第230話 セラピスト
本日4月29日は待ちに待ったGW初日。
ここからそれぞれのデートが始まるのだが、GW中は日付が変わる毎に本日の予定を紹介したいと思う。
東堂:バイト
西宮:???
南雲:北条とデート
北条:南雲とデート
一ノ瀬:運動部の助っ人
四方堂:美保とデート
十河:よじライブのイベント参加
美保:四方堂とデート
この中から最初にスポットを当てたいのはこの人。
「ここがあの女のハウスね……」
――ピンポーン
『はーい。どなっ……(ドタドタ、バタバタ)』
「来ちゃったわ」
『に、西宮さん!! なんでウチに来てるんですか!!』
「まぁまぁ。積もる話もある事だし、早く上がらせなさい」
『……なんで西宮さんが催促する側なんですか。はぁ……解錠するので部屋まで来てください』
記念すべきGW回の第一回は
***
「お邪魔するわ」
「何もない所ですがどうぞ……」
簡素で清潔に保たれた部屋の中には可愛いぬいぐるみがちらほらと見え隠れしていた。
キッチンの方に目を移すと棚の中にたくさんの調理器具が収納してある。
趣味にお菓子作りを自称するだけあって用具にも手入れが行き届いているようだ。
まさに、可愛らしい趣味を持つ百合を表した部屋だった。
「本当に何もないわね」
「いや、何かはあるよ!! 今、西宮さん部屋を舐め回すように見てたじゃないですか!!」
「まぁ、話題が広がるとは思わなかったのよね。だから、はい。つまらないものですが」
家庭科系女子との会話に光明が見いだせない西宮は手土産でお茶を濁す事にした。
こちらもまさに、西宮を表すような超高級そうなお菓子だった。
「ほ、本当につまらないものなの? 賄賂みたいでなんかやだなぁ……」
悪徳商人のやり口に思えて何か裏を探る百合。
「お茶と一緒に食べると美味しいらしいわよ」
「あー、はいはい。お茶を入れろって事ですね。ちょっと待ってて下さいね」
当の西宮にとってはごく普通のお見上げだったらしい。
紅茶を注いで席に座ると、ようやく百合は一息つく事が出来た。
「お家デートだから聞きたいことがあればなんでも聞きなさい。スリーサイズとかでもいいわよ」
「どうやって場所を? とか聞きたいことは山ほどありますが、一番聞きたいのは……何をしに来たんですか?」
「何って。デートだけど? お家でラブラブデートよ」
「…………」
西宮の真意が分からない百合は返答に戸惑う。
この生徒は1年前から変わらず何をしたいのかが良く分からない。
(この手は使いたく無かったけど……そもそも通用するのかな?)
百合はつい最近習得した対西宮最強スキルを試してみる事にした。
「な、なるほど。デートだね! じゃあさ、これ見てー。振り子だよー……ってええ!?」
振り子を出した瞬間には西宮は爆睡していた。
もはや、催眠の掛かりが良すぎてギャグを超えてホラーだった。
あるいは、百合が天才催眠術師である可能性もあるが。
(こんなやり方は良くないかもだけど、悪い事には使わないから……!)
「……西宮さん、答えて下さい。今日ここに来た目的はなんですか?」
「うぅん……最近、百合先生の元気が無かったから……」
(えっ……ま、まさか。本当に私を元気づける為に!?)
やり方は西宮らしく謎ではあるが、百合は彼女の純粋な気持ちを真っ直ぐ受け止めていなかった事を恥じた。
(ごめんね……こんな無粋な真似をして。催眠なんてもう2度と……)
「むにゃ……元気が無かったから今なら弱みに付け込んでヤれるかなって……チョロそうだし」
「…………」
西宮を起こそうとした手を止めて百合は輝く笑顔で暗示を付け足した。
「今日一日が終わるまで、西宮さんの性欲は何故かまッッッたくありません。……はい!」
「……ぅん??」
のそのそと起きた西宮は状況確認する。
「あれ? 私はいつの間に寝て……? と、言うか用事も無いはずなのになんで百合先生の家に来たのかしら?」
「……本当に目的はソレだったんですね。もう……西宮さんったら。今日はテスト前に家庭科で分からない所を勉強しに来たんですよね?」
「……? そうだったかしら? じゃあ、答えだけ聞いたら帰るわね」
「教師になんて事言うんですか!!」
そこからはお茶菓子を摘まみながら他愛のない雑談を過ごした。
雑念のない西宮は想像以上に普通で、多少は無礼な態度はあっても平時と比べれば遥かにまともである。
百合はこんな健気な生徒から
たまには、体内に溜まった有害な毒物を排出して綺麗な状態の西宮に戻すのも悪くないのかもしれない。
こうして、百合のデトックスを受けた西宮が家に帰る頃には恐ろしいくらいに気持ちが凪いでいた。
「……何故かしら。何もする気が起きないわ」
前回同様、毒物と一緒に人間として大切な感情も排出されていた。
……まぁ、因果応報ではある。
***
そして、シンデレラがそろそろお家に帰るくらいの時間に。
――バサッ!!
ベッドで横になっていた西宮が急に起き上がった。
「何故かしら! 急に活力がみなぎって来たわ。横になっている場合じゃないわね。明日のデートの事を考えなきゃ」
百合がセットしたタイマーは無事に機能していた模様。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます