第239話 ジェネリック東堂(?)


西宮はふと、一ノ瀬について考えた。


彼女も東堂同様に女子にモテるタイプのイケメン。そして、ボクっ娘。

スタイルもそれとなく似ており、何故かボクっ娘。

お互いスポーツも万能でアウトドア派らしく、極めつけにはボクっ娘。


そんなボクっ娘の唯一の欠点は壊滅的に知能が低い事だが、それは西宮もあまり変わらないので触れないことにした。


とにかく、何かと共通点が多い彼女たち。

実際にデートをしてみると似て非なるものだったことが判明する――



***


一夜明け、一ノ瀬と駅のロータリーで待ち合わせをした西宮は送迎車からいつも以上にゆったりとした様子で降りてくる。

何故なら彼女は筋肉痛で全身バキバキだからだ。


もちろん、遅刻もしているのでその点はご安心して頂きたい。



「待たせたわね、行きましょう」


「はい! 今日はよろしくお願いします!」


「…………」


「どうかしたんですか?」



筋肉痛で震えながらも西宮は優雅にバーガンディーのドレスを翻す。

それは過去に東堂とのデートに着て行った際にツッコミを受けて着替えさせられたアレだ。


今回もツッコまれる前提で動いていたのだが一ノ瀬の反応は予想以上に薄い。

逆に西宮のツッコミ待ちなのかが分からないのが大変難しい所である。


西宮は念のためもう一度、バーガンディーのドレスを翻す。



「……どう?」


「あっ! なるほど。はい! 似合ってると思いますよ!」


「褒めちゃうの!? そのドレスではちょっと……みたいな事は無いの!?」


「そうかな? ボクはどんな格好の西宮さんでも大丈夫だと思いますよ」


「こっ……この女、やりよる……!」



一瞬でも気を抜いたら堕としに来る。

そんな天然モテ女子のやり口に震撼しつつも西宮は主導権は奪われないように手を繋いでリードした。



「今日は何処に行くんですか?」


「まずはそこの商業施設で服を買いに行くわ」


「へー! 西宮さんでも普通のお店で服とかに興味あるんですね」


「違うわ。着替えるためよ」


「ふふッ……西宮さんって本当に面白ことしますね」



仮に北条なら『だったら最初から普通の服着てこい』で終わりである。

南雲なら『バカなの?』一閃。

かの東堂ですらちょっとは否定的な意見が出るだろう。


ところがどっこい、一ノ瀬後輩は何故か否定をしてこない。

並みの女子なら『いい雰囲気かも』とか『もしかして気があるのでは?』と思わせるような対応をしてくる。


西宮は東堂に弄ばれたと言う女子たちの気持ちを初めて理解出来た。


一ノ瀬は後輩4人組どころか、先輩を合わせた8人の中でも一番の良識人かと思われていた。


しかし、彼女もあの悪名高き家庭科部の一味。

しっかりと化け物の一面を持ち合わせているようで西宮はホッとした。 



***


試着室で西宮は柔肌を晒すうっかりハプニングを演じてみたが、彼女はそれにまったく動じず。

『誰かに見られちゃいますよ』と静かにカーテンを閉めた。

西宮はそっと閉められた試着室の中で一人、なんとも言えない気持ちで着替えた。


適当にふらふらと歩いた後、休憩の為にカフェに入った。

西宮は一瞬ケーキを見たが筋肉痛の理由を思い出して紅茶のみにする。

ちなみに、一ノ瀬はコーヒーとケーキを頼んでいた。



「あなた。今、好きな人とかは居るの?」


「よく聞かれますけど、今は居ないですね」



意図せず西宮が一ノ瀬に気があるみたいな発言していた事に再び震撼した。

当然、シンプルな興味から聞いただけである。



「明里は?」


「東堂先輩は憧れですね! なので、ボクは他3人みたいに拗らせ方はしてませんよ!」


「なるほど」



サラッと酷い事を言っているが、多分一ノ瀬の中ではあの3人は女子として扱っていないっぽい。

西宮は紅茶を一口飲むと、ふと一ノ瀬が頼んだケーキが視界に入った。


大変に美味しそうなケーキである。



「ふふっ。はい、西宮さん。あーん」


「あーん……(ぱくっ   ……はッ!?」


「どうですか? 美味しかったですか?」



西宮は自分の意思の弱さと一ノ瀬のやり口にダブルで驚愕していた。

ほぼ予備動作無しで大技を使ってきたために判断が遅れた。



「お、美味しかったわ。あなた……一応、念の為に聞いておくけど、私の事はどう思ってるの?」


「え? 面白い先輩だと思ってますよ!」


「なるほど」



『……あ、これ全然恋愛感情とかないヤツね』と確信した西宮は、ある結論を導き出した。彼女は恐らく、


――西宮に一目惚れをしなかった場合の東堂である、と。


そこから西宮は新鮮な体験を楽しむと共に、天然モテ女子の研究に勤しんだ。

一ノ瀬もこのレベルの不思議系女子は他に類を見ないので、逆に楽しめたらしい。



***


「今日は楽しかったわ」


「こちらこそ。また一緒に遊びましょう!」



待ち合わせ場所と同じ場所でデートを締めくくる2人。



「私に恋愛感情が無い明里はこんな感じなのね……命名するわ。あなたの学名は『タチアカリ』よ」


「え! 何かコシヒカリみたいで美味しそうですね!」


「うむ。 ……ちょっと急に何を言ってるのか分からなくなったけれど、また一緒に遊びましょう」


「はい! では、お気を付けて~!」



西宮はたまに東堂を味変したい時にタチアカリ後輩と遊ぶことにした。

色々話してみた結果、アホの子という感じでそこそこ波長が合う事も判明した。



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