第238話 パワー系の政治家


ついに折り返し地点にやって来たゴールデンウィーク。

本日の5/2の予定は、


東堂:美保とデート

西宮:一ノ瀬とデート

南雲:耐久配信

北条:バイト

四方堂:家族旅行

十河:昼配信


デートするのは二組だが、どちらも何とも言えない組み合わせ。

まずは今日も家を出る気が無い美保にスポットを当ててみよう。



***


美保は司法試験の過去問で理解が難しい部分を東堂に質問していた。

今のところGW中の美保の中でも一番健やか且つ、まともに過ごしている。



「ええっ!? み、美保ちゃん、司法試験受けるの? 僕は別に法律とか詳しくないよ……?」


「大丈夫、大丈夫。姉貴が『東堂は適当に本の内容インストールしとけば何でも答えてくれるぞ』って言ってたから」


「AIみたいな扱い!? 大丈夫の意味が分からないけど……」



そう言って東堂は美保から渡された、『東堂さんのインストール用』と書かれた本を何とも言えない表情で数冊目を通した。


――パラララッ


一冊を一分ほどで読了する東堂は頭の中で内容を反芻した。



「……うん。ある程度は答えられるかも?」


「え、じゃあじゃあ。Hey!! S○ri」


「普通に質問して?」



そこから美保は分からなかった部分を東堂に聞くと全て完璧に解説してくれた。



「す、すげぇ!! やっぱり姉貴が言ってた東堂先輩AI説ってマジだったんだ!!」


「……そんな一説が提唱されてるの?」



その後、東堂のお陰で恐ろしく勉強が捗ったので美保は余った時間でAIを使って遊ぶことに。



「東堂さん。この再生リスト100倍速で流し見しててー。ちょっと準備してくる」


「え、ちょっと美保ちゃん!?」



何故か美保はリビングの机を退かしたり物を適当に寄せて床に布団や毛布を敷いている。

常識的考えれば、今からお昼寝でもするのだろうと考えられるが、東堂が今見ている動画は……


――プロレスである。



***


『プロレス』


それは、リングで観客へ見せることを目的とした格闘技。

スポーツもとい、エンターテインメントである。


青コーナーに今入った美保選手は赤コーナーに立つ東堂選手に闘志を燃やす。



「打倒お袋の為、胸を借ります!」


「え、えぇ……ここ一応アパートの2階だよね。暴れて大丈夫なの??」


「細けぇこたぁいいんだよ。ベビーフェイス↓正義美保参る!!」


「僕がヒール↓悪役なの!?」



開始からいきなり助走をつけた政治家志望のドロップキックが炸裂する。

たいした威力は無かった為、床に転がる彼女を素早く拾い上げた東堂は先ほど動画で見たパイルドライバー(※1)をキメてみた。

(※1.頭から垂直に落として地面に埋め込むやつ)



「ぐっ、ぐはー(棒読み」


もちろん寸止めなので衝撃はない。


「こ、これは練習になるの……?」


「ふーん。うちの小娘をやるたぁ、やるね。君」


「瑠美さん……いつの間に?」



なんか変なのも来ていた。

普段から美保とプロレスを繰り広げているだけあって、この会場の熱に誘き出されたようだ。


ダウンした美保に代わって青コーナーには、まさかの瑠美がリングイン。



「娘の仇は取らせて貰うぞ!! この悪党め!!」


「やっぱり僕が悪党なの!?」



娘を彷彿とさせる助走から瑠美のドロップキックが炸裂する。

その威力は娘の方とは比にならず、東堂は壁まで吹き飛ぶ。



「これが美保の分、そしてッ……これがッ!! ここには居ない茉希の分だぁぁぁ!!」



怯んだ東堂に畳みかけるように飛び蹴りをする瑠美。


――この母親、バカである。


しかし、東堂もエンターテイナー西宮とかの扱いには慣れている。

咄嗟に蹴りを躱した彼女は瑠美の背後からお腹の辺りを抱きかかえた。



「なにッ!? この構えは……」



そのまま東堂はブリッジするように瑠美を背面から地面に叩きつける。

先ほど動画からインストールしたジャーマンスープレックス(※2)である。

(※2.もちろん寸止めです。)



「ぐっ、ぐはッ!!(←渾身の演技)」


「瑠美選手ダウン~!! ワーンッ!! トゥーッ!!」


「し、審判!! 私はまだやれる!!」


「ちゃんとファイティングポーズ取って!!」



未だ衰えぬその闘志を以て、その後も瑠美は目の前の悪に立ち向かった――



***


「いやぁー、楽しかったよ! 東堂さん、ありがとな。美保相手じゃ毎回消化不良だったからさ」



ひと汗拭って気持ちの良い表情をする瑠美が握手を求めた。



「い、いえ、こちらこそ(?) 普段マキは相手してくれないんですか?」


「姉貴が相手する訳ないじゃん」


「え。家族思いだから何か意外かな。どうしてだろ」


「どうしてってそりゃ、東堂さん……」



「――ただいまー」



「「あ、やべっ……!!」」


「??」



突然帰って来た長女に恐れ慄く2人。

尚も東堂だけが疑問符を浮かべていた。


やがて長女がリビングに来ると……



「おう。東堂、まだ居た、の……、か…………」



彼女は部屋の惨状を見て表情に影を落とす。

それに釣られて東堂も改めて部屋の状況見ると悲惨な状態だった。



「……全員そこに座れ」


「ま、待ちな茉希!! 私たちはベビーフェイスで!! これは全部ヒールの東堂さんの仕業で……」


「まさかの裏切り!? さっきまでのあのアツい握手は!?」


「そ、そうだ姉貴!! これを見て!!」



美保はちゃっかり証拠写真として収めていた瑠美が東堂にガッツリ関節技をキメられている写真を提出した。



「お前……人の母親に何してくれてんの?」



それはそうである。

友人の母親と自宅でプロレスする奴は世界を見渡してもそういないだろう。


……どちらかと言うと娘の友人とプロレスをする母親、と言った方が正しいが。


その後、3はガッツリと長女に怒られた。

反省をしながら部屋を片付けた後、全員で下の階の住人にちゃんと謝りに行った模様。



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