第233話 はじめてのペアルック


「今日は企画を持ってきたわ」


今日もいつもの如く西宮が、



「……どうしたのマキ?」



と、見せかけた上機嫌北条さんの西宮モノマネから2人のデート(?)は始まる。


まず、本日4月30日の予定。


東堂:北条とデート

西宮:美保とデート

南雲:十河とデート

一ノ瀬:運動部の助っ人

四方堂:家族旅行


北条のゴールデンウィークは今日を除けば残りはバイトか家族旅行なので、2日目にして今日がゴールデンウィーク中の最後のデートである。


とは言え、北条にとっては昨日のデートが本命なので今日は既にウイニングランに入っている。

そんな北条さんは本日、西宮のような企画を本当に持ち込んでいた。

その説明を受けた東堂が曖昧に頷く。



「……つまり? 今日はマキが麗奈っぽい行動をして明日のデート対策をしてくれる、と?」


「そうだ。……間違えた。そうよ。わっ……わかったかしら?」


「うん。マキが相当に浮かれてるのは分かったかな」



まったくもってその通りなうえ、上機嫌な北条さんは否定しない。

東堂も面白そうだったので、北条とのデートプラン自体は変えずにその企画に乗っかってみる事にした。


まずは近くのショッピングモールへ向かう事に。

自然と手を繋いだ東堂に対しマキ宮は疑問を抱く。



「……あいつってさ。腕組んでこない?」


「それは、『俺は西宮と腕組むけどお前どう?』っていう煽りかな? マキ?」


「ご、ごめんごめん! そのー……あれだ!! 明日は手じゃなくてそれとなく腕を差し出してみろ!」


「なるほどね? 危ない危ない。喧嘩売ってるのかと思ったよ」


「なー、危なかったな……! ほら、今からやるぞ。腕出せ」



なんと今回、北条さんが体を張って腕を組んでくれるそうだ。



「……どう?」


「うーん。なんかこう……ボリューム感がないというか、なんか違うというか……」


「お前ホント乳好きなんな」


「ちがっ……麗奈感が足りてないというか!!」


「それ、質感だろ。まぁいい。今日はこれで我慢しろ」



***


ショッピングモールで服を見て回る2人。

普段北条が選ばないよう服をマキ宮は躊躇なく持ってきた。



「明里。これなんてどうかしら?」


それは胸の部分に2つ富士山が描いてあるという謎デザインのTシャツ。

おそらくその2つの山はそういう意味だし、普通にクソダサい。


「さ、再現度高っ!? それ絶対麗奈がやってくる奴だよ!!」


「こういう時、お前なんて言うの? 『そ、それはダサいかも……』とかいうの?」


「言わないよ! ん? でも……」



そしてこの時、東堂の脳内には電流が走った。

脳裏には西宮とのデートで買ったペアルックの恐竜Tシャツ。



「そ、そうか!! 今回はダサTペアルックでデートすれば……」


「いや、ダサT言うてますやん」


「じゃあ、試しにこれ一緒に買って再現しよっか?」


「イヤだよ!! だってダゼェもん!!」


「マキ。麗奈はそんなこと言わない」



こうして北条ことマキ宮はダサTを購入&着衣させられる事になった。

東堂はシャツを着替えるだけで済んだのだが、北条に関してはダサTの上に着るものまで調達するハメに。

2人が腕を組んで歩くと、そこには富士山が4つそびえ立つ。



「お前さ……なんでここで謎の積極性を見せるの? これで西宮とペアルックしなかったら覚悟しとけよ?」


「でも、マキ。これはいいかもしれない……! せっかくだし、あれも試してみたかったんだよね!」



北条が嫌な予感を感じながらも向かったのはそれっぽい喫茶店だった。

そこで東堂が頼んだのは……

ハート型のストローが2方向に分かれている『アレ』。



「ペアルックでこれをやるのは凄くカップルっぽくない!?」


「いいけど……お前、明日絶対やれよ?」



自分から言い出したものの、その後も不必要なイチャイチャを強いられた北条は次第に冷静になっていった。

昨日からの酔いも醒めた頃、ようやくデートも終わる時間に。



「お前の西宮への愛情はよく分かった。もう俺が教えられることは無いから明日は頑張りたまえ」


「マキ……今日はありが……あっ。まだやってない事あったかも」


「もうええて……」


「き、キスの練習、とか?」


「お 前 マ ジ で 言 っ て る?」



恥ずかしそうに、されど決意を秘めてコクリと頷く東堂を見て北条も覚悟を決めた。

たぶん、東堂もここでやれないようであれば明日も出来ないという事だろう。


別にお互い恋心がある訳では無いので後腐れもない。



「……分かった。ただし、一瞬で決めろ。西宮の別れ際を想定してな。あと、恥ずかしがんな」


「ありがとうマキ。その背中……いや、唇借りるよ」


「言い直さなくていい」



人気のない所を見つけた東堂はスッと柱の陰に誘い込んで壁ドンした。

そして自分から顔を近づけ、



「……んぅ」


「!?!?」




――バシッ!!



何故か頭を叩かれた東堂が不思議そうな顔をする。



「し、舌まで入れるバカが居るか!!」


「え……でも麗奈との初めては舌入れられてたし?」


「天然かお前は!! 付き合ってもないカップルがデートの別れ際に舌入れる訳ねぇだろ!!」


「そもそも付き合ってもないカップルは別れ際にキスしないような……」


「急に冷静になるな! 無性に腹が立つ!」



結果的には調子に乗った自分が西宮を演じると言ったのが元凶なので、それ以上北条は何も言わなかった。

その後も帰り道の間、西宮の傾向と対策をバッチリと予習した。


果たしてこれはデートと呼べたのか。

一応、傍から見れば完全にカップルのデートではあった。



***


北条が自宅へ帰ると――



「姉貴おかえ……何そのTシャツ! ダッサ!!」


「……茉希。まさかアンタそんな恰好で出掛けてないよな?」


「わ、忘れてたッ!! どっかで着替えればよかった……!! 近所の人に見られてねぇよな……!?」



なんやかんやあった北条は自分の恰好が終わっている事をすっかり忘れていた。



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