第226話 本当の”オチ”は一人しか知らない


西宮の記憶を呼び起こす為、彼女と縁のある方々が語る思い出回。

後半戦は特に密接に関わった経験があるメンバーたち。


後半戦のトップバッターである南雲はある事を企んでいた。



⑤南雲優


「西宮さん。過去のやらかしの記憶がほとんどないんだよね?」


「ええ。私はそんなことしないはずよ」


「じゃあ私たちが文化祭の後、お泊り会したの覚えてる?」


「お泊り会をした事だけは、なんとなく?」


「……じゃあ。その次の日の朝――」



その時、ビクンッと西宮の体が動いた。



「あ、あ"あ"あ”、頭がッ……」


過去一の大きな反応に南雲は手ごたえを感じる。


「いまだよ! 茉希ちゃん! トドメを!!」


「任せろ!!」


「あなたたち何をしようとしてますの!?」



⑥北条茉希


南雲からパスを受けた北条は畳みかけるように思い出トークを語る。


「お前、その日の文化祭で俺と出店回った時――」


「あた、あたあた……頭がッ!!」


「ちょっ!? 2人とも麗奈が滅茶苦茶苦しんでるんだけど!? 除霊されそうになってる悪霊みたいな悲鳴上げてるんだけど!?」


「お前のその例えも大概だぞ」



バタバタと悶絶する西宮を東堂は慌てて庇った。

一方、痙攣する西宮を見て確信を持った北条は南雲とハイタッチを交わす。



「いやさ、これが本当にじゃないか炙ってみたんだけど、これは限りなくだろ」


「そうだよ! なんか都合良すぎるし! たぶん、茉希ちゃんもいま西宮さんの㊙エピソード暴露しようとしたんだよね!?」


「い、いや。でも、麗奈の中でそれはトラウマとして刻み込まれて苦しんでるのかもしれないよ……?」


「えー。だってワタシたちなんかもう、オチ見えてるもん」



そこで南雲と北条はこれから起こりうる西宮麗奈という女の行動パターンを東堂以外の部員と顧問に共有した。

東堂は催眠術に掛かっている可能性があるので別途対応との事。



⑦東堂明里


「麗奈。僕が告白したのは憶えてるかな?」


「……憶えているわ。でも、あの時なんで断ったのかが分からないの」


「無理に思い出さなくていいんだ。ゆっくりと時間を掛けて……」


「あーちゃん、時間掛けすぎ。どうせここ茶番なんだから」


「茶番!? まだ僕たちの思い出はまだ序章で、こっから記憶を紐解いて……!!」



と、言う事で東堂の思い出話という小休止を挟んだので遂に大本命大トリが現れる。



百合聡美ひゃくあさとみ


数ある被害者の中でも彼女ほど西宮被害者の会の会長にふさわしい女は居ないだろう。

彼女はゆっくりと胸に手を当てて語りだす。


「西宮さん。思えば私とあなたは入学から色々ありましたね。私の事を初対面で『クソ滑りピエロ』と称したのはきっとあなたが最初で最後でしょう」


「そんな事が、あったんですね……」


「授業中にいかがわしいもので紙相撲を作った結果、それが『百合ひゃくあローター事件』として語り継がれたり、誕生日会と称しあなたに暗室で拉致監禁されたこともありました」


「百合先生……」



改めてまとめてみると内容が凄惨過ぎた。

これには思わず部員たちの目にも涙が浮かぶ。


そんな感動のムードの中、百合は西宮が使っていた催眠用(?)の振り子を出して西宮の眼前で揺らす。

さらに、西宮が所持していた怪しげな本に書いてあった通りの手順で催眠を試みた。



「……でも、そんなあなたでも。私の大切な生徒だから……!」


ウトウトとし始めた西宮を見て百合は振り子を置いて両手を構える。


「西宮さん! 元に戻ってください!!」



――パンッ!!



家庭科室に音がこだました後、ゆっくりと西宮が目を覚ます。



「れ、麗奈!? 大丈夫!? 記憶は!?」


「……あ、明里? ここは……?」



一連の事件を東堂が丁寧に説明すると徐々に意識を取り戻した西宮はポンッと握りこぶしで反対の手のひらを叩いた。



「なるほど。大丈夫よ。私は正気に戻ったわ」


「お、お姉様ぁ……!!」


「麗奈ぁ……!!」



「「「「「「…………」」」」」」 (←東堂と四方堂以外の部員と顧問)



「ふむふむ。つまり、皆は真面目な私よりも茶目っ気たっぷりのいつもの私が大好き、と……」


「もちろんですわ! おかえりなさいませ、お姉様!!」 


「みんなも凄く心配してたんだから!! そうだよね?」



「「「「「「…………」」」」」」 (←東堂と四方堂以外の部員と顧問)



一部の部員たちとの間で、ものすごい温度差が発生していた。

ここにガラスがあったらヒビが入っているかもしれない。



「……ね。言ったでしょ? たぶんこれでこれ以降、真面目になるとみんなが心配するから……とか言い出すんだよ。この女は」


「はー。しょーもな。丸一日西宮の茶番に付き合わされたわ」


「ど、どうしましょう……私、もう西宮さんを信じられないかもしれません……!」



予想したオチ通りで呆れムードの中で百合だけは真剣に悲しんでいるのが痛々しかった。

そんな不憫な彼女は更に後日、『催眠教師』という風評被害を受けるのはまた別のお話。
















***


「テストの偽装ご苦労様」


事が終わった西宮は仕掛け人の万里の元へと訪れていた。


「この間の聡美ちゃんの手料理を食べさせてくれたお礼だよ」



万里の診断で西宮の計算テストの点数が良かったのは、前もって打ち合わせをしていたからだ。

事前に途中式と解答を暗記しておき、あたかも解いたかのように見せていた。



「しかし、こんなことをして意味があったのかは謎だけどね」


「ふふふ。でも、これで真面目にやらなくて良い免罪符を得たわ」


「そうかい。よくもまぁそんな事の為に一日真面目にして大変だったね」


「それが、なんというか。あんまり苦ではなかったというか、あっという間に放課後になっていたのよね」



「…………ん?」



「まぁ、望む結果になったのだからいいわ。それじゃあ、また何かあったら頼むわね」



そう言って去っていた西宮。

僅かな違和感を感じて計算テストの解答をもう一度見ようとしたのだが……



「あ、あれ……? 私、渡すテスト間違えて……」



机からは別のテスト用紙が出てくる。

それは本来西宮に渡すはずだったテスト用紙。


「お、落ち着け。まだ焦る時間じゃない……」


冷や汗を流した万里はもう一度、西宮が提出した解答用紙を見る。



――それは、難しく作り過ぎて没案にしたテスト用紙だった。



答え合わせの際、どうせ合ってるだろうからとよく見ずに丸を付けていたが再度確認をしてみる事に。


……恐ろしい事にサラッと見る限りは全問正解していた。



「えーっと……そうだ。よし。あの本は燃やそう」



こうして万里は人知れず、おそらく禁書であろう

『よくわかる催眠術!! 誰でも2秒で爆睡 ~入門編~』

を回収しに行くのであった。



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