデートに来ていた。

今しがた見終わった映画についての白熱の議論をカフェで展開している。



「いやー。凄い迫力だったね!!」


「ホントにね! 僕の感想としては迫力があったとしか言いようがないよ!」


「そりゃサメ映画だからね!!」



当たり前である。サメ映画にストーリーやドラマを求めてはいけない。

そこにあるのは迫力とツッコミどころくらいしかないのだから。



「なんでサメ映画に出てくる人ってサメと戦おうとするのかな。しかもだいたい生身で」


「ねー! 目が弱点になりがちだけど、それが分かったところで『よし!じゃあ殺るぞ!』とはならないよね! 普通はね」


「でも、殺っちゃうんだよね!?」


「そりゃサメ映画だからね!!」



ちなみに、2人が入った上映スクリーンはガラガラだった。

それはGW最終日だからか、或いは『最終日にサメ映画は……ちょっと』なのか。

もしくは日時は関係なくサメ映画には需要が無いのか。


しかし、そのお陰で南雲は存分に東堂とイチャイチャ出来たしサメ映画も十分堪能出来た。


そんな2人の評価は☆5点満点中――なんと、文句なし! ☆3.0である。

まぁサメ映画としてはよく頑張った方だろう。



***


食事とサメ談義がひと段落した後、南雲と東堂はカラオケに行くことに。



「わぁ……ゆーちゃんと、というか、カラオケ自体来るのは久しぶりかも」


「ワタシもあんまり記憶ないかも!」


「ゆーちゃんは配信とかで歌ったりしないの?」


「いやいや、ワタシは硬派系Vtuberだから」


「へー。Vtuberにも色んな派閥があるんだ」


「すいません。適当言いました」



適当に喉を慣らしてから東堂が歌い始めると、やはりとんでもなく上手かった。



「す、すごーい! スピーカーが歌ってるみたい!」


「褒めて……るんだよね?」


正確には『歌手と同じくらい上手い』と言いたかったのだが、例えが下手すぎた。


「この後、歌うの緊張しちゃうなー」



そう言いながら南雲が歌ったのは『好き』を連呼するタイプのカップル御用達の歌である。



「どう? 上手い……あ、間違えた。好きー?」


上手い下手以前にそこはかとなく圧を感じる内容だった。


「う、上手いと思うよ。配信でやったら喜んでくれるんじゃないかな……!」


「そんなに好きは安売りしません」



余談だが、好きを安売りしてるタイプの丸井月まるいるなとかいうVtuberの楽曲が収録されているのを南雲は先ほど確認している。

検索履歴は即削除した。



「デュエットとかしようよ!!」


「いいね。でも僕たちがお互い知ってる曲でデュエット出来る曲はー……」


「国歌とかー?」


「それは斉唱では?」



そこまで愛国心には溢れていないので、結局2人は昔一緒にみたアニメの主題歌を歌ったりして盛り上がった。


そこから何曲か歌った後、南雲はふと東堂にもたれ掛かる。



「ふぅ~。ちょっと休憩ー」


「まだ時間あるみたいだし、飲み物でも頼もっか」


「うん! ワタシ、コーラで!」


「僕は何にしようかなー……」



タブレットでメニューを見る東堂の横顔を見た南雲は急に2人きりでデートをしているという実感が湧いて来た。


……と、言う事で襲ってみた。



「がおー! 覚悟しろー! あーちゃんっ!」


「ちょ、ゆーちゃん!? 先にメニューを……」


「いいのいいの! 店員来たら冷めちゃうじゃん。だから、がおーっ!」


「ちょちょっ! ゆーちゃ、ぷくく! くすぐったいってぇ!!」



南雲はわきわきとさせた手を東堂の脇腹に捻じ込む。

カラオケそっちのけできゃっきゃっ、きゃっきゃっとお互いにじゃれ合い、ふと南雲は椅子に寝転ぶ東堂を見下ろした。


少し頬を上気させて服がはだけている。


……てぇへんにえっちである。


もっと東堂を乱したいという気持ちもあったが、南雲選手にもフェアプレイ精神がある。



「ワタシも脱ぐね!」


「どゆこと!?」


「さぁ攻守交替! 次はあーちゃんの攻撃ターンだよ!」


「ゆ、ゆーちゃん、服着てよ! なんかこれ……エッチな事してるみたいで……」



みたいではなく、見方によればもうこれはエッチである。

サメ映画がB級映画になりがちな事と同様に、カラオケボックスもヤリ部屋になりがちなのである。



「いい? あーちゃん。えっちだと思うからえっちに感じるんだよ。これは至って普通のじゃれ合い。はい。じゃあ、えっち再開!」


「エッチって言ってるじゃん!」


「し、しまった! 欲望が……ッ!? でも、もうしゃらくさーい! あーちゃん、がおーっ!」


「ひゃわあ! ゆ、ゆーちゃんっ!」



「――(コンコン)失礼しまー……」



その時、店員がコーラを持ってきた。


先ほど南雲が東堂を襲った際、奇跡的にタブレットの注文は送信されていた。

店員さんは何も悪くないのに下着姿の南雲と脱ぎかけ東堂の視線が容赦なく彼女に突き刺さる。



「し、失礼しまー……ごゆっくりー……」



それでも店員さんはしっかりと机にコーラを置いて行ってくれた。

店員の鑑のような人である。


とりあえず南雲は頭を冷やすためにコーラを一口。



「くっ、くぅ~~~ッ!! キンキンに冷えてやがる!!」


「ゆ~~ちゃ~~ん~~!!」


「ごめんて」



こうして気付けば自称ネコの女は妖怪ネコ女を襲っていた。

流石は博士が『ネコアカリ』と名付けただけはあり、そこには王者としての風格があった。


当然その日のデートは解散となったが、試合後南雲選手は、

『攻める気持ちは忘れたくない』と前向きなコメントを残した模様。



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