第232話 お嬢様のラリアットが見れるラブコメ


西宮の企みによって入り乱れる事となったゴールデンウィーク。

全体的を通してみれば珍しい組み合わせも多い。


後輩組が入学してから丁度1ヶ月くらいなので、オリエンテーションのタイミングとしてはそれで良かったのかもしれない。


まぁ、要するに。

今回がその珍しい組み合わせな訳である。



***


気合を入れておめかしした姉の後ろ髪を散々引っ張った挙句、母親の瑠美に関節技をキメられて押さえつけられている美保。



「わりぃ、お袋! 俺行くわ!」


「あいよ。楽しんできな」


「あ"あ"ぁ"!! 姉貴行かないでッ!!」



号泣するも今度は止まらなかった姉は扉の向こうへと消えて行った。

隙を見て姉を追おうとしている美保を見て瑠美はより一層関節を締め上げる。



「いいか、お前は今日ハウスな? 絶対に外に出るな」


「お袋は姉貴が心配じゃねぇのか!?」


「お前の方が心配だよ」



しばらくの間、瑠美はバタバタと暴れる美保と玄関でプロレスを繰り広げていると、突然インターホンが鳴った。



「どなたかは知らんけど、接客対応するから恥ずかしい真似はすんなよ」


「……するわけ無いだろ」


「はーい! ……どちら様?」


「ごきげんよう。わたくしはそこの北条さんの友達ですわ。お邪魔しても?」


「嘘……こいつに紗弓ちゃん以外の友達がッ!?」



現れたのはどう見ても良いとこ育ちのお嬢。

美保に2人目の友達が居るという珍事に瑠美が呆気に取られた瞬間――



「でかした、四方堂!! 姉貴。今から行くぞ!!」


「あ、おまッ!? 君、そのバカを止めてくれ!!」


「承りましたわ」



意気揚々と横を通り抜けようとした美保の首に四方堂の腕がめり込む。



「ぐぅえッッッ!?!?」



実質、ラリアットである。

例え四方堂の運動神経は並みでも、ひ弱な美保をK.Oするには十分だった。

尚、クリーンヒットにて悶絶する美保を見ても彼女はまったく悪びれる様子がない。


その姿を見てどちらかと言えば体育会系の瑠美は、



『こ、こいつぁは美保の親友だーッッッ!!』



と確信するのであった。



***


深手を負った事により姉を追う事を断念した美保は四方堂をリビングへと招き入れる。



「まったく……えらい目にあったわ」


「自業自得だろ。君、さっきはありがとな? 私はこいつの母親の瑠美だ。君の名前は?」


「ご紹介遅れましたわ。私、四方堂ガブリエル杏樹と申します」


「しほっ……!?」


「すげぇ名前だろ? ガブ何とかって言ってウケるだろ? 苗字も聞いた事ねぇし」



『HAHAHA』と笑う美保はふざけているが、瑠美が驚いているのはではない。



「き、聞いたことあるに決まってるだろ!! お前は母親の勤め先知らねぇのか!?」


「ん? 化粧品会社の『SHIHODO』だろ? おぉん……?」



まさか? と美保は思っているがそのまさかである。



「……む、娘がとんだご無礼を働きましたッ!! どうかお許しを!! お詫びにサンドバック代わりにしてもらっても良いので!!」


「頭を上げて下さい。社長は母ですのでお気になさらず」


「は、はえー……お前はお袋の会社の社長令嬢だったんかー。気まずー」


「あの、ウザいと思ったら気軽に殴って貰って良いんで! 今後ともよろしくお願いしますッ!!」



美保は知人にペコペコする母を見て何とも言えない気分になるが、一応大企業の社長の娘とその会社の平社員という関係性なので仕方がない。



「ほんで、今日お前何しに来たの?」


「はあ? お姉様のお話を聞いてなかったのかしら? デートか遊びに来ましたの」


「でででデートッ!? うちのクソ娘と!?」


「うるせぇぞお袋。てか、もう親同伴してなくていいだろ。部屋帰れよ」


「気にしませんわ。どうせあなたと2人だと間が持ちませんし」



めんどくさがった美保の代わりに西宮が考えた企画を瑠美に解説した四方堂。

まさかその一環で長女が上機嫌だったとは思いもしなかった。



「まぁいいや。アタシ、お前と話したいことそこそこあったんだよな。とりあえず四方堂って名前呼びにくいから変えていい? 語感悪いわ」


「おま!? 何て失礼なこと言うんだ!!」


「好きにして構いませんわ。私も『北条さん』やら『北条』と使い分けるのがややこしいから美保と呼びますわ」


「じゃあアタシもお前を……やべ、お前名前なんつったけ? ガブなんとか、アンヌみたいな名前だったよな?」


「ガブとアンしか合ってませんわ。あなたどれだけ私に興味がありませんの?」


「む、娘がご無礼を……ッ!!」



四方堂もまさか一日に同じ家で2回も自己紹介する事になるとは思わなかった。

美保がフルネームを聞いたときに『それな?』みたいな反応するのも最高にイラついた。


しかし、話が通じるだけまだマシというもの。


四方堂はこれよりももっとヤベー奴十河灯とかいう女が身近にいた事を思い出して心の平穏を取り戻した。



「ほんじゃ杏樹って呼ぶわ。よろしく」


「ええ、よろしく。美保。それで話と言うのは?」


「そうそう。お前には先輩妹として色々教えてやりたくてな。なんてったてアタシは生まれた時からずっと妹だからな」


「当たり前だろ。何言ってんのコイツ?」


「ちっちっち。分かってねぇなお袋は。妹にも色んなカタチがあんだよ。特にこいつは後天的な妹でな……?」


「そこに理解があるのは流石ですわね。聞いて差し上げましょう」


「え……この子も何言ってんの?」



瑠美が後々話を聞いていて分かった事は、どうやら妹(重症)と妹(自称)は話が合うという事。

一般人には理解不能な会話も2人は『わかるー!』とか『わかりますわ!!』とお互いの姉自慢が止まらない。


会話が噛み合っているかと言われたら怪しい所だが、まぁ当人たちが楽しんでいるみたいなので良しとした。


ぶっちゃけ、頭がおかしくなりそうな内容だったので瑠美は適当なところで自室に帰った。



***


最終的に四方堂が帰る頃には、2人は姉ガチ恋勢のみが結ぶ事が出来る妹同盟なるものを締結していた。

その夜、母の瑠美はもう次女には一ノ瀬さんのようなまともな友人は一生出来ないのかもしれない、と1人枕を濡らして眠るのであった。



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