第244話 保護者不在


今日は南雲と一ノ瀬が穏やかなデートをするはずだった。

しかし、彼女たちは今……



――絶望的な状況の中に居る。



「紗弓ちゃん、ごめん。ワタシが不甲斐ないばっかりに……」


「いえ。南雲先輩の責任ではないです」



ひょんなことから2人は現在密室に閉じ込められている。

暗闇ではなかったのが不幸中の幸いたが、どうやっても開かない扉に2人の心は折れかけていた。



「あーちゃん、茉希ちゃん。ワタシはもう帰れないかもしれません」


「ボクはここで暮らす決心がつきました。みほっち。茉希さんにあまり迷惑を掛けないで――」



「――はーい。タイムアップでーす。脱出失敗となりまーす」



そう、ここは体感型の脱出ゲームを提供する施設だった。


数ある客を見て来た店員も、一つも謎を解けずに部屋の隅っこで体育座りしている客は初めて見た。

当然だが途中ギブアップも用意してある。


……にも拘らず何故か一時間粘ったうえで体育座り。


いったいこの子たちは何を体感しに来たんだろうか。


「お、お客様ー? 答えの解説をさせて頂いてもよろしいでしょうかー?」


うわ言で辞世の句を読み上げる2人の肩を店員が叩く。



「こ、答え!? ワタシはてっきり体感型の監禁ゲームかと……」


「お客様? 監禁ゲームってなんでしょうか? そんなサービス聞いたことありませんよー」


「ちなみにボクたちの達成率ってどれくらいだったんですか?」


「……0%です」



「「わーお」」



本当に一時間監禁体験しているだけだった。


店員が解説するにあたって解けている部分は省くのだが、この2人に関しては1から10まで説明しなければならないので店員さんも大変である。

まぁ、店員冥利には尽きるのかもしれない。


この2人がよく一緒に居る友人は優秀なので、今まではこのような危機も難なく回避してきた。

しかし、この度はダメな方の2人でもやれる事を証明しようとした意気込んだ結果、御覧の有様である。


尚、難易度はMAXの物に挑戦している模様。アホなので。


店員さんも遠回しに難易度を下げた方が良いのでは打診している。



「ちなみに、ワタシたちにおすすめのヤツってどれー?」


笑顔の店員さんは迷いはなく、一番易しい小学生向けのやつを指差した。


「いや……もしかしたらお客様ならこっちでも行けるかも!」


その後、すぐに少し上の難易度へ上方修正。やり手である。


「じゃあ南雲先輩! それをやってみましょう! ……もしかして、ボクたちって意外とセンスは良かったんじゃ?」



店員さんは曖昧な笑顔で明言を避けたが、レベルとしては『小学校低学年向け』が『小学校高学年向け』に変わっただけである。

ここでも2人の立ち位置からは対象年齢が見えていない。

やはりこの店員、やり手である。


再度簡単なルール説明を受けた後に意気揚々と2人は監禁されに。



――そして悲劇は繰り返される。



***


「あとちょっと待って!! パスワードが4桁なら、あと3000通りで……」


「南雲先輩! こっちももう少しで解けそうですっ!!」


「お、お客様ー? 解説させて貰ってもよろしいでしょうか?」



またも監禁されていた。


先ほどとは違って暗号を見つける所までは来ていたが、南雲はよくあるパスワード入力をパワープレイで突破しようとしていた。

一ノ瀬は一ノ瀬でもう一つの暗号の解答を送り続けている。


今回は彼女たちが詰まっていた問題を見てみたいと思う。


南雲の方の暗号が、

『Z⇒ 7913』

『N⇒ 1739』

『T⇒ ?』


と書いてある。本当に初歩の問題でおそらく小学生でも分かるだろう。

テンキーに対してアルファベットを左から一筆書きした場合の通過点である。


つまり『T』なら『7から9』へ『9から8』へ『8から2』となるので、答えは『7982』だ。


ちなみに南雲さんの解答は『9782』だ。



「ずるじゃん!! Tって『9から7』に線引くじゃん!!」


「ず、ずる? 普通、Tって『7から9』に引きませんか?」


「それって右利きの感想ですよね?」



これには左利きの南雲さんは論破の体勢。

しかし、そうであっても右利きバージョンで暗号を入力すればいいだけだったので普通に頭が悪かった。



続いて、一ノ瀬の問題。


『8 - 1=0』

『五 - 四=-1』

『O + K=?』



答えを紙に書いて投函し、合っていれば店員がロッカー扉のロックを外す手はずとなっていた。


こちらに関してもそれぞの画数で計算されているだけで、

8と1の画数は1。『1画-1画=0』という暗号。

つまり、Oが1画、Kが3画で答えは『4』である。


一ノ瀬後輩の解答『OK!』



「『OK?』って聞いてる訳じゃないです。暗号です」


「あー……そっちですね! ちょっとIQ高くしすぎましたかね」



『大分低めでしたよ』と口を滑らせそうだったが、熟練の店員さんは笑顔を引き攣らせるに留まった。

やはり失敗してしまった2人は最後に人間として誇りをかけて小学生低学年向けのものにチャレンジをした。


これが出来なければ流石に義務教育の敗北である。


結果は……



「YES!! YES!! イット、イージーうぃん!!」


「南雲先輩! シャバの空気が美味しいですね!!」



制限時間ギリギリでこの喜びようである。

店員さんも2人が幸せそうで何よりだった。


店員さんは、これで2人には気持ち良く帰って貰える、そう思った矢先――


……2人が先ほどクリア出来なかった施設から幼稚園児くらいに見える子が出て来た。



「ママー、これ簡単だったね! 次、あれやろー」


「はいはい。ちょっと休憩したらね」



「「…………」」



「……店員さん。これってIQどれくらいの問題だったんですか?」


「に、2万……?」


「……!! あ、あの子もしかして天才なんじゃ!!」



そもそも2人がIQの基準を知らなかった為誤魔化せた模様。

多分、戦闘力か何かと勘違いしている可能性がある。


店員さんはこの2人の保護者を探したい気持ちになった。



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