第235話 健全なるパパ活
本日、南雲は遂にあの十河とのデートを強いられていた。
現在彼女は家のドアにチェーンを掛けて半開きのドアから十河と会話している。
しかし、彼女は武芸百般でありながら前科も百犯の女。
ちょっと会って話すくらいなら良いかと思ったが、サシで会うのにはやはり勇気が必要だった。
南雲曰く、やはりストーカーというのは最低な行為で生理的に無理らしい。
と言うかそもそも、十河に関しては正面から会いに来ているのでストーカーよりも更にタチの悪い厄介ファンだった。
「せんぱぁい……うるうる。デートに行きましょうよ……」
「ワタシは擬音語を口に出して言うような女とはデートに行かない!」
「でも先輩? 西宮先輩が、このデート企画を無視したらペナルティって言ってましたよね?」
「うぐっ……」
ここで死ぬか、後に死ぬか。
要はどのみち詰んでいた。
「はぁ……じゃあ、とりあえずまず何するかだけ決めようか。……日没まで」
「デートプランは決まってます♡」
「え、こわ」
そこから少しでも十河と居る時間を減らすために牛歩戦術で身支度をしようとした南雲。
しかし、その間十河がずっとチェーンロックされた半開きのドアから片目で室内の様子を凝視するというホラーがあった為、身支度は早々に終わらせた。
外に出るとタクシーでもない謎の送迎車が止まっており、十河からそれに乗るように促された。
「あ痛たた……急にさしこみが……」
「大丈夫ですか先輩!? ……ウソだったらペナルティですよ?」
「…………。 行こっか」
「はいっ♡」
こうして南雲は為す術もなく誘拐されてしまった。
***
十河が提案したのは服選びという意外にも普通のデートだった。
……ここがスタジオでなければ。
南雲が連れて来られたのはモーションキャプチャーを使って収録を行う為のスタジオ。
今からは十河は新衣装を決める為の動画撮影をしようと準備している。
大好きな先輩とあーでもないこーでもないとキャッキャッする動画が撮りたいわけだ。
「さ、さ。先輩♡ 収録始めますよ!」
「えっ……ちょっと! ワタシ、モデルが……!」
「こんにちは♪ よじライブ所属の
一瞬でキャラ切り替える辺りは流石人気Vtuberである。
「今日はなんとぉ……!! 『梅雨町リリィ』こと先輩とのコラボ動画ですパチパチパチ~!! どうぞっ!!」
「……どうぞ、て。どうも。ご紹介に預かりました梅雨町です。3Dモデルが無いので今日はナレーターを務めさて頂きます」
「もう、先輩? 今日はせっかくのコラボですよ? モデルも用意してあるに決まってるじゃないですか♡」
「……は?」
今回のデートはあくまでも服選び。
それは十河単品の話はなく、南雲の服も含まれる。
なんと画面に映ったのは、十河の梅雨町愛をこれでもかと詰め込んだ神クオリティの自作
本家を忠実に再現しつつ、精彩に作られたそれはとても素人が作るものには思えない。
「こちら、なんと
「う、うわぁ……(ドン引き) すごーい……(棒)」
一説によると、プレゼントで貰って一番困るのは自作の服らしい。
今まさに南雲がそれを証明していた。
動作確認をする南雲こと梅雨町はむしろ完璧な出来栄えにドン引きしている。
きっとおびただしい程の試行錯誤を重ね、この全身を舐め回すように調整してきたかと思うと怖気が走った。
ちなみに、この界隈でVtuberのイラストを作った人の事を『ママ』、3Dモデリングをした人の事を『パパ』という風潮があるとか。
つまり、十河は遂に恋人すら超越して肉親になってしまったのだ。
「あぁ……せんぱぁい♡ 月が作ったお洋服を纏って動いて……んあっ……♡」
十河は内股で顔を赤らめて居るが丸井ファンの視聴者の皆さんはどうか安心して欲しい。
これは配信では無いので放送事故は無いのだ。
実際の収録時間は長く、内容の9割は
先ほどの問題シーンもスタッフさんが真顔でカットしていると思うと大変シュールではある。
***
そこからは丸井は新衣装の試作を何パターンか着替えながら3D梅雨町とスタジオデートを楽しんだ。
丸井の生歌を聞きながら梅雨町がペンライトをフリフリしたり、
2人でお題を出し合ってポーズを取ったり、
果てには、定番のツイスターゲームまでした。
意外にも先に限界が訪れたのは丸井で、最後の方は色々とビショ濡れだったらしい。
もちろん、汗と涙だと思います。清純派で有名な月ちゃんを変な想像で汚さないで頂きたい。
後に公開された動画は大好評で、丸井がこれだけ公私混同して取った動画が自分のゲーム配信より再生数が伸びているのを見て梅雨町は悲しい気持ちになった。
今宵も『りりるなてぇてぇ』論者は増える一方である。
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