第240話 絶対にやっちゃいけないやつ


このゴールデンウィークは8人のデート三昧でお送りしていたが、今回は閑話として南雲の耐久配信をご紹介しよう。


彼女はGW中の配信で『24時間耐久ゲーム配信(予定)』を企画していた。

凸待ちをしながらゲストが用意したゲームをクリアしていくという内容だ。

流石に長編のストーリーものとかは無理なので、アクション系で且つ初見プレイ時間が24時間以内のものを募集した。


ファンサービスとして南雲こと梅雨町は最初の1本目は視聴者のコメントからゲームを選ぶことに。

そこで要望の多かった鬼畜ゲー『壺女』という劣悪な操作性で有名なイライラ必須のゲームをやらされる事となるのだが……


実はこのゲームを配信外で何度かやった事があった為、10分くらいでクリアしてしまった。

この他にも有名な死にゲーを約2時間ほどでクリアしたり、とにかくプレイヤースキルが高すぎる梅雨町は企画を破壊していた。


しかし、そんな梅雨町に救世主(悪魔)が訪れる。



「こんにちは、リリィちゃん!!!!」


「……元気が凄いんだから、この子は。こんにちわ」



前のめりに挨拶する彼女の名は夜咲星空よざきせいら

で有名なVtuberであり、梅雨町の厄介ファンガールである。

尚、中身は南雲の隣の部屋に在住。



「この企画を聞いた時、星空はリスナーを緊急招集してリリィちゃんの為の鬼畜ゲーを探しました!」


「ふーん。いいじゃん。受けて立つよ」


「リリィちゃん流石です! カッコいい! 大好き!」


「そういうのいいから。はよ」



既にローテンションな梅雨町がうざ絡みする夜咲に若干ピキついている。

視聴者の間ではこの時点で期待度は高まっていた。



「その名も……夜咲コントローラーRTAです!!」


「ちょっと意味分からないです」


「えーと、RTAというのは『Real Time Attack』の略で……」


「分かっとるわい。その前の部分の解説よろ」


「コントローラーですか??」


「(イライライライラ)」



ちなみに夜咲は正気……間違えた、本気である。

これには梅雨町リスナーも、


『???』

『夜咲www』

『頭おかしくなりそう』


と、騒めき出す。

梅雨町が改めて”夜咲コントローラー”なるものの解説を要求した。


掻い摘んで説明すると、

・夜咲は、視聴者が選んだギリクリア出来そうなゲームをプレイ

・梅雨町は夜咲を指示してコントロールする

・お手本は見せていいが、全クリするのは夜咲


そして今回選ばれたゲームは、ゾンビシューティングをしながら街を脱出するという有名な作品。



「なるほどね。まぁ……イージーモードならワンチャン?」


「いえ! ハードモードです!」


「むり。解散」


「『梅雨町なら壊れたコントローラーでもクリア出来るっしょwww』

ってリスナーが言ってましたよ!」


「そのリスナー縛り上げろ」



この夜咲という女が有名な理由が、Vtuber屈指のゲームセンスの無さだ。

一般的な指示厨ですら裸足で逃げ出すようなプレイヤースキルの持ち主で、寧ろゲームの下手さをウリにしているような配信者だった。


なので一見すると絶対クリア不可能に思えるが、そこで重要なのが梅雨町である。


彼女は過去の企画でこのゲームのRTAにチャレンジしていた事があったので、敵とアイテムの配置を全て暗記している。

クリアの為にネタバレとかはガン無視して指示すれば決して無理ではないのかもしれない。



――ほとんどのリスナーはそう思っていた。



夜咲を舐めていたのだ。まずは序盤。


「どうせ無理なんだからヘッドショットを狙わなくていいよ」


「はい! (パンパンパンッ!!」


ゾンビに食われる⇒『GAME OVER』


「体には当てて?」



またある時は、


「そこ、右から敵出てくるから気を付けて」


「了解です! 右に寄りますね!」


右から出て来たゾンビで瞬殺⇒『GAME OVER』


「……なんで寄った?」


「近づいた方が当てやすいのかなって」



実際には1発も撃たずに即死だった。

甚大なストレスと共に嫌な予感がした梅雨町は時計を見た。


現在プレイ開始から2時間。進捗率――


――10%


単純計算でも20時間かかるのだが、当然後半になるにつれて難易度は上がっていく。

それまでに夜咲が上手くなるのが先か、ゲームが難しくなるのが先か。


当然、ゲームが難しくなる方が先だった訳で。


それでも、梅雨町先生による解説動画も挟みながら何とか攻略していく。

梅雨町の配信なのに何故か夜咲のプレイを見守るという、もはや配信ジャックされている状態ではあるが、この手に汗握るアツい展開にリスナーは……



普通に寝た。



『寝ます。ほな、また』

『クリア出来そうになったら呼んで』

『うちの夜咲を頼みます。おやすみなさい』



そんな温かいコメントに梅雨町は背中を押されながら、プレイ時間が約24時間に到達したその時、遂にその瞬間が訪れる。


何度もボスに立ち向かっていた夜咲がふと立ち止まる。

というか、棒立ちになった。



「星空ちゃん?」


「……………………すぅ」


「……おい、まさか嘘だよね?」



『寝落ち』

それは、作業などをしたまま寝てしまう事。

今の夜咲星空の状態である。


ちなみに、絶対に配信者がやっちゃいけない事である。



「おいぃぃ!! 起きろ星空!! そのオチだけはない(怒)」



そしてその日、夜咲が起きる事はなかった。



「えーっと……。と、言う事で今回の夜咲コントローラーRTA。


……失敗ですっ!! 解散!!」



こうして、梅雨町の耐久配信は衝撃的な幕切れを迎えた。



***


尚、この配信の切り抜きは滅茶苦茶再生され、夜咲の新たな伝説と共に梅雨町の知名度は上がった。


リスナーには楽しんで頂けたようで何よりである。



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