第245話 アカリ御三家
突然だが、先輩組で一番変わってるのは誰か?
という質問に対し、おそらくだいたいの人が『西宮』を挙げるだろう。
では、後輩組で一番変わっているのは……
***
5/5の予定は、
東堂:バイト
西宮:十河とデート
南雲:イベント
北条家:家族旅行
一ノ瀬:四方堂とデート
となっており、西宮は前日までに色々な準備をしていた。
正直言って、かの西宮ですら十河という女に関しては測りかねている。
そもそも十河はどうゆうスタンスで西宮とデートしにくるのかがさっぱり謎だった。
参考にするにも南雲と十河のデートは参考にならないだろう。
そこで西宮は重要参考人として北条妹にどんなデートをしたのかをチャットで聞いていた。
(美保)『昼過ぎからラウンドテンに行った』
(美保)『ロデオに乗った』
(美保)『ボクシングマシーンもやった』
(美保)『楽しかった』
『嘘乙』(西宮)
めちゃくちゃ適当な返信が返って来たが、短い文章でも嘘なのは一瞬で分かった。
どうやら十河は今のところGW中には南雲としかデートに行ってないらしい。
やっぱり謎である。
しかし、だからこそ西宮は閃いたのである。
***
当日。西宮は十河の家に家庭訪問に来ていた。
分からないなら家に凸っちゃおうという軽いノリである。
十河も意外とあっさりとOKしてくれたのだが……それが悲劇の始まりだった。
「ようこそ西宮先輩! 狭い部屋ですがゆっくりしていって下さい!」
「……本当に狭いわね」
そうは言ったものの西宮が一番問題視しているのは部屋の狭さではない。
口にはしないが、とにかく『怖い』のだ。
まずは玄関から無数の梅雨町がお出迎え。
人形、ポスター、タペストリーなどグッズがひしめき合っている。
それも並大抵の置き方ではない。
人形も壁に対して一列とかではなく、群れを成してこちらを見ているので西宮は凱旋パレードでもしている気分で廊下を歩く。
そして、案内されたリビングの壁一面には南雲の隠し撮り写真が貼られていた。
彼女はどういう心境でこの家に人を招き入れたのか。
西宮を以てしても彼女の精神構造は謎である。
と、言うかはっきり言ってしまえば病気である。
リビングの椅子に十河と対面して腰を掛けるのだが、不思議と2人きりという雰囲気ではなかった。
……だって、ひじ掛けに置いてある梅雨町がこっちをガン見しているのだから。
「こ、個性的な部屋ね」
「西宮先輩には良さが分かります!? すっごく安心しますよね!!」
「え、ええ。わかるわ」
嘘である。全然分かっていない。流石の西宮も日和った。
「杏樹を呼んだことはあるんですけど、『病気ですわよ』とか頭おかしいこと言ってたんですよね」
「……人それぞれあるのよ」
西宮は今日ほど四方堂の事がまともに思えたことはないだろう。
それでも、どう考えてもまともではない彼女とも出来れば親睦を深めたい所ではあるが、果たしてどう踏み込んだら良いのだろうか。
『一寸先は闇』とはまさにこの事である。
「一応、念のために好きなものを教えてくれるかしら?」
「梅雨町リリィ一択!! もとい、先輩ガチ恋です!」
(……ここは共通の趣味で親睦を深めましょうか)
「じゃ、じゃあ私も……」
「あ、同担拒否なんで。他を当たって下さい」
「ごめんなさい」
あの西宮が爆速で謝罪をしていた。
尚、十河の瞳孔は開き切っており笑顔も引き攣っていた。怖すぎた。
「な、何か明るい話題はないかしら?」
「それじゃあ! そんな時にはこれ一を緒に観ましょう!」
十河はモニターをつけると慣れた手つきで梅雨町の動画を流し始める。
やはり西宮には理解出来ないのだが、彼女は同担を拒否する割には梅雨町に対して肯定的な意見を求めているようだ。
今、西宮に求めらているのは推しとは捉えられず、且つ上手に梅雨町をヨイショする絶妙なバランス感覚。
「声……声が良いわね!」
「流石は西宮先輩! わかりますか!?」
(よし……! 好感触のようね)
「そうね! まるで心地よいBGMのようだわ!」
「……は? 先輩の声をバックグラウンドで流さないでくれます? メインなんで集中して聞いて下さい」
「ごめんなさい」
神速の謝罪をすると彼女は笑顔で頷いた。
この辺りでようやく気がついたのだが、西宮でもこの女の攻略は断念せざるを得ないのかもしれない。
おそらく西宮史上初の快挙である。
とりあえず、今回は時期尚早という事で戦略的撤退を決めた西宮は闇に飲まれる前に脱出を試みた。
「ちょっと急用を思い出したわ」
「えっ……もう行くんですか、プレイリストは後239時間くらいありますけど?」
「ひえっ……」
昨日は南雲と一ノ瀬が(自主的に)監禁されていたが、今日は西宮が監禁された。
その後、体験型の脱出ゲームから抜け出すのに約半日掛かった。
おそらく、そんじょそこらのホラーのやつより怖い。
***
西宮は帰宅後、南雲にメッセージを送った。
『あなたの後輩ヤバいわよ』(西宮)
(南雲)『せやで』
『学名はヤミアカリと命名したわ』(西宮)
(南雲)『闇なの光なの?』
これでネコアカリ(本家)の亜種としてタチアカリとヤミアカリが追加された。
尚、ヤミの部分には『闇』と『病み』のダブルミーニングがある模様。
西宮博士はこの3体のアカリを御三家と呼ぶことにした。(適当)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます