第227話 パンドラの箱


今日は大変にインテリジェンスが感じられる内容となっており、冒頭から英語が飛び交う。


「わたふぁー」


「ほ、ほわい……」



先ほどの授業で行った英語の小テストが帰ってきた南雲、西宮の両名はエセ外国人と化していた

それもそのはず、今回のテストは中間テスト前の小手調べのような意味合いを持つ。


このテストの結果でだいたい2人の行く末が占えるのだが、結果は――



――0点。



「ど、どうしてこんなになるまで放っておいたの?」


「残念ながらもう……、手遅れだ……」



2人の名前の横には水平線から昇りゆく太陽を象るが如く、

0ぜろの下にはふかふか座布団が引いてあった。


小テストとは言え中々お目に掛かれない現代アートに舌を巻く2名。


暗雲立ち込める芸術家たちは一体何がダメだったのか。

東堂と北条は確認してみる事にした。



***


「……2人とも、英語の何が苦手とかってある?」


「全部!!」


「そら0点だもんな」


「いちいち聞かないで頂戴。解答用紙を見て察しなさい」



何故か堂々と言い張る南雲と、何故か上から目線の西宮。

そんな彼女たちの解答用紙という、開けてはならないパンドラの箱を2人は覗いてみた。



(問)次の英文を訳しなさい。

・Hi Akari, what’s up? 

(解答例:やあアカリ! 調子どう?)



南雲優の解答:

(やあ、あーちゃん。なんで上?)


「知らないよ……挨拶した後にそんな導入で会話に入ることある?」



西宮麗奈の解答:

(こんにちは明里。上ってなに?)


「知らんがな。上は上だろ。お前らの会話には脈絡がねぇのかよ」



この挨拶が分かっていない時点で2人はもう匙を投げたかった。

他のヤバそうな解答も掻い摘んで確認する。



(問)次の英文を訳しなさい。

・It's not so bad after all!

(解答例:結果的にはそう悪くはなかったね!)


これは『after all』というのが『結局』とか『結果的に』という意味なのを分かっていれば簡単に訳せるのだが……


南雲優の解答:

(それは悪くないね。じゃあこっからは徹夜で!)


「徹夜なのになんでちょっと嬉しそうなの!? あー……afterがこの後で、allが徹夜だと思ったんだね……」



西宮麗奈の解答:

(それはとても悪く無く無くない。でも、その後には全て……)


「『無く無くない』て。ややこしい言い方すんな。ほんでバッドエンド匂わせは何なん?」



2人とも前半部分はそれとなく合ってはいる。

そしてこの時点で気づいたのは、2人は単語の意味はかろうじて分かっているのだが、熟語になると壊滅的であるということだ。



(問)次の熟語を訳しなさい。

・hand in hand

(解答例:手と手を取って、協力して)



2人の解答:

(手の中に手)


「いや、そうなんだけども……何これ? ことわざか?」


「直訳すぎるよ……」



(問)次の熟語を訳しなさい。

・day after day

(解答例:日ごとに)



2人の解答:

(明日の次の日)


「せめて明後日って書いてくれ。不安になるわ」


「しかも2人とも解答が一致しているという……」



仕上げは英訳。ここまで最早2人は英訳など出来る訳無いと思いつつも一応確認してみた。



(問)次の文を英訳しなさい。

・わくわくしてきた!

(解答例:I'm getting excited!)




南雲優の解答:

(Very good!!!! Yeah!!!!!!!!)


「パッションが凄いね……『!』マークでゴリ押ししようとしてない?」



西宮麗奈の解答:

(Foooooooo!!)


「病気か? それか何かヤバいクスリやってる?」



そして最後に、あまりにも酷すぎる2人だけに特別措置として、教科担任の情状酌量の余地があった。


その内容は……


(お願い)何でもいいので覚えた熟語を一つ書いてください。



「おい。もう教科担任泣いてるって……」


「問いじゃなくてお願いになってるね……」



南雲優の答え:

(WTF:What the f**k!)


西宮麗奈の答え:

(TKG:Tamago Kake Gohan)



南雲は間違いはないのだが、言葉が汚すぎるのでアウト。

当然、解答用紙には伏字の部分も無修正で記載してある。


そして西宮は論外。そもそも『Tamago』の時点で英語ではない。

英単語が一つたりとて含まれていないあたりが安心の西宮クオリティである。



「どう? 東堂。俺はもう結構お腹一杯だけど」


「そ、そうだね。というか、よく2人とも進級出来たね……」


「何度か追試を受けてたらA~Zまでの英単語を書けたら合格という方式に変わったわ」


「しょ、小学生みたいな扱い受けてない? 2人はそれでいいの……?」


「……まぁー。それも2回くらい落ちたけどねー」


「やっぱ丸女ってすげーんだな。それで、進級出来るんだもんな」



『鉛筆を握れたら合格出来る』と巷で噂の丸女に噓偽りは無かった。


一年の頃は留年だの何だのとビビっていた2人だったが、今や追試を重ねる事が出来ると分かった2人に敵はない。

東堂と北条も彼女たちが勉強しなくても共に進級出来る事が発覚した為、これにて事件は一件落着。

と言うか、もうこれ以上パンドラの箱の中身は見たくない。


後はもう好きなだけ赤点を取ってくれである。


こうして、後に2人は『鉛筆を握れたら卒業も出来る』という生き証人となるのであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る