第236話 意外と根に持ってた
昨日東堂は期待と不安を込めて西宮にペアルックでデートしよう、と頼んだところその申請自体は承認された。
彼女はそれに加えてなるべく動きやすい服装で来るようにと付け加え、彼女にしてはかなり珍しい場所をデート場所に指定した。
翌日。まずは本日5月1日の予定。
東堂:西宮とデート
南雲:耐久配信(初日)
北条:バイト
一ノ瀬:家族の手伝い
四方堂:家族旅行
十河:美保とデート
となっている。
昼過ぎに駅で西宮を待つ東堂は2重の意味で人の目を引いた。
長身イケメンでファッションも決まっているとなれば当然だろう。
そんな彼女を改めてよく見てみるとクソダサい恐竜のTシャツがかくれんぼしていた。
街行く人は見間違いかと、やたらと2度見しては通り去っていく。
「待たせたわね、行きましょう」
相変わらず優雅に遅刻する西宮だが、本来はそんな彼女にまったく動じない東堂ですら今日は動揺を隠せなかった。
思い出すのは初デートのあの日。
東堂はあの日と同じセリフを口ずさんだ。
「れ、麗奈。凄く……凄く綺麗なんだけど……」
「?」
「その芋ジャージでデートはちょっと……」
そう――
西宮はゴリゴリの芋ジャーでデートに来ていた。
***
ダサTコーデのイケメンと芋ジャーお嬢様が向かったのは……まさかの『ラウンドテン』。
ここ最近人気が急上昇しているとかではなく、本当にただの偶然である。
「麗奈は凄いね。たしかにここは体を動かす所なんだけど、そんなゴリゴリにジャージ着てラウンドテンに入ってる人は初めて見たよ」
「しっかりと準備体操をしなさい。今日は徹底的にやるわよ」
「う、うーん……無理はしないでね?」
東堂には相変わらず何をやるのかがさっぱり分からないが、準備体操で息切れをする西宮を見て不安を覚えた。
「はぁ、ふぅ……では。まずは『ロデオマシーン』から行きましょう」
「『まずは』!? 初動ロデオは聞いたこと無いよ!?」
有無を言わさぬ西宮は牛さんに跨ると、案の定一振りで吹き飛んでいった。
プルプルと震えながら長い黒髪を垂らしてゆっくりと起き上がるその姿は、井戸から這い上がる女性の幽霊に酷似していた。
但し、芋ジャーである。
「だ、大丈夫、麗奈? もうロデオはやめた方がいいと思うけど……」
「そうね……今日はこれくらいにしといてあげましょうか」
「……今日は? 麗奈はなんで急にそんなにロデオをやりたくなったの?」
「別にロデオに執着はしていないわ。とにかく体を動かしたくなっただけよ。次はボクシングマシーンに行くわよ」
「うーん??」
次に向かったボクシングマシーンを前に顔だけは涼しそうな西宮がグローブを嵌める。
ただならぬオーラを纏った西宮がパンチを繰り出した――
「――シュッ!!」
ぽふっ。
「シュッ!! シュッ!!」
ぽっ、ぽふっ。
その拳はあまりにも速すぎるのか機械が感知しなかった。
常人の目にはそれがただのネコパンチにしか見えなかったが、風を切る音が聞こえるのだからそんなはずはない。
「――シュシュシュ、シュッ!!」
西宮は妖怪みたいな動きでマシーンに数発フェザータッチを繰り出す。
「なんかの儀式かな……?」
「はぁはぁ、も、もう限界……(ドサッ」
「麗奈っ!?」
玉のような汗を流した西宮はその場にへたり込んだ。
急いで東堂が背中を支え、スポーツドリンクを渡すと西宮はクルクルと容器を回して成分表を見た。
「麗奈? 飲まないの……あっ!? まさか!!」
何が西宮をそうまで駆り立てるのか。
その時、東堂にしては珍しく西宮の行動の意図を完全に分かった気がした。
「……まさか麗奈。今日ごはん食べてないとか無いよね?」
「…………」
「やっぱり……!! 食べないのは良くないよ! ダイエッ……」
「ちがうわ」
「え、でもダイ…………」
「ちがうわ」
不機嫌そうにむくれながら言葉を遮る西宮。
申し訳ないが可愛いと思ってしまう東堂であった。
「誰になんて言われたのかは分からないけど、麗奈はその……胸が大きいから。ちょっと太って見えただけだよ」
「太っ……!?!? シュシュシュシュッ!!」
突然立ち上がった西宮は再びスパーリングを始める。
「あっ、ごめんごめんっ!! 語弊があったから訂正するね!! 服を着ると体のラインが膨らんで……」
「膨らんで!?!? シュシュシュ……!!」
結局、西宮を止めるのに東堂は彼女の倍はカロリーを消費した。
***
疲れ果てた西宮は帰りの車の中で東堂に肩を預けて寝てしまった。
東堂は意外と気にしいな彼女頭を撫でる。
「……大丈夫だよ、麗奈。麗奈はこんなに可愛いんだから」
「すぅ……」
いつも突飛な彼女の行動は見ていて本当に飽きない。
出来ればずっとそんな彼女の隣居たいと願う。
「一目惚れした僕が言える事じゃないかもだけど。……それでも。例えどんな姿になっても、僕は麗奈の事を愛しているよ」
「……すぅ」
――ぽふっ。
東堂の顔面にネコパンチが飛んできた。
少し体勢を変えた西宮の顔は気持ち赤くなっているようにも見える。
しかし、東堂はそれに気づいていなかった。
故にそれは西宮が起きていたからなのか、或いは夕日のせいだったのか。
真偽のほどは西宮にしか分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます